フィガロが選ぶ、今月の5冊 クラシック音楽をめぐる、体験を描いた50の断章。
Culture 2017.05.03
『音の糸』
堀江敏幸著 小学館刊 ¥1,728
美しい装丁を裏切らない一冊だ。上野動物園で泣いていた女性に突然押し付けられた2枚のチケット。20年以上聞き続けた日曜朝のFM放送。クラシック音楽をめぐる体験を描いた50の断章は、出合いがしらの偶然に満ちている。限られたお金で真剣に1枚のアルバムを選ぶか、あとはラジオに耳を傾けるしかなかった学生時代、音楽とは、そうした偶然の恩寵のようなものだった。だからこそ当時の著者自身の記憶の呼び水になるのだろう。詩的な言葉で綴られた一編一編は、 短くとも、まるで掌編小説のような余韻を残す。著者にとって初の音楽エッセイ。
*「フィガロジャポン」2017年5月号より抜粋
réalisation : HARUMI TAKI