マリ=アニエス・ジロ、この優雅で刺激的な存在。(前編)

パリとバレエとオペラ座と。

多彩なアーティスト活動。

久しく来日していないオペラ座のエトワールのひとりに、マリ=アニエス・ジロがいる。それゆえか彼女について報じられることが日本ではあまりないようなので、彼女の素晴らしい活動ぶりを少し紹介しよう。

本拠地オペラ座では舞台が続いている。9月26日から始まった今季開幕公演で、オペラ座バレエ・ファンを狂喜させた彼女。彼女自身も踊ることが多いなる喜びだったというその作品は、カナダ人振付家クリスタル・パイトによる創作の『Season’s Canon』だ。マリ=アニエスなどソリスト数名を含め合計54名のダンサーがうごめくように踊る約35分の作品で、音楽にパイトが選んだのはマックス・リヒターがリコンポーズドしたヴィヴァルディの『四季』である。余談だが、ソーコ主演の『La Danseuse』でもヒロインのロイ・フラーが踊るのがこのマックス・リヒター版の『四季』。オペラ座の公演とほぼ時を同じくして、パリ市内の映画館でこの映画が封切られるという偶然があった。

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クリスタル・パイトの創作『Season’s Canon』より。 photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

 

「私、クリスタル・パイトの仕事については詳しく知らなかったのだけど、今回のクリエーションには驚かされました。すごい才能の持ち主だと思います。感じの良い女性で、とても控えめ。オペラ座でのいつもの場合に比べ、この作品は創作にかける時間がとても短かったんですよ。7月に彼女との仕事が1週間。これが出演者のオーディションですね。でも、その後夏休みに入ったので、彼女がオペラ座で私たちと創作できる時間は9月に入ってからたった3週間しかなくって……。彼女は本国でほとんどの部分を準備し、パリでは私とパートナーなどソリストが踊る部分を一緒にリハーサル・スタジオでクリエートしました。ハイ・スピードでしたけど、とても上手く行きました」

稽古が始まる前、まず最初にパイトはダンサーたちに自然の景色や動物の捕獲のシーンなどを見せ、ダンサーが群れをなすように踊る作品であると説明をしたそうだ。クリエーションの合間には海、波、嵐、枯葉……といったイメージをダンサーたちに与え、ダンサーは各自そこからイマジネーションを働かせて仕事をした。季節の移り変わりが背景にも見事に表現されていたのも、この作品を成功に導いた鍵のひとつ。プロジェクションのような印象を受けるが、実に複雑な照明作業によって生み出された抽象的な背景は、舞台上のダンスのエネルギーと絡まり合って観客を酔わせる素晴らしいものだった。

「舞台上にひとり、ということが少なくない私ですけど、こうして大勢と踊れたことは嬉しいですね。とても美しいセンセーションが得られるんですよ。自分が大勢に付き添われている、という感じがあって……。『Season’s Canon』はグループのバレエで、ダンサーの群れが作品に力強さと美しさを生み出すというもの。舞台に立つのが、とても快適な作品でした」

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左:『Season’s Canon』のカーテンコールでクリスタル・パイトと。photo:Mariko OMURA
右:オペラ座の公式ポートレート。 James Bort/ Opéra national de Paris

 

公演最終日の前日、彼女は自身のインスタグラムで作品の終わりを惜しみ、仲間のダンサーたちとの別れを悲しむメッセージを送っているほどだ。『Seanson’s Canon』が終わるや、すぐに次の公演に入った彼女。11月15日まで続く「ジョージ・バランシン」中の『バイオリン・コンチェルト』で、期待の大型新人ユーゴ・マルシャンをパートナーに、バランシン作品によく登場するスラブ調のステップをストラヴィンスキーの音楽にのせて舞台狭しと踊る。エネルギッシュでダイナミックなだけでなく、エレガンスもたっぷり。前作では長い手脚ゆえに実際より大柄に見える体躯を駆使し、野生的なエネルギーを発した彼女だが、こちらでは長い四肢をフルに活用し凛とした女性の魅力をこめたダンスで観客を興奮させている。この後は、11月26日から始まる「キリアン・プログラム」中の 「Symphonie de psaumes」 に配役されている。現在、日中はそのリハーサル、夜は「バランシン」の舞台、というタイトなスケジュールの毎日だ。

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『ヴァイオリン・コンチェルト』でユーゴ・マルシャンと。photo:Sébatien Mathé/ Opéra national de Paris

 

このように次々とオペラ座での舞台が続き、しかも幼子のママだというのに、いったいどのように時間を捻出できるのかが不思議なほど、外部でのプロジェクトにも彼女は多く参加している。10月1日、パリ市が開催したコンテンポラリー・アートのイベント『La Nuit Blanche(ラ・ニュイ・ブランシュ/白夜)』では、モンテーニュ通りのシャンゼリゼ劇場で創作作品を夜の23時から翌朝3時までの間に5回、ジュリー・ギベールとデュオで踊った。この作品は、今年の2月からアルルの中央刑務所の囚人たちと一緒にクリエートしたものだという。音楽はラヴェルの『ボレロ』で、タイトルは『TU ES(je suis le corps qui exprime vos peines / お前は存在する(私はあなたたちの痛みを表現する身体))。囚人たちが発する「自由」「死」といった言葉から彼女がインスパイアーされての振り付け。『Season’s Canon』が終わるや、パリでの公演をみることが叶わなかった囚人たちのため、彼女とジュリーはアルルまで出向いて創作を披露したとか。

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この作品についてLa Nuit Blancheのプログラムで紹介された、カリグラファーのニコラ・ウシュニールによるマリ=アニエスの視線。彼は彼女とともにアルルの刑務所まで出向き、この作品のために囚人たちの視線を描いたそうだ。courtesy of Nicolas Ouchenir

 

いったい、何がこれほど彼女をさまざまなプロジェクトへと駆り立てるのだろうか。

「新しいことをするためです。コンテンポラリー・アートとダンスを結びつけ、表現の新しい形をクリエートするためです。詩人や彫刻家のように、 ダンス以外の芸術的な新しい形での私の自己表現の方法です。私が創った作品はすでにパレ・ド・トーキョーに所蔵されていて、つまり私のアーティストとしてのキャリアはすでに始まっているということなんです。かなり前から私はコンテンポラリー・アートにとても興味があって、パレ・ド・トーキョーはもちろん、ポンピドゥー・センター、ケ・ブランリー美術館、それにオルセー美術館やモード美術館など、パリでは時間があるとよく美術館に出向くんですよ。美しいものをたくさん目にしたい、インスピレーションを得たい、と思って」

こうしたことのきっかけとなったのは、ソフィー・カルとの出会いだそうだ。彼女が自分の仕事に浸りきっている姿勢をみて、自分もダンスについてその他の形態で発展させてゆきたいという刺激を受けた。何年か前、バンジャマン・ビオレーのLa Superbe のビデオクリップで振り付けをし、かつ自分でも出演をした時に、「新しいことをするたびに、上手くゆくのでうれしいわ」と語っていた彼女。新しいことを手がけ、それを成功させることによって、また新たなプロジェクトが舞い込んできて……。中には、新しいコンセプトなのでどう説明していいかわからない、というプロジェクトもある。例えば、作家のエリック・レイナルトとの舞台『Brigadoon』だ。フランス南西部ポーの劇場で10月の半ばに、2公演行った。「2年前に彼のためにクリエートしたダンスを私が舞台で踊り、彼が語る、という公演です。一種の舞踏朗読とでもいえばいいのかしら……」

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フォンダシオン・ルイ・ヴィトンのオーディトリアムで10月29、30日に踊られたシェルカウイ振付けの『火の鳥』 © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage

 

10月29、30日はフォンダシオン・ルイ・ヴィトンの地下のオーディトリアムで、シディ・ラルビ・シェルカウイ振り付けの『火の鳥』を、シュツッツガルト・バレエ団プリンパルのフリーデマン・フォーゲルと踊った。財団では、「2016~17年仏露文化ツーリズム年」の中でも一大イベントとされる『近代美術のアイコン シチューキン・コレクション』が2月22日まで開催中で、それに付随して複数のダンスのイベントが行われる。その趣旨は、20世紀初頭のフランスとロシアの芸術交流を振り返ると同時に現代の創作活動に与える影響を解き明かすというもの。彼女が参加したのは、そのオープニング・イベント 「ロシア・バレエ 絶えざる革命」というロシア・バレエの4作品の再創作で構成したプログラムだった。

オペラ座のエトワールという肩書きだけではくくれないマリ=アニエスの活動。42歳が男女共ダンサーの定年であるオペラ座において、1975年生まれの彼女は来季2017~18年にピナ・バウシュの『オルフェとユリディーチェ』でアデュー公演を行う、という。10歳でオペラ座バレエ学校に入り、15歳からバレエ団で踊っている彼女。カロリーヌ・カールソンの『シーニュ』を踊って、エトワールに任命されたのは2004年だ。

「オペラ座にアデューというのは、私にとって終わりではなく、ひとつの段階にすぎません。もちろん、その後もダンスは続けてゆきます。オペラ座を去った後、もっとハードなスケジュールになるような気がして……いいことだわ。これが私の人生なのよ」

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『オルフェとユリディーチェ』を踊るマリ=アニエス・ジロ。彼女がピナ・バウシュから直接伝授された作品を、アデュー公演の演目に選んだ。photo:Laurent Philippe/ Opéra national de Paris

大村真理子
Mariko Omura
madame FIGARO japon パリ支局長
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏する。フリーエディターとして活動し、2006年より現職。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。

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