Music Sketch

音楽も心を熱くする映画『マイ・ベスト・フレンド』

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前回も書いたけれど、映画『マイ・ベスト・フレンド(原題:Miss You Already)』(11月18日公開)がとても良い。ドリュー・バリモアの出演作がどれも好きな私は、友情の話なら彼女が初の長編映画監督をして出演もした『ローラーガールズ・ダイアリー(原題:Whip It)』(2010年日本公開、エレン・ペイジ主演)が強く印象に残っているので、そういう楽しめる映画かと思っていたら、これは違った。もちろん楽しめる部分もあるが、心への響き方が違う。映画を観に行く時はできるだけ情報も先入観も持たずに席に座るようにしているので、試写室で資料に目を落とした時に、乳がんをテーマにした映画だと知った。

監督はキャサリン・ハードウィッグ。『トワイライト〜初恋〜』(2008年)や『赤ずきん』(2011)なども観ているが、どちらかというと、私が大好きな映画監督のリチャード・リンクレイターやキャメロン・クロウなどの作品のプロダクション・デザイナーを務めていたことから気になっていた女性監督だ。そもそもこの『マイ・ベスト・フレンド』は脚本家のモーウェナ・バンクスによって(本人も乳がんを患ったそう)、2013年10月にBBC Radio4で『Goodbye』というタイトルでラジオ劇として放送されている。それがその後、映画用に手を加えられて本作品になったようだ。今回バンクスは脚本と製作総指揮を担当、そのためハードウィッグ監督など女性が中心となって製作されたことは、丁寧に作られたスクリーンからしっかり伝わってくる。

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(写真左から)ジェス(ドリュー・バリモア)とミリー(トニ・コレット)。

■シーンに流れる曲の歌詞が字幕に出て、さらに感情移入

冒頭のシーンについてはネタバレになるので省略し、ストーリーはジェス(ドリュー・バリモア)がアメリカからロンドンの小学校へ転校してきて、ミリー(トニ・コレット)と出会う1986年からスタートする。ハチャメチャな学生時代を共に過ごしつつ、結婚、出産と常にジェスより先を行くミリーの人生がジェーンズ・アディクションの「Been Caught Stealing」*に乗って紹介されていく。

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両手を上げているミュージシャンのキット(ドミニク・クーパー)と結婚式を挙げるミリー。

曲が流れるシーンを紹介していくとストーリーがバレてしまうので、書きづらいけれど、ミリーが退院して会社に復帰するシーンから再診するまでを、バンド・オブ・スカルズの「I Know What I Am」を流しながら一気に見せる場面には引き込まれるし、ミリーとジェスがタクシーに流れるR.E.M.の「Losing My Religion」を聴きながら小説『嵐が丘』の舞台のハワースへと疾走していくシーンは、『テルマ&ルイーズ』を想起させる。

他にもサラ・ジャクソン・ホルマンの「When You Dream」やモービーの「Almost Home」、ブロークン・ベルズの「Leave It Alone」、オーパス・オレンジの「Almost There」の流れるシーンなど、既存曲の使い方がうまい。キャメロン・クロウ監督にインタビューした時に、そのシーンに流れる楽曲を先に決めて、その曲を流しながら撮影することもあると話していたけれど(ソフィア・コッポラもそう)、キャサリン・ハードウィック監督も歌詞とシーンをリンクさせていく手法はとても似ている。日本版では字幕に歌詞を和訳で掲載しているので、なおさら映画の世界に入りやすくなっている。素敵な心遣いだ。

参考:キャメロン・クロウ監督へのインタビュー
https://madamefigaro.jp/culture/series/music-sketch/post-1086.html

Miss You Already Official International Trailer #1 

■撮影にインスパイアされた曲を、そのシーンに採用

もちろん、書き下ろしの曲も多い。ハードウィッグ監督は主演のトニ・コレットの夫であるミュージシャン、デイヴィッド・ギャラファシーがこの映画のために曲を書いたと聞き、トニが歌い、夫婦で共演しているその曲「HELLO HALO (Cooper Todd Remix)」を、なんと浮気のシーンに使っている。

人気ロックバンド、オール・アメリカン・リジェクツのヴォーカル&ベース奏者で、モデルや俳優としても活躍するタイソン・リッターも、演技に加えて音楽でも参加。バーの地下室での意味深なシーンを撮影し終わった後、1年半ほど曲が書けないスランプに陥っていたのに、突如曲が閃いて「There’s Place」を完成。そして、実際にそのシーンに使われた。

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結婚したキットはバンドをやめて会社をはじめ、家族思いの父親に。

また、監督はバラードの名手であるダイアン・ウォーレン(映画の主題歌となったセリーヌ・ディオン「Because You Loved Me」、やエアロスミス「Miss A Thing」、シェール「You Haven’t Seen The Last Of Me」をはじめ多数)と親友だそうで、映画のラフを見た段階でウォーレンが書き下ろした2曲も採用。そのパロマ・フェイスが歌う「The Crazy Ones」とラビリンスが歌う「What We Leave Behind」(日本版では省略)も情感を加えていて、さらに前者のメロディを活かして、音楽担当のハリー・グレッソン=ウィリアムズが「Goodbye」という曲を完成させて、より感情移入しやすい流れを生み出している。ハリー・グレッソン=ウィリアムズは『シュレック』のシリーズ4作や『ナルニア国物語/第1章ライオンと魔女』でゴールデングローブ賞を受賞しているほか、リドリー・スコット監督作品で知られる音楽家だ。

Paloma Faith - The Crazy Ones (Miss You Already Soundtrack)

サウンドトラックの1曲目は、ジョーン・ジェットが映画のために書き下ろしたジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツ「Miss You Already」。日本版ではエンドロールの最後には平原綾香さんの「STAR」が流れるので、オリジナル版で一番最後に流れる「What We Leave Behind」と合わせて劇場では聴けない。エンドロールの2番目にこの陽気なテンポのロックナンバーが流れてきたら、この映画の余韻はまた違ったものになったのだろうか。ジョーン&ザ・ブラックハーツの曲は劇中では「Crimson & Clover」*が使われている。

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『Miss You Already』(輸入盤) 名曲揃いのサウンドトラック。文中に*印をつけたジェーンズ・アディクションなどは収録されていないので注意。
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■シリアスなだけではなくポジティヴで笑える要素も

女優であり、自由奔放に生きる母親をどこか嫌いつつも、そのDNAを認めざるを得ないミリー。そして女である部分を失いたくない、どんな時も美しくありたいと切に願い、セックスを楽しむミリーは実にチャーミングだ。トニ・コレットは闘病しながらも自分自身らしさを失いたくないという難役を、アニー・レノックスを彷彿させるスキンヘッドで熱演する(主演女優賞を受賞するのではと思えるほど)。

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ようやく妊娠し、喜ぶジェイゴ(パディ・コンシダイン)とジェス。

一方でクスッと笑えるシーンも多く、それは脚本家のモーウェナ・バンクスが元々コメディ番組で女優として活躍していたこと、そしてミリーの母親役のジャクリーン・ビセットやドリュー・バリモアに依る部分もかなりある。トニ・コレットの主演は早くに決まっていて、バリモアの役は最初レイチェル・ワイズが予定されていたとネットに載っていたけれど、レイチェル・ワイズが演じていたら、また別の雰囲気の作品に仕上がっていたのでは。この映画はセンシティヴでシリアスなテーマを扱った映画だけれど、ドリュー・バリモアの登場でエンターテインメントとしてのバランスが絶妙に取れているのも良かったと思う。

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実際に撮影を通してトニ・コレットとドリュー・バリモアは親友となるほど親しくなったそう。

私が観た試写室では、女性だけでなく、男性も涙腺を熱くしていた。私自身、後輩を乳がんで亡くしているので、こういった内容の映画をどう紹介したらいいのか悩むけれど、約2時間の中には女友達の友情だけではなく、彼女たちの夫同士の関わりや家族の話など、リアルな話が濃縮されていて学ぶことはとても多い。そして、途中で出てきたセリフのように、どうせ生きるのならポジティヴに「人生をもっと楽しもうよ」と思ってしまった。私は最初から泣けるとわかってしまう映画には行きづらい方だけれど、この映画は「人生や人って素晴らしい」と思わせてくれるエピソードがたくさん詰まっていて、絶対また見てしまうと思う。

映画『マイ・ベスト・フレンド』予告編(日本版)

ちなみに原題の意味は「(今別れたばかりなのに)もう会いたくなっている」。低予算ながら切実な願いを込めて完成させたというインディーズ映画、この作品を観て、最後までこの記事を読んでくれたあなたにとってひとつでも何か心にプラスになるものがあれば、と願っています。

『マイ・ベスト・フレンド』
11月18日(金)TOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
配給:ショウゲート
【出演】トニ・コレット、ドリュー・バリモア、ドミニク・クーパー、パディ・コンシダイン
【監督】キャサリン・ハードウィック
【公式サイト】http://mybestfriend.jp/

*To be continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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