ロジャー・ディーン一家が、未来に贈るメッセージ。

インタビュー

ロジャー・ディーンとその家族が、日本で初めての展覧会を開催!

1970年代より、イエスやエイジアなど、数多くのプログレッシブ・ロックのアルバムでアートワークを手がけてきたことで名高い英国の画家ロジャー・ディーン。70歳を過ぎたいまも旺盛な創作意欲で、世界中のコレクター垂涎の作品を世に送り続けている。そのディーンと彼の母、妻、娘の4人展が開催中だ。そこで来日中のロジャーに話を聞いた。

170426_dean_01.jpgロジャー・ディーン(左)と娘のフレイヤ・ディーン(右)。

本展でのロジャー自身の出品作はいずれも大作で、ロックファンの胸を熱くした時代からまったくブレがない。豊かに生い茂る樹木や島々が遥か霧の彼方へと続く悠久の世界。そこには翼竜や怪鳥が跋扈し、生きものたちの蠢く気配と霊感に満ちている。父親が英国軍のエンジニアであったため、キプロスや香港などを転々とする少年時代を過ごした彼は、とりわけ中国の風景と絵画に大きな影響を受けたという。

「子どもの頃、中国で見た雄大な風景とそれを描いた水墨画に夢中になりました。東洋の文化すべて、なかでも日本の木版画に魅了されます。北斎の浮世絵はもちろん、明治以降に版元・山田芸艸堂が継承してきた近代の木版画のコレクションにも影響を受けました」

170426_dean_02.jpgロジャー・ディーン『GREEN PARROT ISLAND2013年 

彼の風景画の特徴に、中国の庭園を思わせる奇岩や古木の連なりや、ぼやけていく遠景の描写などがある。これは現実にある風景なのか、それとも幻の風景なのか。

「いや、僕は決してエイリアンの世界を描きたいわけじゃないんです。たとえば大気圏をグラデーションで描く表現はカリフォルニアの海岸からヒントを得ているし、あるいはこの岩はスコットランドの風景からアイデアを得ている。それぞれが世界のどこかに存在し、観る人の魂を刺激して、探しにいきたくなる風景であればいいと思っています」

>>UKアーティストのアルバムアートワーク制作、シド・バレットとの同居……ロジャーにとっての70年代。

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UKアーティストのアルバムアートワーク制作、シド・バレットとの同居……ロジャーにとっての70年代。

彼の代表作のなかでも、イエスの音楽性と完全に共振する幻想的なグラフィックイメージは世界的に高く評価され、一時はイエス第6のメンバーとも呼ばれたほどだった。1970年代とは彼にとってどのような時代だったのだろうか。

「ふたつのことが同時に起きていました。権力や体制に対抗するカウンターカルチャーと、機械文明に導かれる未来への展望が共存し、精神性と物質性が手を取り合ってよりよい世界をつくろうとしていた時代といえるでしょう」

170426_dean_05.jpgロジャー・ディーン『BLIND OWL LATE LANDING2012年

彼がデザインしたイエスのロゴはとてもサイケデリックだったが、アルバムジャケットの絵画は生きとし生けるものにとってあるべき理想郷の視覚化のように思えた。ロジャー・ディーンの存在はイエスの活動にとってある意味メンター(指導者)だったのだろうか。

「それはちょっと違うかな。彼らと僕は楽曲のクリエイションに入る前にアイデアを出し合いました。だいたいアルバムが仕上がる前にはグラフィックは完成しています。そういうコラボレーションがごく自然に起こる時代で、とても居心地のよい関係だった。みんなが世界を変えられるという気概を持っていたはずです。ミュージシャン、アーティスト、皆それぞれの方法で新しい世界の創造に寄与しようとしていたんです」

まさに胸躍らせるクリエイティブな時代だったことがわかる。一時期、元ピンク・フロイドのシド・バレットと同居していたというが、どんな(壊れた)生活だったのか気になる。

「シド『と』暮らしていたんじゃなくて、彼『が』家にいたんだ(笑)。友だちが集まっているときに誰かが招いたんだろうけど誰も覚えていない。バンド(ピンク・フロイド)とうまくいっていなかったころで、2カ月くらいいたかな。ある朝、牛乳の集金が来て、ドアが開くとそこに素っ裸のシドが立ってたから、ミルクマンは怯えて、また来ますといって帰ろうとしたんだけど、シドはお金をつかんで裸のまま彼を追いかけていった。そんなことが不思議でも何でもなく起こる時代だったけど、カオスとは思わなかった。僕はドラッグもやらなかったし、自分の規律をもって創作に集中していたから」

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アマンダ・ディーン『Waterbourne Women Know How to Float』1997年

>>ロジャーよりすごいアーティスト!? 娘フレイヤのクリエイション。

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ロジャーよりすごいアーティスト!? 娘フレイヤのクリエイション。

ロジャーが「もしこのころに生まれていたら、僕よりも時代の精神に近い感性をもっているからすごいアーティストだったはず」という娘のフレイヤは現在、東京に拠点を置いて活動している。
1987年生まれの彼女は、4つの大学で芸術・科学・法医学や医療史を修め、法医学復顔(白骨化した頭蓋骨から生前の顔を復元する技術)や外科研修医の実習用擬似身体部位の作成といった分野で研究を続けている。こうした経験が近年手がけるオペラの衣装、ゲームキャラクター、アルバムカバー、医療博物館やアートスペースのデザインに生かされている。

170426_dean_03.jpgフレイヤ・ディーン『Anima Calendar

「まさか医学の分野にいくとは、フレイヤは変わっているでしょう(笑)。最初の指導教官が、郊外の小さな大学だったけれど、よい方向性を示してくれました。フレイヤの中にも自身の規律があって、芸術と科学の両方向から身体性、生態系、生命の循環といった自然のシステムにアプローチしています」

「うちの家族自体がかなり変わっているんです(笑)。子どものころから食事のとき普通に哲学や政治のロジスティックなことやリアルな話が交わされていました。芸術的な環境で育てられたことを感謝しています。18歳の誕生日に両親から航空券を贈られて、もともと東洋の文化に関心があったので日本を訪れたのがきっかけです」とフレイヤ。

本展の会場となる建物の一角には、彼女が子どもたちにアートと英語を教える小さな美しいアトリエが設置され、仕事をしながら、日本古来の神話や伝説とその自然観について研究している。

170426_dean_07.jpg会場に設けられたフレイヤのアトリエ。

すべての生命がつながりあう——ディーン一家のブレのない世界観。

自然の風景と東洋文化を愛するディーン一家が選んだ本展のテーマは「アニマ・ムンディ 〜世界の魂〜」。これは道教からヒンドゥー教へ、 プラトンからスピノザに至る、東洋と西洋の哲学史を通じて受け継がれる考え方で、「生命のひとつひとつが独自の魂を持ち、すべての生命がつながりを持つ世界のイデア、その全体を表現したい」という彼らの想いが込められている。
4人の画家が描いた自然界のイメージには、森羅万象あらゆる生命がつながりあうアニミズム的世界観が色濃く満ちている。

「この世界のあらゆる事物には魂が宿るという東洋の哲学にもとづくテーマです。1970年代から現在を通観してみると、精神性と物質性が結びつき、よりよい未来を目指してきた世界はどうなったでしょうか。環境、医療、貧困、人口増加、土地や農業の問題。成功したといえるのは人々が利己的な欲望と野心を実現するための矮小化された手段だけで、何も成果は現れていません」とロジャーは語る。

かつてロジャーらが手がけたプログレッシブ・ロックのアルバムには心理的なアートワークが多く見られ、なかでも彼の描いた“夢”は、イエスのみならず当時の時代精神を具現化していた。時空を超越したその世界観は、既成概念や合理性を取り外し、意識の外にある超現実をひらいてみせるという意味で魔術的だった。
そして現在、ロジャーとその家族の絵画へのアプローチは、この不安定な世界の危機的状況を占う水晶玉であり、世界が取り戻すべき自然と人間との信頼関係を示していた。

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『アニマ・ムンディ〜世界の魂〜』
期間:開催中〜5月19日(金)
会場:
コートヤードHIROO 3F ガロウ
東京都港区西麻布4-21-2
開)12:00〜19:00
休)日
入場無料

Roger Dean
1944年、英国生まれ。カンタベリー・カレッジ・オブ・アートで学び、1965年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートの大学院へ進む。ガンのアルバムのカバーデザインを手がけたことをきっかけに、イエスやエイジア、ピンク・フロイドなど名だたるアーティストのジャケットや、舞台セットデザインに携わる。作品はヴィクトリア&アルバート博物館をはじめ多くのギャラリーや美術館に収蔵される。娘のフレイヤとは2007年よりコラボレーションを行い、プッチーニ生誕150周年のセットおよび衣装デザインなどを制作。
http://gallery.rogerdean.com

interview et texte : CHIE SUMIYOSHI

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