Music Sketch

ドラマ劇伴や舞台音楽でも才能を発揮する、奇才クラークの最新作

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クラークやWarpというレーベルを知らなくても、BAFTA(英国映画テレビ芸術アカデミー)にノミネートされた海外TVドラマシリーズ『The Last Panthers』の劇伴や、革新的な作品を上演するロンドンのヤング・ヴィク・シアターで注目された『マクベス』の舞台音楽を担当した音楽家といったら、興味を持ってもらえるかと思う。「不健全で強迫神経症じみた人格を潜在的に備えていればいるほど、作品がより優れたものになる」と語っているクラークに、最新アルバム『Death Peak』完成後に電話インタビューを行った。

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イングランド出身のクラーク、37歳。音楽家、作曲家、DJ、プロデューサーとして活動は多岐にわたる。

■アルバムのコンセプトは“歪んだものから美しいものを作ること”

—『Death Peak』、素晴らしいアルバムです。あなたの作品はずっと好きで聴いていますが、本作はアルバム1枚としても流れが良く、コンセプト作品のように思えました。今まで一番好きになるような気がします。アルバムタイトルは去年の夏に決めたそうですね。

クラーク(以下、C):「アルバムを作り始める前に、タイトルを先にパッと思いついた。そのおかげで、それをイメージしながら、そこにフォーカスを置いて音楽を作ることができた。アートワークも決めやすかった。タイトルが決まっていたことで、特定の色が想像できていたんだ。でも、コンセプト・アルバムではないんだよね。自分の作品は常にマルチ・レイヤーだから、ひとつのコンセプト、ひとつのテーマに基づいた作品は作れない。敢えて言うとすれば、このアルバムのコンセプトは“歪んだものから美しいものを作ること”かな。“崩壊するものから新しいものを作る”とか。アートワークも、自分の顔を使いながら、それが壊れそうだし、ダークなんだけど、なんか美しさがあるだろう?」

「Death Peak Live Trailer」最新アルバム『Death Peak』のツアー用の、ダンサーを従えたトレイラー映像

—アルバム全体の方向性はいつ頃から決めていたのですか? 怒りがかなり込められたアルバムだと聞きましたが。

C:「たぶん去年の8月だったと思う。怒りだけじゃなくて、いろいろな感情を込めたよ。ひとつの感情にプライオリティを置くことは、あまりない。全ての感情を表現しているんだ」

—私はあなたの曲の中で一番聴いているのは「The Pining Pt. 1」で、1万回くらい聴いています。とはいえ、発表する曲どれもアイデア満載で斬新で、驚くことばかりです。アイデアが浮かんだら、レコーディングのアイデアや音のスケッチはすぐにメモしたり、録るのですか?

C:「近くにパソコンがあれば、それにアイデアを書き留めるし、今とらえなきゃ! という感じで何かが即起こった場合は、それを録音する。その必要がない場合は、敢えて書き留めないで数日間寝かせる。そっちのほうがベターになるアイデアもたまにあるからね」

—なるほど。面白いですね。あなたは大学生の時でWarpと契約してから、常に最先端を走り、今やドラマや舞台などさまざまなシーンで音楽とコラボしてきています。自分の中の新たな扉が開いたような、特に刺激を受けたものはどの仕事でしたか?

C:「TVドラマシリーズのサウンドトラックだね。監督と一緒に仕事をするのがとても楽しかった。彼のおかげで、自分の癖や習慣のようなものを壊すことができたと思う。ソロとは違い、監督を満足させて驚かせる作品を作らないとならないから、そのために自分では作らないような音楽を作ったし、自分にそれができることがわかった。サウンドトラックは初めてだったけど、もっと挑戦したいな」

「The Pining Pt.1」(音源のみ)クラークの中でも特に好きな曲。アルバム『Iradelphic』(2012年)より

■音楽に夢中になったのは、ザ・キュアーのアルバムから

—クラークさんはとても頭脳明晰な人だと想像しますが、どんな子供だったのですか?

C:「ドリーマーだったし、あんまり話さなかったし、シャイだった(笑)。スポーツには興味がなかったし、本当に大人しい子供だったよ。気づいたらドラムマシンで曲を作って遊んでいたし、絵を描くのも大好きだった。でも、絵は上手くはなかったな(笑)。親は、俺が音楽を作っているのがあまり好きじゃなかったんだよね。だから音楽を作ることは、自分の中でちょっとした反抗だった(笑)。学校も学校の音楽の授業も好きじゃなかったから、音楽は自分で学んだ。シンセとかドラムパターンを聴いて、特にポップ・ミュージックやザ・キュアーみたいなバンドが好きだったから、そこから音楽にハマっていったんだ」

—そんなあなたが音楽に魅了されたきっかけを教えてください。今の音楽スタイルに進もうと思ったきっかけも知りたいです。

C:「ザ・キュアーのアルバムの『ディスインテグレーション』だね。姉がテープを持っていて、すごくマジカルに聴こえたんだよね。テープだったからちょっと歪んで聞こえたり、あの作品には良い思い出がある。今聴くと、子供の時の良い思い出が甦るんだ。そこから音楽にハマりだしたね。今の音楽スタイルに進もうと思ったきっかけは、ジェフ・ミルズが東京のリキッド・ルームでレコーディングしたミックスCD『Mix Up Vol.2』を聴いたことだと思う。あれがリリースされた時、俺は15歳だったんだけど、すごくエモーショナルな作品だったのを覚えているよ」

—すぐ聴いてわかるCLARKサウンドの特徴のひとつにホルンのような金管楽器の響きがあるのですが、そのほかにも今回のチェンバロのように、楽器の音色の魅力をとてもよく知っていますよね。クラーク自身がサンプラーのような、引き出しの多さに驚きます。クラシック音楽の素養もあるのでしょうか?

C:「クラシック音楽のセオリーは自分で少し学んだけど、クラシック音楽を作りたいとは思っていない。常に新しい音楽、新しいサウンドを作りたいから。過去に既に起こったものには、あまり作ることに興味がないんだ。でも、バッハはよく聴くよ。“天才”という言葉は使われすぎているけど、バッハは真の天才だと思う。友達のお母さんがヴァイオリニストで、彼の家にバッハのテープがあったから、6、7歳くらいからバッハは聴いている。ああいう音楽を作りたいとは思わないけど、聴くのはエンジョイしているよ」

「The Last Panthers Album Trailer」2015年に放映されて好評だったTVドラマシリース『The Last Panthers』のサントラのトレイラー。

■子供の聖歌隊を使ったあたりから、曲の方向性が見えた

—今回のアルバムは人の声を使っているのが顕著でした。ソンのように声を重ねたヴォイス・チョップでビートを作る手法や、ボン・イヴェールのような手法もあります。あなた自身は、声を自分の音楽に入れる意義、声が自分の音楽にもたらす可能性はどのように感じますか?

C:「声は自分にとって楽器のひとつなんだけど、取り入れることによって、音楽がよりエモーショナルになると思う。あくまで自分にとっては楽器のひとつだから、ヴォーカルラインにフォーカスを置いたようなトラックは作らない。さりげなく使うのが好きなんだ」

—その声を使った曲「Catastrophe Anthem」は、新たな代表曲となりそうな作品ですよね。作り始めた時に思い描いていたような音楽になりましたか? それとも作っていくうちに変化していった部分があれば、あなたの心境と合わせて教えてください。

C:「そのトラックはどんどん変化していった。いくつもヴァージョンを作ったんだよ。でも、子供の聖歌隊を使ったあたりから方向性が見えてきて、作品を仕上げることができた。すごくわかりやすいメロディとカラーが好きだし、且つ独特な曲ができたと思うね。アルバムを特徴付ける曲になったし、この曲のイントロを聴けば、“あっ、これは『デスピーク』からの作品だな”ってわかるようなトラックに仕上がった。どう変化したかは、俺には説明できない。とにかく、これでもかってくらいのヴァージョンを作ったからね。3ヶ月常に変化し続けてきたから」

—では、今回の曲で一番チャレンジングだったのではないですか?

C:「そうだね。あと、子供の聖歌隊のレコーディングが大変だったんだよね。ちゃんとしたキーで歌ってもらうのに時間がかかって(笑)、彼らはプロじゃなくて学校の聖歌隊だったからね」

■曲を作り続けることは、自分が生きるために必要な行為

—ラストを締める「Un U.K」はタイトルありきで作ったのですか? 10分近い大作ですが、曲の着地点はどのようにまとめていったのでしょうか?

C:「曲を書いていくのと同時にこのタイトルを考えた。これは自分の感情を素直に表現した曲で、それに合うタイトルがこれだと思ったんだよ。曲作りで、あまり着地点は考えない。とにかく自分の感情に従って作り続けたんだ。いつ作り始めたのか、何が始まりだったのか、どうやって完成にもっていったのかもあまりハッキリ思い出せないくらいなんだ」

—「Un U.K」は、このアルバムの中でも怒りが込み上げている曲だそうですが、作り終えて、その怒りはどうなりましたか?

C:「この曲は、アグレッシヴな曲を書く良い練習になったと思う。怒りが収まることはないけど、自分にとって音楽がセラピューティックであることは間違いないね」

—あなたの音楽で一番表現しやすい感情というのはありますか?

C:「感情って入り交じっているから、この質問に答えるのはすごく難しい。自分にとって、感情を、悲しみや喜び、怒りといったように分けるのは不可能なんだ」

アルバム『Death Peak』より「Peak Magnetic」の音源

—クラークさんは物凄い量の楽曲を発表していますが、音楽はあなたにとって日記のようなものなのでしょうか? それとも曲を完成させることで自分の心情が整理されて、次へ進めるという、生きるために必要な行為ですか?

C:「どうだろうね。リリースするトラックが良いトラックか悪いトラックかはあまり考えないし、気にしない。作る過程を最も楽しめたものを作品としてリリースしている。たぶん、日記というよりは、自分が生きるために必要な行為かな」

—最後に、自分のことを知ってもらうのに、映画など何か好きな作品をあげてもらえますか?

C:「うーん……思いつかない。音楽だったら、エンニオ・モリコーネの作品かな」

—素晴らしいアルバムをありがとうございます。

C:「こちらこそありがとう。日本にまた行けるのを楽しみにしているよ」

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8枚目となる最新アルバム『Death Peak』
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《来日情報》
クラーク、フジロックフェスティバル’17 7月28日(金)に出演決定!
http://www.fujirockfestival.com/

*To Be Continued

伊藤なつみ Natsumi Itoh
音楽ジャーナリスト/編集者

『フィガロジャポン』をはじめ、『pen』『装苑』ほかモード誌などで、取材、対談、原稿執筆、編集を担当。ほかにCD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュース等も。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
Twitter:@natsumiitoh

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