南インド拠点のアーティストが見つめる、世界の様相。

Culture 2017.04.13

『N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅』

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『ここに演説をしに来て』(部分)2008年。見飽きることのない群像の中にフリーダ・カーロやバットマンも。

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『ネイションズ(国家)』2007/2017年 展示風景:『N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅』森美術館、2017年。子どもの本を参考に描いた国連加盟国193の国旗の絵と、同じ台数の足踏みミシンを組み合わせた。

 近年、急速な経済成長や都市化が進むインドの社会。美術の分野でも、インドの作家たちの独特な哲学や世界観は、世界から刮目されている。そのなかでも、1969年生まれのN・S・ハルシャは泰然として揺らぎない立ち位置からグローバル社会の様相を俯瞰し、自身のビジョンを表現してきた。
 南インドの古都マイスールに生まれたハルシャは、世界各地の国際展に招かれて作品を発表しながら、いまも同地に拠点を置いて活動している。南インドの伝統文化や自然、動物や植物との関係といった、日々自らを取り巻く「生」と向き合うことが創作の源泉なのだ。名もなき人々からアメコミのヒーローや現代美術のスター、インドの神々や動物まで、おびただしい数の生きものたちが、時には愚かで滑稽な振舞いを見せながらも等価値で存在するハルシャの作品は、一見牧歌的でわかりやすい。遠目に眺めれば抽象的な模様にも見えるその宇宙は、近づけばそこに個々の生の営みがしたたかに息づくことを気付かせ、観る人の心にそっと押しつけのない寓意性を滑り込ませる。ただ、そこに深い思想がなければ、複雑な世界の構造を誰にでも理解できるように解きほぐすことはできないだろう。混沌とした現代の世相を絹のスカーフの絵柄のように美しく図解してみせるハルシャの作品世界は、視点の遠近を変えることの大切さを教えてくれる。インドの多文化主義に培われた「生の価値」の絶妙なバランス感覚が、多様性のある社会とは何かを問いかけてくる。やさしそうで油断のできない作品だ。

『N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅』

会期:開催中~6/11
森美術館(東京・六本木)
営)10時~22時(火は~17時)
無休
料)一般¥1,800

●問い合わせ先:
tel:03-5777-8600(ハローダイヤル)
www.mori.art.museum

*「フィガロジャポン」2017年5月号より抜粋

réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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