パリ、恋のエトセトラ

「男を落とすなら胃袋つかめ」は、パリジャンに通用しない。

料理上手な女性はモテる。白目剥いててもモテる。

日本にはそんな風潮があります。

風潮というか、それは単純な事実であるのかもしれません。いささか古くなってしまった感のある「女子力」、もはや呪いのようでもある「家庭的」という言葉には、当然のように「料理上手」が含まれています。そして実際、日本人男性に「料理が好きだよ」「家では料理するよ」と言うと多かれ少なかれ好感を示されます。「そうなんだ、ちゃんとしてるね」「どんなの作るの? 今度食べに行きたい」みたいなこと、言われるはずです。5カ国語話せるって言っても、ギネス記録保持してるって言っても、ここまでの反応はないというくらいです。
別に料理ができるからってちゃんとしてるってことはないし、「今度食べに行きたい」っていう戯言は当然聞かなかったことにしなければいけません。でもこれらが全部、女性に対する好感なのは事実なわけです。

170921_paris_etc_01.jpg

さて、そんなことでフランスにやってくると、日本人女性の多くはやはり「地球に住まわるすべての男は料理上手な女が好き」ってもうミトコンドリアに刷り込まれているのではないかなと思う出来事が多々あります。私もいまになって振り返ってみれば、フランスにくる前は例に漏れずそう思っていたフシがあるかも。恐ろしいですね。

しかしフランスでは日本人男性のように「女の子の手作り料理」に感動する男性なんてみたことありません。いや、そりゃあ喜ぶには喜ぶんでしょうが、まったく度合いが違っているし、「えっ料理得意なんだ、意外と女の子らしいんだね!」みたいな、相手の印象がまるまる好転するような事柄ではありません。女性が料理を作ってくれればそれは「親切」であり、料理上手であればその人には料理をうまく作る「能力」があるというだけです。

その違いに気がつかないまま、あるいは気づいているけど気づかないふりをしてフランス人男性と付き合ったり結婚したりすると、何かが噛み合わなくなりうまく走れなくなる人もでてきます。毎日おかずを何品も作って栄養バランス考えて、いろどりもキレイにしなくちゃ、献立は変化を持たせて、あの人のために2人のために毎日毎日毎日、やればやるほど愛されて大事にされて2人の関係はよくなるはず、だった、なのにある日突然「君はセクシーじゃなくなった」とか言われてしまう。

日本人にとってはきっと、誰かのために時間と労力をかけて料理することは愛なのだと思います。昆布をかんぴょうで縛ってコトコト煮たり、大根をせっせとすりおろして卵焼きに添えるのは愛なのです。
でもフランス人はそんなこと理解しません。毎日夫のために何品もの凝ったおかずや弁当を作っている日本人女性が目に見えて雑に扱われていく様子や、買い物して彼の家に行って料理したのに何だか反応がいまいちだったと傷つく女の子を、多少の違いはあれど何だか似たり寄ったりのそんな状況を、いくつも見たことがあります。

はっきり言えば、フランス人男性は女性が毎日凝った料理を作ってくれるよりも「セクシーでいてほしい」と思っています。日本人男性がこれほど「手作り料理」に何か特別な、ファンタズムのようなものを見ているのはやはり多かれ少なかれセクシーであるよりもホッとさせてくれる「お母さん」を求めているからでしょう。しかし女性の方も「男性はみんな料理上手な女の子が好き」という思い込み以上に、「男性は料理上手な女の子に弱い生き物であってほしい」という願いが強くあるのでは、という気がするのです。料理は容姿も学歴も関係ない、努力でどうにかなることだから。それに、女の子は料理ができなければいけないと呪いをかけられて育ってきたから。

「男は胃袋さえつかめばOK」

そんなおばあちゃんの知恵袋が日本ではまだ天下無双のエクスカリバー、ひと振りで敵をバッサバッサみたいな最強の武器であると信じられていますが、ひとたびフランスの地を踏んだなら別の武器で戦わなくてはいけません。刃こぼれします。最悪なのは相手に喜んでもらおうと尽くした結果、価値を低く見積もられてしまうこと。どんどん要求され、どんどん扱いが悪くなります。
料理なんて、はっきり言って「ボウルに山盛りチキンサラダ」だけでOKです。日本で夕食にサラダだけ出したら1時間正座させられるのかもしれませんが、フランスだと普通に「作ってくれてありがとう!」と礼を言われます。ついでに「このソースはすばらしいね!」などと褒められたりもするし、何ならレシピを聞かれたりして「トラップか」と身構えることさえあります。

大切なのは楽しい食卓を囲むこと。雰囲気が和やかで、会話が楽しくて、そういうひとときを過ごすことが重要なのです。

シロ

パリの片隅で美容ごとに没頭し、いろんな記事やコラムを書いたり書かなかったりしています。のめりこみやすい性格を生かし、どこに住んでもできる美容方法を探りつつ備忘録として「ミラクル美女とフランスの夜ワンダー」というブログを立ち上げました。

パリと日本を行き来する生活が続いていますが、インドアを極めているため玄関から玄関へ旅する人生です。

ARCHIVE

MONTHLY

Business with Attitude
Figaromarche
airB
言葉の宝石箱
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories