Music Sketch

音楽で異国の文化を体感する、映画『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』

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音楽のドキュメンタリー映画がジャンルを問わず、多彩な内容で次々と公開されている。最近観たものの中で興味深かったもののひとつが『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』だ。ヨーヨー・マによる大学の講義を受けているような、もしくはTVのドキュメンタリー番組を見ているような目線で追える一方で、カメラが捉えている内容はワールドワイドで、どんどん掘り下げられていく内容に目も耳も釘付けになっていく。

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世界的チェリストである、中国系アメリカ人のヨーヨー・マ。現在61歳。

この映画は、世界的なチェロ奏者のヨーヨー・マが1998年に設立した《シルクロード・プロジェクト》に基づいている。彼が世界各地を演奏して周るなかでそれぞれの土地の歴史に触れ、そうするうちにヨーロッパとアジアの人々と伝統とを結びつけた地中海から太平洋にまで達した古代の貿易ルート“シルクロード”の芸術文化に興味を持ったことから始まった。最初は各国の伝統音楽に詳しい音楽学者や民俗学者、人類学者たちをマサチューセッツ州のタングルウッド(タングルウッド音楽祭で有名な地)に集め、何年にもわたり話し合いを重ねてきたという。そこからワークショップが発展し、2002年にはヨーヨー・マ&ザ・シルクロード・アンサンブルという名で『Silk Road Journeys - When Strangers Meet』というアルバムが発表された。その後、ワールドツアーが何度も組まれ、日本にも来日、またヨーヨー・マのライフワークとなった今、アルバムもその後4枚ほど発表されている。今やメンバーの国籍は24カ国、総勢60名にも及ぶ民族楽器奏者からなるそうだ。

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(写真手前左)ヴァイオリンの祖先にあたるという楽器ケマンチェを演奏するイラン出身のケイハン・カルホール。

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(写真手前左)新世代のガイテイラ(女性バグパイプ奏者)として場を盛り上げるスペイン出身のクリスティーナ・パト。

この映画ではメンバーの中でもシリア出身のクラリネット奏者キナン・アズメ、中国出身の琵琶(ピパ)奏者ウー・マン、イラン出身のケマンチェ奏者ケイハン・カルホール、スペイン出身のバグパイプ奏者クリスティーナ・パトにスポットが当てられていて、母国の政治情勢や文化的改革の影響を受けるなかで、伝統文化を守る意味、音楽を続ける意義、アイデンティティ、人生観といったものが語られていく。そこが一番の見どころだ。演奏家がザ・シルクロード・アンサンブルに加わるまでの道程、愛する人や家族との別れや葛藤も描かれ、それゆえ個性の強い楽器同士がひとつの音楽として形を成していくユナイト感も素晴らしいが、それぞれが背負っているものが明かされるにつれて、聴く側も奏でられる音色の響きに深みが加わっていく。伝統音楽を守るだけではなく、復活させる中で新たな解釈が加わっていくことで、演奏そのものに新たな息吹が加わっていくのも興味深い。ザ・シルクロード・アンサンブルの音楽にも焦点が当てられるが、何と言っても演奏家たちの生き様が胸を打つ。

『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』特別映像

監督のモーガン・ネヴィルは、これまで数多くのミュージシャンのドキュメンタリーを制作し、文化をテーマにしたドキュメンタリーをプロデュースする製作会社を設立したほどの人物。2014年には『バックコーラスの歌姫たち』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞とグラミー賞最優秀音楽映画賞を受賞している。その監督が、この映画『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』に関して「音楽を通してあらゆる問題を深く探求することができる。なぜなら音楽はいつだって、歴史と感情を抱えている。映画監督にとって、こんな素晴らしいツールはない。観客の意志に関係なく、観客を旅に連れ出すことができるのだから」と語っているほどだ。

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ヨーヨー・マ&ザ・シルクロード・アンサンブルの演奏風景は見ているだけで楽しい。

音楽で旅はできる。異国の地へ行かなくても、その旋律や音色から感じられる薫りや、言葉から、空想世界を広げることができるし、記憶の旅へも導いてくれる。しかもそこに映像が加わることで、より旅のリアリティが増していく。『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』は多彩な楽器で奏でられる音楽への興味が増すだけではなく、未だ見ぬ国への関心や、生きることの意味を自らに問い質す、背筋を伸ばしてくれる作品。人生という旅も、より豊かにしてくれるはずだ。

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ヨーヨー・マ&ザ・シルクロード・アンサンブルの最新アルバム『シング・ミー・ホーム』。今年の第59回グラミー賞最優秀ワールドミュージック・アルバム賞を受賞した。
Amazonでの購入はこちら≫

『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』
© 2015, Silk Road Project Inc., All Rights Reserved
配給:コムストック・グループ
Bunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座他全国公開中
yoyomasilkroad.com

*To be continued

伊藤なつみ Natsumi Itoh
音楽ジャーナリスト/編集者

『フィガロジャポン』をはじめ、『pen』『装苑』ほかモード誌などで、取材、対談、原稿執筆、編集を担当。ほかにCD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュース等も。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
Twitter:@natsumiitoh

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