Music Sketch

映画『NERVE/ナーヴ』は音楽でもゲームを煽る

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私は近未来を扱った映画が好きだけれど、近年のテクノロジーの進化で“近未来”が“現在”に急接近し、この映画『NERVE/ナーヴ 世界で一番危険なゲーム』も今にも起こりうるような世界を描いている。時間に追われる題材は『TIME/タイム』(2012年公開)を想起させ、生き残りをかけた戦いは『ハンガー・ゲーム』(2012年)の現代版と呼べそうだが、何しろスマートフォンを片手に展開されるゲームだけに、見ているだけでも擬似参加型ゲームのようにリアル感が増す。

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挑戦者のヴィーのスマホに、「このドレスを着たら500ドル獲得」といった「挑戦」がクリアするごとに送られてくる。

■ 影の主役はスマホ? 現実に起こり得るような危険なゲーム

主人公のヴィー(エマ・ロバーツ)は、写真の勉強がしたくてカリフォルニア芸術大学に合格したものの、内気な性格ゆえ、ニューヨークのスタッテン島にある実家を出たいと母親に言うことができない。しかも友人のシドニー(エミリー・ミード)が、ヴィーが想いを寄せているJ.P.(ブライアン・マーク)にヴィーの気持ちを勝手に告げてしまい、ヴィーはみんなの目の前で振られてしまう。そして、そのショックの反動でNERVEというインターネット上のゲームに参加するところからストーリーは始まる。

NERVEはWATCHER(視聴者)かPLAYER(挑戦者)かのどちらかを選ぶことができ、挑戦者は視聴者が決めた挑戦内容にチャレンジし、実行すると賞金がもらえる。そして視聴者数の最も多い挑戦者2名が決勝戦に進み、優勝を争う。ルールは3つあり《①挑戦は自分の携帯で撮影する ②失格の条件は失敗か棄権のどちらか ③NERVEは秘密にすること。密告者には制裁を与えられる》というものだ。

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高級百貨店の中で下着姿になるなど、視聴者からの「挑戦」はますますエスカレート。ヴィーの視聴者数は5500人に増加。

ヴィーは友人のトミー(マイルズ・ハイザー)の反対にも関わらず「挑戦者」を選び、最初の挑戦である「他人と5秒キスすると100ドル獲得」を承認し、実行する。そこから、罠にハマるかのように次々と難題にチャレンジすることになる。一方で、NERVEに自分の指紋でID登録したことで、FACEBOOKをはじめとする個人情報がNERVEの元に流れてしまう。「シアトルで死者が出た」という情報が出ても、サーバーが閉じられなくなるという現状。ヴィーは刻々と迫る時間やプレッシャーと競いながら、最初は恥じらいと引き換えるかのように快感や達成感、賞金をも得ていたが、次第に生死をかけた表裏一体の切迫感の中を、アドレナリンを分泌させながら突進していく。

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「挑戦」は、生死を賭けるものに。エンディングまで一気に駆け抜ける展開。

■ ムーやホールジーをはじめ、期待されるシンガーの楽曲満載

ストーリーは映画を観てのお楽しみだが、この興奮をさらに掻き立てるようにシーンに合わせた楽曲が多数セレクトされていて、そちらも楽しめる。映画の公開はカナダで2016年7月にスタートしていて、そのため2015年の話題曲が中心となり、今後の活躍が期待できる新人の曲も多い。ミュージックヴィデオの再生回数がとんでもないのは、この映画の人気はもちろん、アーティストの注目度の高さも示しているのだろう

オープニングを飾るのはオーストラリアのシドニー出身、エレクトロニック系ミュージシャン&DJであるBesenjiによる「CAN’T GET ENOUGH」。まさにヴィーが現状に満足できず、新たな扉を開けようと気持ちが揺れているシーンに流れる。

Basenji 「CAN’T GET ENOUGH」

撮影のためにアメリカン・フットボールの試合会場へ向かうヴィーがマウンテンバイクに乗りながら聴いているのは、サマーソニック2016で初来日したムーの「KAMIKAZE」。デンマーク出身で、アヴィーチーの楽曲やディプロ率いるメジャー・レイザーのシングルに参加するなど、既にアメリカや日本でも注目度の高い女性シンガーだ。グライムスが好きな人にオススメ。

MØ 「KAMIKAZE」

ヴィーがJ.P.に振られ、マウンテンバイクに乗りながら町並みを駆け抜けるシーンに流れるのはメラニー・マルティネスの「SOAP」。プエルトリコとドミニカ共和国の血を引くニューヨーク出身のシンガー・ソングライターで、彼女を有名にしたのはアメリカのNBCのオーディション番組『THE VOICE』に出演し、最後の6人に残ったことから。その後2014年にEP『DOLLHOUSE』でデビューした。オーディションの最初の段階でエリー・ゴールディングの「ライツ」、ラ・ルーの「バレットプルーフ」を歌っているあたりからしてエレクトロポップが好きなのがわかる。

Melanie Martinez「SOAP」

日本でもっと注目されていいのでは、と思うのが、アメリカはミシガン州出身の男性シンガー・ソングライターのBØRNS、24歳。ヴィーがゲームのパートナーとなるイアン(デイヴ・フランコ)とバイクで街へ向かうシーンに、とても効果的に使われている。この「ELECTRIC LOVE」では中性的な声が魅力だが、モデルのような風貌からの人気も高い。

BØRNS 「ELECTRIC LOVE」

ヴィーとイアンが下着姿のままニューヨーク5番街にある高級デパート、バーグドルフ・グッドマンを抜け出す時に流れるのは、カナダ出身のシンガー・ソングライター、ローウェルと、スウェーデン出身のエレクトロダンス・ポップ・デュオ、アイコナ・ポップがコラボした「RIDE(feat. Icona Pop)」。ローウェルはフェミニスト・パンクの旗手と言われ、バイセクシャルであることを公言している。まさに、ガールズパワーを上げる選曲だ。

Lowell「RIDE (feat. Icona Pop)」

その2人がバイクに掛けられたドレスとスーツを見つけ、そのまま次の「挑戦」へ向かう時に流れるのはホールジーの「HURRICANE(ARTY REMIX)」。昨年初来日したニュージャージー出身の22歳で、彼女もバイセクシャルを公言し、テン年代のポップ・アイコンとして高い人気を集めている。以前インタビューした記事はこのコラムに掲載。
http://madamefigaro.jp/culture/series/music-sketch/post-1671.html

Halsey「HURRICANE」

決勝戦へ進もうとするタイ(コルソン・ベイカー)が、同じく視聴者数の多いシドニーにチームを組もうと誘うシーンの背後に流れるのはTei Shiの「BASSICALLY」。彼女はアルゼンチンのブエノスアイレス出身で、ニューヨークのブルックリンを拠点に活躍しているシンガー・ソングライター/プロデューサー。個人的にはイギリスのバンド、グラス・アニマルズの「Holiest feat. Tei Shi」が印象的で、何となくリトル・ドラゴンのユキミ・ナガノに声質が近い気がしている。

Tei Shi「BASSICALLY」

その他にもロイ・オービソンの代表曲の一つである「ユー・ゴット・イット」(1989年)やウータン・クランの「クリーム」(1994年)、昨今のものでもアトランタ出身のTRAP/DUBSTEP系プロデューサーのBro Safariのようなエッヂの効いた音楽から、ロンドン出身で異彩を放つ音楽プロデューサー/ミュージシャンのブラッド・オレンジ(デヴ・ハインズ)やジャングル、ニューヨーク出身のホーリー・ゴースト!などの曲を幅広くセレクトしている。

これらの選曲と緊迫した心理状態を描いたスコアを担当しているのは、iPhone5の「FaceTime Every Day」にCM曲として「Green」というピアノの小品を提供したアメリカの作曲家、ロブ・シモンセン。マーク・ウェブ監督の『(500)日のサマー』(2010年)に彼の師匠であるマイケル・ダナと共同で音楽を担当したことで知られ、その他にも関わった映画作品は多い。本人はロックもオーケストラ音楽も好むといい、また38歳という年齢もあるのだろうか、ジャンルを超えた幅広いセレクトは見事としか言いようがない。

■ 役者としても活躍するラッパーやロック・シンガーも出演

最後に、この他にも注目してほしい点をいくつか。タイ役のコルソン・ベイカーは、マシンガン・ケリーという名でラッパーとしても人気を博している。

Machine Gun Kelly, Camila Cabello「Bad Things」

ヴィーの母親役を演じたジュリエット・ルイスはロック・シンガーとしても有名で、フジロックにも2度出演。母親がデザイナーということもあってか個性的なファッションで知られ、私は何度か取材し、彼女のCDにライナーノーツを書かせていただいた。ロサンゼルス出身らしい、おおらかで明るい性格は今も変わっていないはずだ。父親は俳優のジェフリー・ルイスで、その影響か14歳から女優業をスタートし、マーティン・スコセッシ監督の『ケープ・フィアー』(1991年)で、アカデミー助演女優賞にノミネートされた実績もある。その昔、ブラッド・ピットと付き合っていたこともあり、一時期は何かと話題に事欠かなかったけれど、今もこうして活躍しているのは嬉しい限りだ。

Juliette Lewis「Terra Incognita」

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イアンの正体が徐々に明かされていくところにも注目を。

『NERVE/ナーヴ 世界で一番危険なゲーム』
2017年1月6日(金)TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ六本木ヒルズ、TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
©2016 LIONSGATE ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
start-nerve.jp

*To be continued

伊藤なつみ Natsumi Itoh
音楽ジャーナリスト/編集者

『フィガロジャポン』をはじめ、『pen』『装苑』ほかモード誌などで、取材、対談、原稿執筆、編集を担当。ほかにCD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュース等も。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
Twitter:@natsumiitoh

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