Music Sketch

ピアノは玉葱!? 新時代のジャズを追求するロバート・グラスパー(後編)

Music Sketch

前編に続いて、若手ミュージシャンが新世代のリーダーとして名前を挙げるジャズ・ピアニスト/プロデューサー、ロバート・グラスパーのインタビューを。グラスパーはR&Bやヒップホップ系ミュージシャンとの交流も多いことからもわかるように、ジャンルを超えた先に彼の音楽が存在しているように感じる。ミュージシャンとしての柔軟性に加えてウィットにも富み、会話は面白いように弾んだ。

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生ピアノ他、ステージでは複数の鍵盤楽器を操るロバート・グラスパー。 Photo: Q Hannah

■ドラムはペッパー、ベースはオリーブオイルのようなもの

—ピアノが玉葱なら、ドラムは野菜に例えると何になります?

「ペッパーだね。なぜなら、数が多いとハラペーニョ・ペパーのようにホットになるように、ドラムはヘヴィーだったり軽やかだったり、スパイスのような存在。ソニック・ホット・ペッパーだね。少しでもいいし、すごく全面的に出てもいいし(笑)」

—リズムって、ガラリと音楽を変えることができますよね? ドラムをやっていた経験が、今のあなたがやっている様々な要素を含有できる音楽に活きているのかな、と思うんですけど、どうでしょう?

「リズムは大好きだし、ドラムという楽器もピアノの次に大好きだね。ドラムはジャンルを定義できる。それは重要なことだし、しかも影響力もある。でも、ピアノも打楽器だよね。なのに多くのピアニストはパーカッシヴな方法にアプローチしない。勿体無いと思うよ。ドラムとピアノは関連性が強いんだ。スパイスも野菜からできているからね(笑)」

—では、ベースは何になるでしょう?

「ベースはオリーブオイルかな。ベースはすべての核になるから。オニオンにもペッパーにも必要だからね。ハハハハハ」

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ロバート・グラスパー・エクスペリメントの最新アルバム『アートサイエンス』。メンバーは(イラスト左から)デリック・ホッジ(Ba)、ロバート・グラスパー(P)、クリス・デイヴ(Dr)、ケイシー・ベンジャミン(Sax、Vocoder)

■曲ごとに違ったジャンルの音楽が生まれたアルバム『アートサイエンス』

—ロバート・グラスパー・エクスペリメントの最新アルバム『アートサイエンス』はメンバー4人で2週間合宿して制作したそうですね。いわゆるシチューを煮込むように4つの楽器だけで演奏していたわけですが、どのようなアルバムにしたいと考えていたんですか?

「いつも“どのジャンル”とか考えることをせずに作っている。なかでも、このアルバムは自分にとってはサプライズだった。曲ごとに、それぞれ違ったジャンルの音楽が生まれてきたからね。だから、ジャズ・アルバムともR&Bアルバムとも言えないんだ。どんなジャンルのアルバムと言っていいのかわからないという理由から、今回のグラミーにノミネートされないんだろうな(笑)。“このアルバムは良いけど、一体どこに行き着いているの?”みたいな(ちょっと残念そうな表情)」

—前にあなたは、「自分の音楽では、今の時代を反映させながら自分のストーリーを表現していきたい」と話していましたが、このアルバムで自分を一番表現している曲はどれになりますか?

「たぶん1曲目の『ディス・イズ・ノット・フィアー』じゃないかな。なぜなら、結構高速スウィングから始まっていて、怒りから緩やかにヒップホップへ入っていく。だからすごく自分を表していると思う。たくさんのストーリーがあって、とても主観的だしね」

—今こう話していると、とても穏やかな人に思えるのですが、内に秘めている思いを演奏に吐き出しているという?

「その通り! 音楽ではわりと怒りも表現する。自分自身を一番表現できるのは音楽の中でなんだ」

—アルバムは歌詞を見るとラヴソングが多いですよね?

「メンバーそれぞれにいろいろあった時期だから、意図的ではないけど、テーマになっていて、それぞれの思いを乗せたんだろうね。みんな恋愛で問題を抱えていたんだ(笑)」

—だったら、実はすごく辛くてホットなシチューだったんですね?

「そうだよ(といって辛いシチューを食べるふりをしてみせる)」

 

Robert Glasper Experiment 「Day To Day (Audio)」

—ヴォーカルにヴォコーダーをかけているのは何か意味があってのことですか?

「僕らはシンガーじゃないから(笑)。普通はどのバンドにも専門のシンガーがいるけど、僕らのバンドにはいないので、シンガーとしてのレベルが違うのでヴォコーダーをかけた。歌として上手くないからなんだ」

—すごく素敵ですけどね。

「ありがとう。アメリカではこのヴォコーダーのサウンド、つまりロボットのようなサウンドはポピュラーなんだ。今ではシンガーも使うくらいだからね(笑)」

—エレクトロニック・ミュージック系のミュージシャンにも、ステージ上でノーマルマイクとオートチューンをつけたマイクとを使い分けて、ヒューチャリスティックな感じを出している人がいますよね。なので、実験的なところで、近未来的な味を出すのにヴォコーダーを使っているのかなと思ったんです。

「とにかく僕らは歌えないので、チョイスがなかったんだ」

 

Robert Glasper 「So Beautiful (Live At Capitol Studios)」
こちらはロバート・グラスパー・トリオ。アルバム『カヴァード』からミュージック・ソウルチャイルドのカヴァー。メンバーは2016年12月の来日時と同じ、ロバート・グラスパー(P)、ヴィセンテ・アーチャー(Ba)、ダミオン・リード(Ds)。

■自分の音楽は、現実と可能性の架け橋になっている

—ジャズとR&Bやヒップホップの架け橋になりたいとのことですが、今のR&Bやヒップホップのどの辺に魅力を感じていますか?

「どんどん変わってきているよね。同じところにいないのが面白いところかな。今、行き着いている先は、僕自身はいいとは思っていないけれど、もしかしたらそのうち僕がいいなと思う方向に行くかもしれない。いいものはあるけど、ほとんどは好きじゃないからね。でも常に動いているというところが面白いと思う」

—では、ジャンルに関係なく、今いいと思う音楽の共通点を教えてください。

「ちゃんとしたリアルな楽器を使っているということと、ある程度メロディがちゃんとある歌が好きなんだけど、その曲によるかな。曲は好きではないけどドラムビートがいいなと思う曲があれば、ドラムビートが好きじゃなくてもメロディがいいと思う曲もあるから。その時々によるから、この曲が完璧だとは言いづらい」

—あなたの音楽は、現実と何との架け橋になっていると思いますか。

「現実と可能性だね」

−カッコイイ発言ですね!では、10年後の自分はどうなっていたいですか?

「成長し続けたいし、今やっていること続けていきたいけど、映画音楽みたいなものをもっとやっていきたいね。あと、大きなステージで演奏したい。そうすると他のミュージシャンにもインスピレーションを与えられるんじゃないかな。わりと多くの場合、大きなステージでやっていることってくだらないものが多い。だから“生演奏でリアルな音楽をちゃんとやっているんだ”っていうことを大きなステージで見せれば、他の人たちもそれを見て同じようにしたいと思うんじゃないかな」

−貴重なお話をありがとうございました。

「僕も楽しかったよ。ありがとう」

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2016年12月18日にブルーノート東京で行われたロバート・グラスパー・トリオのライヴ、2ndステージの写真。上記メンバーの他に、DJジャヒ・サンダンス(ターンテーブル)が参加。Photo by Tsuneo Koga

*To Be Continued

伊藤なつみ Natsumi Itoh
音楽ジャーナリスト/編集者

『フィガロジャポン』をはじめ、『pen』『装苑』ほかモード誌などで、取材、対談、原稿執筆、編集を担当。ほかにCD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュース等も。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
Twitter:@natsumiitoh
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