アルミ・ラティアが生み出したもの。
映画『ファブリックの女王』とマリメッコ展

デザイン・ジャーナル

マリメッコの創業者であるアルミ・ラティアの人生を描いた映画『ファブリックの女王』が5月14日に公開に。全国でも順次公開されます。

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『ファブリックの女王』より。オリジナルタイトルは「Armi elää!(アルミは生きている!)」 と印象的なタイトルです。Photo© Bufo Ltd 2015

アルミ・ラティアはどのような人物だったのか、以前にマリメッコのヨカポイカ・シャツを着て腰に手をあてて立つ彼女の写真を目にして以来、私もずっと気になっていました。

このデザイン・ジャーナルにも登場いただいたことのある石本藤雄さんの取材の際、「アルミはいつも背筋を伸ばして、颯爽と社内を歩いていましたね」と教えてもらって、ああやはり! と思ったこともあります。

アラビア社のアート部門で陶芸作品にとりくむ石本さん。1974年から2006年まではマリメッコに社員として在籍、マリメッコ創業者であるアルミ・ラティアを直接ご存じのひとりです。貴重なお話の一部は『石本藤雄の布と陶』(パイ インターナショナル発行)にも書かせていただきましたが、当時のマリメッコについて、アルミ・ラティアについて、教えていただくほどに興味がつのるばかり......。

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『ファブリックの女王』より。波乱に満ちた人生を直球で描写。マリメッコの世界を楽しくかわいらしく描写する映画を想像される方には良い意味でとても新鮮だと思います。だからこそお薦めしたい映画。Photo© Bufo Ltd 2015

石本さんのお話をすこし引用しておきたいと思います。

「マリメッコの食堂はとても良い雰囲気でしたね。赤と白のストライプのオイルクロスと真っ赤なベンチ。壁には1メートル角の記事がモザイクのように貼ってありました」。そこで毎朝ふるまわれる朝の"おかゆ"。社員を思うアルミの愛は現在に続いています。

「社内でもめごとがおこると、アルミの判断は必ず"けんか両成敗"でしたよ。両方に問題がある! とね」

「夏になるとヘルシンキからクルマで1時間ほどの町、ボルボーのサマーハウスに皆を招いてくれました。皆で飲んで食べて、屋外の草原でダンスをして。夏至祭にはカイピアイネンを始め、大女優や俳優など、錚々たる顔ぶれも集まりましたね。そうしたサマーマウスで庭のテーブルセッティングをアルミから任されたこともあります」

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『ファブリックの女王』より。「覚えておくと良いこと」を挙げたアルミ自身の語録には「人々」「アイデア」「内なる灯台=指針」などに並んで、「機敏にカードを切ること。ギャンブラーの能力」とも。その潔さも映画では描かれています。Photo© Bufo Ltd 2015

1912年に生まれ、ヘルシンキでデザインを学んだアルミ。夫ヴィリヨが買収した業務用のオイルプリントの会社で働いていた彼女がマリメッコを創業したのは、戦後まもない1951年。1917年に独立したフィランドは第2次世界大戦では敗戦国、1951年という年が、まだまだ暗い時期だったことがわかります。

夢を持ちながらも順調ではなかった船出のなかでアルミは、「このファブリックのすばらしさを伝えたい!」と、服にして世に紹介することを提案。全財産を投げうってヘルシンキ初のファッションショーを開いたのでした。ショーは大成功。その後、CEO、アートディレクター、PRを務めた彼女が提案した服とは、シンプルでタイムレスでユニセックス、なにより女性が自由であるための服でした。

オリベッティのタイプライターで打った書体をそのままロゴとした「Marimekko」は「小さなマリちゃんのための服」を意味することをご存じの読者も多いと思います。「Armi」を並べかえて「Mari」とする発想もさすが! なのですが、ブランドの生みの親である彼女の人生、圧倒されてしまうほどにパワフルでした......!

映画は、アルミを演じる"女優マリア"の舞台劇のリハーサルに始まり、劇中劇という二重構造で進みます。マリメッコのファブリックが活かされ、舞台を設定した独特の雰囲気もこの映画の醍醐味です。

女優マリアが、このときアルミはどんな気持ちだったの? いや違う? と自問自答しながらアルミに向き合うシーンが含まれているのも重要な点。強くて弱く、矛盾も抱えるなど複雑なアルミを探るマリアを通して、私たちもまた、アルミというひとにゆっくりと近づいていける......。

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『ファブリックの女王』より。Photo© Bufo Ltd 2015

監督はフィランドで唯一、オスカーを受賞しているヨールン・ドンネル(1933年生まれ)。じつは初期のマリメッコの役員でもあった人物でもあり、だからこそこれほど深く彼女を描きだせるのでしょう。

「これまで描かれてきたアルミ像は、本当のアルミを伝えていないと思った」とドンネル監督は述べています。「1960〜1970年代、男性に独占されていたビジネス世界において、アルミは女性として類のない存在だったのです」

彼女の好奇心や自由な発想、理想と行動力。起業家として周囲と闘う凛とした姿。保守的な概念に正面から向かって、新しい世界を切りひらいていく快活さ。あるいはその激しい性格。夫ヴィリヨとの緊張状態、孤独。決断と行動力と勇気の持ち主の嵐のような人生は、映画の最後の最後まで......!

アルミやマリメッコについてはもうひとつ、年末まで各地で「マリメッコ展-デザイン、ファブリック、ライフスタイル」展が開催に。映画にあわせて目にしたい内容です。

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「マリメッコ展-デザイン、ファブリック、ライフスタイル」展から。ファブリック「ウニッコ」(ケシの花)、図案デザイン:マイヤ・イソラ、1964年。Unikko pattern designed for Marimekko by Maija Isola in 1964。

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ファブリック「シィールトラプータルハ」(市民菜園)、図案デザイン:マイヤ・ロウエカリ、2009年。Siirtolapuutarha pattern designed for Marimekko by Maija Louekari in 2009。

7月11日までは、島根県立石見美術館(島根県芸術文化センター「グラントワ」)で開催中。10月には西宮市大谷記念美術館(兵庫県)、12月には、Bunkamura ザ・ミュージアム(東京)でも開催されます。

アルミ時代から現代に至るファブリック約50点、ヴィンテージドレス約60点、スケッチや資料もあわせた構成で、今年で65年になる誕生からの歩み、そしてこれまでのデザインを一望できる構成です。現在開催中の島根では、展覧会関連イベントとして映画『ファブリックの女王』の上演も予定されています。

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展覧会で目にできるドレスから。ジャクリーン・ケネディも購入したドレス「ヘイルヘルマ」、1959年、ファブリック「ナスティ」(小さな無頭釘)、1957年。服飾・図案デザイン:ヴオッコ・ヌルメスニエミ。Design Museum / Harry Kivilinna。

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服飾デザイン:ミカ・ピーライネン、2001年 ファブリック「マンシッカヴオレト」、図案デザイン:マイヤ・イソラ、1969年。Design Museum / Harry Kivilinna。

高い目標を掲げ、それゆえの葛藤や孤独を抱えながらもアルミ・ラティアが私たちにさしだしてくれた新しいライフスタイル、時代を照らす光ともなったクリエイションの力。さまざまな困難をのりこえていった彼女自身の苦悩といったものにも触れることで、これらのファブリックや服は、さらに生き生きとより鮮やかに心に響いてくるように思います。

タイムレスなブランドの原点や精神を知ることのできる映画『ファブリックの女王』と展覧会。とりわけ今回の映画を通して、私たちは、夢や愛情に支えられたアルミの力強さを知ります。マリメッコとは、美を信じ、美しさがもたらしてくれる幸せな日常を果敢に探り続けたアルミが求めた、輝かしい希望でもあったということもまた。

『ファブリックの女王』
5月14日より、ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷、シネ・リーブル梅田、名演小劇場ほか、全国順次公開
www.q-fabric.com
ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷でInstagramキャンペーン
http://www.ttcg.jp/human_yurakucho/topics/detail/46007
上映初日の特別プレゼントと割引も
有楽町 http://www.ttcg.jp/human_yurakucho/topics/detail/46040
渋谷 http://www.ttcg.jp/human_shibuya/topics/detail/46043

「マリメッコ展 ― デザイン、ファブリック、ライフスタイル」
http://marimekko-exhibition.jp 
7月11日(月)までは島根県立石見美術館 展示室D(グラントワ内)
http://www.grandtoit.jp
10:00~18:30(展示室入場は18:00まで)
休)火曜日
関連プログラム:いわみ芸術劇場小ホール(グラントワ内)にて『ファブリックの女王』上映
(6月11日(土) 上映時間は10:00〜、14:00〜、18:30〜)

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