うつわディクショナリー#05 河上智美さんのガラス器

モールガラスに魅せられて

ガラス作家・河上智美さんのうつわに魅せられる人は、料理上手からお酒好きまで幅広い。なかでもとりわけ美しいモールグラスは、テーブルに写る光の反射までひっくるめて河上さんの作品と言いたくなるほどオリジナル。そんなガラスが生まれる背景に迫ります。

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—開催中の個展はグラスが特に多いですね。中でも波のような模様のモールグラスは、河上さんが一番得意としているものだと思います。どのような思い入れがありますか?
河上:モールは、技術としては特別なものでもなんでもなくて、ガラス制作の学校に通えば必ず習う基本的な技法です。熱したガラスの玉を凹凸のある筒状の型に入れて筋をつけてから宙吹きすることで、模様が生まれるという単純な作り方ですが、私は学生の頃からなぜかこのデコボコしたテクスチャーが好きだったんです。シンプルなだけにやり方次第で違った表情が出せて、ガラスの表現が広がるところも嬉しかった。プロダクトのモールグラスはシンプルなものが多いですが、私は個人作家なので筋を入れた後に、ガラスをねじったり伸ばしたりいろいろと遊んでみるんです。新作のドレープグラスやダイヤグラス、定番のいちごモールグラスもそう。おかげでこんなにバリエーションが増えました。
 
—人気の定番 “いちごモールグラス”は、どのように生まれたのですか?
河上:このグラスは、ガラスメーカーの工場勤めを辞めて作家として活動を始めた初期のころにできた作品です。ある時、縦縞のモール模様を左右にねじってみたところ、凹凸ができてキラキラと光った。その輝きがとても綺麗だったので作品にしました。デコボコがいちごのように見えたので、そう名づけて。ガラスは、凹凸の入れ方や厚みの差によって輝きが変わります。薄く吹けばキラキラと光りを反射し、氷の塊のように厚みを出せば内に秘めたような光りを宿す。作品を通してガラスらしい輝きをいろいろと見せられたらいいなって思うんです。
 
—河上さんには、ガラス作家という仕事がとても合っているんですね。
河上:すごく合っていると思いますね。制作している時間が大好きなんです。もともと、のめり込みやすい性格なのもあって没頭します。特に新しいものを試作するときが楽しいですね。初めて作る時はスケッチをするんですが、いざ作業を始めると紙に描いたイメージ通りになってくれないこともある。でも不思議なことにそういう時は、頭に思い描いていたものよりも、ガラスに導かれるようにしてできあがったものの方がいい形だったりするんです。だからこそ試作の時間が楽しい。実は、モール模様を入れる道具も自分で作っています。手作りなので、ゆがみがあったり不揃いだったりして、予測できない模様が出ることもあるんですけど、それがまたいい味になる。道具作りも私のものづくりの大切な部分ですね。
 
—河上さんのうつわは、料理好きの方も絶賛。ご自身もさぞや料理上手なのでは?
河上:それが……そうでもないんです。私は「うつわ作るけど、飯作らん」で有名(笑)。でも食べることもお酒を呑むことも好きなので、うつわ店やギャラリーの方に「今度は7寸の鉢を作ってみて」なんてリクエストをいただくと「どんなのが美味しそうに見えるかな?」と自分が使うことを想定して想像を膨らませます。料理本もたくさん持っていますよ。作るためではなく、おもにうつわがどう使われているかを見るためにですけどね(笑)。
 
ーでは、手作りのうつわを普段使いすることは、河上さんにとってどんなことですか?
河上:なんというか、すごく普通のことかな。「買ってきたお惣菜より手作りのご飯のほうがいいな」というのと同じことだと思います。ガラス作りは、暑い場所での作業。一日の終わりにビールをクイッと呑むのが楽しみなんですけど、お酒を呑む時には自作のグラスと決めています。その方がやっぱり美味しいので。そういう意味では、毎日使ってもらって、壊れたらまた買い直したいと思ってもらえるようなうつわを作りたいなと思います。そんなに大切にしてもらわなくてもいいから、どんどん使って欲しい。それで割れてしまったらまた買ってください! 私はこれからも作り続けますから。個人でやっているので、昔買ったものと同じものをまた作って欲しいというご要望があれば、もちろん喜んで作りますよ。
 
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今日のうつわ用語【モールガラス・もーるがらす】
波のような凹凸のあるガラスのこと。高温に熱したガラスを凹凸のある型にいれ吹くことで模様が生まれる。板状のものはアンティークの窓ガラスや戸棚の扉によく使われている。うつわの場合はおもに筒状の型に入れて宙吹きする。
 

丸みのある凹凸が連続しキラキラと光りを反射する定番のグラスはその名もいちごモールグラス。¥2,592/イコッカ

しっとりと落ち着いたブルーがこれからの季節にぴったり。新作のダイヤそば猪口¥2,592/イコッカ

柔らかなドレープは縦にいれたモール模様の先をつまんで伸ばすことで生まれるそう。ドレープグラス¥2,592/イコッカ

上がプレーン、下がモールグラスのツートーンもお得意な河上さん。しぼりリム鉢¥2,700/イコッカ

色ガラスのうつわは和食器との相性を考えてカラーリングを決定。定番のレトロシリーズのぐい呑み¥2,700/イコッカ

口のくびれがなんともいえず美しく切れのいい片口も定番の作品。レトロ鳥口片口¥4,428/イコッカ

【PROFILE】
河上智美/TOMOMI KAWAKAMI
工房:茨城県常総市
素材:ガラス
経歴:経歴:浅草生まれ。小さい頃から祖母に「あなたみたいに何事にものめり込む子は手に職をつけるのがいい」と言われて育つ。修学旅行で見た小樽ガラスの作業風景に憧れいつしかガラスの世界に。能登島ガラス工房宙吹き講座受講。松徳硝子に勤務後、工房を持ち独立。
http://www.nexyzbb.ne.jp/~glass-kawakami/

イコッカ
東京都渋谷区恵比寿南1−21−18 圓山ビル2F
Tel. 03-5721-66761
営業時間:12時〜19時
休:日曜、第2、第3月曜(祝日は営業)✳︎第2、第3月曜と祝日が重なる場合は火曜休み
http://www.ekoca.com
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『河上智美 glass100 + 展』開催中
会期:2017年4/7(金)〜4/15(土)
会期中無休

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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