編集KIMのシネマに片想い

編集KIMのシネマに片想い

LGBT映画は名作ぞろい!でも、昔からです。

編集KIMのシネマに片想い

こんにちは、新コーナーを担当します、フィガロ編集者歴、約20年の編集KIMです。

シネマに片想い――意味不明なタイトルですよね!

同じ作品を何度観ても新しい発見があって監督の意図をつかみきれていない自分に気づいたり、仕事が忙し過ぎてすごく観に行きたいのに見逃す映画があったり、インタビューのさなかに質問の意図が伝わりきれていないなあ、と焦ったり……私の映画への想いには、どこか切なさがそこはかとなく漂って、ちょいと「片想い」な気分に似ているのです。なので「シネマに片想い」。

初回は、今年何かと話題になっているLGBT映画についてです。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー。頭文字でLGBTと呼ばれてます。

あえてこのジャンル目指して観る人も多いと思います。けれど、ストーリーのフックとして、ボーダーラインを生きる登場人物にフォーカスする映画は、心にどしんと響く作品が多いのです。今年は名作揃い、と言われていて、『キャロル』のケイト・ブランシェットやルーニー・マーラ、『リリーのすべて』のエディ・レッドメインが、米国アカデミー賞の女優賞・男優賞にノミネートされたことも、みなさんの記憶に新しいと思います。

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女同士の恋愛とはいえ、恋に落ちるということをここまでストレートに描かれると思わず共感してしまう『キャロル』。ルーニー・マーラが初めてケイト・ブランシェットを見た時、全然関係ないですが、『ハチクロ』(こちらはLGBTではありませぬ)の予告編で加瀬亮が言う「人が恋に落ちる瞬間を、初めて見てしまった」というセリフを思いだしてしまいました。ラストシーン、手放した恋人、マーラの姿を見とめる年上の女ブランシェットの恥じらいと喜びと少々の傲慢さの入り混じった表情。恋愛の交歓を見た気がしました。

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『キャロル』●監督/トッド・ヘインズ ●出演/ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ ●2015年、アメリカ映画 ●DVD&Blu-ray 8/26発売 DVD¥4,104 発売・販売:KADOKAWA
 © NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

 

女になりたいと願う夫を見守る『リリーの~』のボタンを掛け違えたように愛し合う夫婦も、不器用な悲しみがあって素敵です。こちらでは『私の愛情の対象』という元ブラピ妻のジェニファー・アニストンがゲイの友人に恋をしてしまい、叶わぬことに素直に泣くところを思いだしてしまいました。KIMの勝手な脳内リンクです!

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『リリーのすべて』●監督/トム・フーパー ●出演/エディ・レッドメイン、アリシア・ヴィキャンデル ●2015年、イギリス映画 ●Blu-ray & DVDセット 9/7発売 ¥4,309 発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント Ⓒ2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

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さて、ここから過去のオススメ作品へ。

『トランスアメリカ』。LGBTの良質作品は、俳優陣が各映画賞にノミネートされるものがとても多い! これも、主演の女優フェリシティ・ハフマン(「デスペラートな妻たち」)が、「男性が性転換して女性になった」役を演じてます。つまり女性が「男⇒女」になった人を演じたわけです。キャスティングされた時、どんな気持ちだったでしょうね……。別れた妻との間の息子が、ゲイとなって、父親である自分の前に現れ、生意気ながらに頼ってきます。母性?父性?どちらが芽生えてるの?という複雑な心境を演じるハフマンの名演技です。ふたりでアメリカを旅するロードムービー。家族のカタチって決まりなんてないし、「人は人と一緒に生きなければならないんだ」というシンプルでストレートなメッセージをぶつけてくる作品です。コメディ風味でとても面白い。なのに、最後にじわんと涙が流れる映画です。

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『トランスアメリカ』 ●監督/ダンカン・タッカー ●出演/フェリシティ・ハフマン、ケヴィン・ゼカーズ ●2005年、アメリカ映画 ●DVD¥4,104 発売・販売:松竹 ©2005 Transparent Films LLC

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『クライング・ゲーム』と『モナリザ』。いつのまにか、職業的に映画を撮るようになってしまった(気がする)ニール・ジョーダン監督の作品ですが、この2作には本当にハート射ぬかれました、特に『モナリザ』! 人間の本能的な格差を見せつけられる映画です。職業の差、美醜の差、愛情の度合いの差。美しい高級娼婦にじんわり恋心を抱くチビの男。彼は、愛する彼女が探している行方不明になってしまった妹分の娼婦を見つけようと、懸命に尽くします。しかし、美しい女は男の愛情を利用して、彼女が恋し愛する妹分の娼婦を取り戻す――。まさか自分の恋焦がれる女がレズビアンとは知らずにプライドまでずたずたにされる男。ラストシーンのボブ・ホスキンスの表情が目に焼き付けられます。結局、多く愛したほうが負けなのか……それは、美しい高級娼婦も同じなんですよね。

 

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『モナリザ』 ●監督・共同脚本/ニール・ジョーダン ●出演/ボブ・ホスキンス、キャシー・タイソン、マイケル・ケイン ●1986年、イギリス映画 ●DVD¥3,240 発売:アイ・ヴィー・シー 
© MCMLXXXVI Handmade Films (1985) Partnership

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『クライング・ゲーム』は政治色も強くて、男の友情も描かれ、そこがこの映画の真骨頂ではあるのですが、脇を固める歌姫役がすごくいい。ボーイ・ジョージの「クライング・ゲーム」にのせて、歌姫(実は男)は、政治的使命に生きる男性に恋します。他者を庇い、庇われ、支える関係とは。それが人の生きがいにもなるのかもしれない、と爽やかなラストの1本。

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『クライング・ゲーム』 ●監督・脚本/ニール・ジョーダン ●出演/スティーヴン・レイ、フォレスト・ウィティカー、ジェイ・デヴィッドソン ●1992年、イギリス映画 ●DVD¥4,104 発売・販売:カルチュア・パブリッシャーズ
ⒸPalace(Soldier’s Wife)Ltd. and Nippon Film Development & Finance Inc. 1992

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『ブロークバック・マウンテン』。アン・リー監督が米国アカデミー賞の監督賞を受賞しました。KIM、たまに映画が終わった時に、腰が抜けるくらい感動して、立ち上がれないことがあるのですが、まさにこの作品はそのひとつ。(いつか書きますが、イ・チャンドン監督『オアシス』、ダーレン・アロノフスキー監督『レスラー』などもそう)『キャロル』同様、時代のタブーを恐れた男性同士の愛の物語です。透明感のある音楽がジェイク・ギレンホールと故ヒース・レジャーの愛のピュアネスを包み込み、広がる山々の景色は愛し合うふたりのことを何者も裁けない美しいものとして捉えていることを表しています。でも、皮肉にも「人と人」が交わる都会に降りてくると、愛する心の純粋さを誰も見ようとしないし、ましてやふたりの男もそれを見せようとしない。そんな中で起きる事件によって男たちは引き裂かれます。その先の人生において、「心の中に居る誰か」を思い続けることが、どんなに生きて行く上で不都合でも、愛に引きずられてしまう人は、そこから逃れられない。そんな重荷を背負う人生について、いかにも真っすぐに、正しく伝えてくれる映画です。

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『ブロークバック・マウンテン』●監督/アン・リー ●出演/ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホール、アン・ハサウェイ、ミシェル・ウィリアムズ ●2005年、アメリカ映画 ●Blu -ray ¥2,037 発売・販売:NBCユニバーサル・エンターテイメント
Ⓒ2005 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

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最後に日本未公開新作から……『彼方から』。

7月に表参道のスパイラルホールで行われていた第25回レインボー・リール東京~レズビアン&ゲイ映画祭にて上映された作品です。2015年ヴェネツィア国際映画祭にて最高賞の金獅子賞を受賞した映画。KIMの脳内リンクでは、パトリス・ルコントの『仕立屋の恋』(これはLGBT映画ではありません)を思い起こさせる映画でした。「眺める」だけで恋はじゅうぶん熟する、という初老の男性の、若い青年に向けた想い。映画は静かに静かに進むのですが、眺めることから、実際的な関係に深く重くシフトしていくにつれて、悲劇的な展開を迎えます。父と息子の関係が男同士の愛に影響を及ぼす過程も面白かった。暑いはずの南米が、乾いた空気感で描かれる秀逸な1本です。

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『彼方から』 ●監督/ロレンソ・ビガス ●出演/アルフレド・カストロ ●2015年、ベネズエラ・メキシコ映画 ●日本公開未定

 

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