メリル・ストリープがロック・シンガーに!!!
Music Sketch
音楽を題材にした映画は数多くありますが、大女優メリル・ストリープがロック・シンガー役で、実の娘である女優メイミー・ガマーと母娘の役で共演、しかもメリル・ストリープのギターの指導にあたったのがニール・ヤングと聞けば、注目しないわけにはいきません。さらには、私が子供の頃にファンだったリック・スプリングフィールドまで登場するという......。それが現在公開中の映画『幸せをつかむ歌』です。
役作りにとにかく熱心なメリル・ストリープは、今回はボニー・レイットやメリッサ・エスリッジ、エミルー・ハリスあたりを想起させるロック・シンガーになり切っています。ヒッピームーヴメントの影響を感じさせるというより、ロサンゼルスのハウスバンド(クラブやバーの専属バンド)として音楽活動している設定のため、やや場末のすれた雰囲気が漂います。そして体型もそんな役柄に合わせてたるみがちで、その体型も遠慮なく見せてしまう徹底ぶり。
脚本は、『JUNO(ジュノ)』でアカデミー賞脚本賞を受賞し、一躍時の人となってしまったディアブロ・コディ。その後も『ヤング≒アダルト』など女性を主人公にした脚本が得意とあって、離婚して実家に戻ってきた娘ジュリー(メイミー・ガマー)の描き方がうまい。主人公のリッキー(メリル・ストリープ)像に関しては、ディアブロ・コディの義理の母親が6人の孫がいながらロックバンドのリードシンガーを今も務めているところから、インスピレーションを得たそう。
リッキーの元夫ピート(ケビン・クライン)を見ていると、その後の生活ぶりの違いから何故この2人が結婚することになったのか経緯が気になってしまうけれど、そこは3人で家族の思い出を紐解くシーンで想像を膨らませることができます。また、ピートの再婚相手がアフリカン・アメリカンの女性だったり、ジュリーが結婚したものの、すぐに浮気されて引きこもりになってしまったり、リッキーの息子のひとりがゲイであったり......、世相の取り入れ方も自然体で、あらゆる立場からストーリーを追うことができるようになっているのも見事です。
見どころは、何といってもメリル・ストリープのロック・シンガーぶり。グレッグ役のリック・スプリングフィールドとバンドを組み、ギターを弾きながら、ブルース・スプリングスティーンやU2、新しい曲ではガガやP!NKまで披露します。歌っている姿は本当に気持ち良さそうで、情感の込め方にも引き込まれるほど。また、家族を置いて家を出て行った母親失格のリッキーが、不器用ながらも娘ジュリーとの距離を縮め、その娘が立ち直っていく過程も、メリルらしいユーモア溢れる演技で笑いを誘いつつ、胸を熱くさせる描き方になっています。痛手を負った娘のために連日顔を合わせることになる、元夫婦の心情の変化も、然り。話の中心は母と娘ながら、取り巻く人々も個性を際立たせながら丁寧に描かれ、名優たちの演技にも魅了され、観終えた時のハートウォーミング感が何とも言えません。
映画の原題は『The Song That Brings Happiness』で"幸せを運んでくる歌"と解釈できますが、リッキーの姿を見ていると、"幸せは前向きになって、自分でつかまなきゃ!"と、背中を押される気持ちになります。まさに"幸せをつかむ歌"なんですよね。監督は『羊たちの沈黙』(1990年)、『フィラデルフィア』(93年)から、デヴィッド・バーンが在籍したトーキング・ヘッズやニール・ヤングなどの音楽ドキュメンタリー映画までを手掛けてきたジョナサン・デミ。さすがと思わせる仕上がりです。
最後にリック・スプリングフィールドについて簡単に説明すると、オーストラリア出身ながらアメリカへ移住し、一度はミュージシャンの夢が断たれそうになって俳優業をスタートさせますが、「ジェシーズ・ガール」の大ヒットで第24回グラミー賞では最優秀男性ロックヴォーカル賞を受賞するほどにブレイク。その後は音楽も俳優も続け、最近ニュー・アルバム『Rocket Science』をリリースするなど60代後半になっても精力的に活動しています。あと、知らなかったのですが、現在は小説家としても活躍しているそう。かつてデヴィッド・キャシディなどと一緒にアイドルとして騒がれていた頃の印象が今も鮮明に残っていますが、この役には長年のキャリアの蓄積が活かされているように感じました。
『幸せをつかむ歌』は、母親と娘という組み合わせはもちろん、ご夫婦でも恋人同士でも、友人とでも、観終わった後にいろいろな会話を交わせそうな、幅広い層に楽しめる映画になっています。是非オススメします。
オフィシャルサイトはコチラ→http://www.shiawase-uta.jp/
*To be continued