『プラダを着た悪魔2』楽しんだ! かつて私にも、プラダを着た悪魔のような上司が……。
かつて、私にもプラダを着た悪魔のようなボスがいた——。

20年を経て公開される『プラダを着た悪魔2』。前作(“1”とは銘打ってなかったが)とは時代も変わり、雑誌メディアは厳しい状況。アメリカのトップモード誌「Runway」の編集長ミランダ(メリル・ストリープ)や右腕のナイジェル(スタンリー・トゥッチ)はラグジュアリーファッションブランドとの平和なコラボレートを重視し、社内マネジメントもハラスメントに気を配りながら(特にミランダが)、日々記事を制作している。つまり、かつてほどの威光はプリントメディアにはない、そして、メディアのオンライン版がせっせとコンテンツを配信している。これは全世界のメディアが同じで、雑誌媒体で長い期間働いてきた人であれば「そうそう」とうなずきながら本作を観ることだろう。『プラダを着た悪魔2』は時代の移り変わりを、演出は華やかに誇張しながらも、ありのままに描いていると思う。
女同士、過去の同僚が再会して……。
本作ではかつてのミランダの部下ふたりがそれぞれ異なる道を選びながら、「Runway」を軸に再会する。まずはヒロイン、アンディ。前作『プラダを着た悪魔』で世界的人気女優となったアン・ハサウェイ演じるアンディは、ラストでジャーナリズムに身を投じる決意をし、モード界を去った。しかし、ジャーナリズムの世界でも記者の数がどんどん減らされている昨今、有能なのに職を失い、「Runway」を社会的制裁の危機から救うべく古巣に戻る。この社会的制裁もコミカルに描かれてはいるが、SNSによる「現代あるある」。こんなふうに責められたら、こんなふうに「善の戦士」を投入して対策、という社会のありさまを描いている。

そしてもうひとり、同じくアシスタントを務めていたエミリー(エミリー・ブラント)。前作では心底出張したかったファッションウィークに怪我で行けなくなったり、モード業界に執着があるのにどこか報われなかった彼女は、メディア側に対し強い力を持つラグジュアリーメゾンの敏腕社員に転身。ミランダ、ナイジェル、アンディの3人とエミリーがオフィスで再会し、強気で攻めるシーンは攻守逆転の様相もあって、俳優たちの剛腕と不服と戸惑いと諦観の表情が実に素晴らしかった。
今昔、働くスタイルは違う。

毎日出勤直後のスタバのコーヒーをアシスタントに手配させ、着てきたコートを自分でハンガーにかけることすらしなかったミランダ編集長が、「2」では自身でコートを整え、会議中の辛辣コメントは第一アシスタントによって「やり過ぎ警報」を告げられる。会議のシーンは前作同様傑作で、編集部員の企画提案にクールに嫌味を投げつける、そのコメント能力は健在。メリル・ストリープ演じるミランダの、この「クール味」が『プラダを着た悪魔』シリーズの大いなる魅力のひとつ。健気で真っすぐな主人公アンディに心の奥では共感する観客たちも、ミランダの存在感の虜になる。年齢を重ねようとも、メディアのパワーがかつてほどでなくても、メリル・ストリープ演じるミランダの放つ光は絶大だ。巻頭特集のチーフエディターとして乗り込んできたアンディと、本作では対峙するのではなく「Runway」存続のために共謀する。アンディも自分自身の恋や承認欲求のために上司と対立するのではなく、関わるプロジェクトのために奔走する。メディアの在り方の変化だけでなく、年月を経て人生の色合いが変わった女性たちがどんなふうに仕事に向き合っているかを、真摯に伝えようとしているのが本作だ。

華やかなファッションショーのシーン。
媒体名でもあるRunwayとは、ファッションショーでモデルが歩く通路のことを指す。いわゆるモード誌は各都市で行われる次シーズンのトレンドをキャッチするためファッションウィークを取材するのが通例だが、「1」ではパリ、「2」ではミラノファッションウィークへの出張シーンが描かれる。映画界の俳優たちではなく、実際のファッション界の重鎮たちも登場。「人間主義的資本主義」で経済界からも注目されるブルネロ・クチネリや、ドルチェ&ガッバーナのデザイナーデュオも出演。フィガロジャポンのファッションエディターもドルチェ&ガッバーナのショー会場で撮影が行われている時に現場にいて、メリル・ストリープとスタンリー・トゥッチがドルチェ&ガッバーナのショーのフロントロウに着席する姿を目撃。昨秋の時点でファッション界でも大きな話題となった。余談だが、ドメニコ・ドルチェとステファノ・ガッバーナは世界的なビッグネームとはいえ、ドルチェ&ガッバーナを岩本照氏が纏って登場してくれたフィガロジャポンの表紙を見て、感謝のメールを直接編集者にくれるくらい気さくで温かい人物たち。ムービー撮影チームを寛容に受け入れたに違いない。

現代を生きる登場人物たちが最終的にどう生き抜いていくかはネタばれになってしまうのでここでは書かないが、至極心に響いたシーンがあった。クライマックスの車中でミランダがアンディに向かって言う——働くことでたくさんの対価を払ったが、この仕事が本当に好き。
トップモード誌の編集長として威厳を保つミランダが、ときめいている表情で語っていた。QOL(クオリティ・オブ・ライフ)とか仕事と私生活の好バランスなどが謳われる現代だが、その仕事を心から愛しているなら無我夢中で頑張ったっていいじゃないか、と私自身よく思う。好きなことを、それも敬愛できることを職業にできるなんて大いなる悦びであり幸せだ。ふだんから感じているそんな想いを、『プラダを着た悪魔2』を観て後押しされた。

小気味よく、たくさんの笑いの要素を盛り込んだ良質なアメリカ映画、というのがストレートな感想だ。ファッション業界のリアルだけでなく、ニューヨーク的な言い回しや、ウィットに富んだ意地悪なジョークも頻発し、5月中旬の久しぶりのニューヨーク出張がものすごく楽しみになった。
プラダを着た悪魔はいる!
さて、冒頭に書いた私のかつてのボスは、本当にプラダを着た悪魔だったのだろうか? スレンダー美人で、おしゃれで、事実ミウッチャ・プラダのクリエイションが大好きで、プラダを着ていた。ミランダのように意図的にクール味を出してくるから、最初に下についた時、怖いかも?と思ったけれど、そんな人が笑うとなんだかうれしかった。そして、私のボスを離れる時、かつて描いた巻頭の本特集の全体コンテを「いい内容だと思ったから、ずっと取っておいたけれど、離れるからあなたに戻す」と手渡してくれた。彼女が還暦を超えた現在(注:ミランダの75歳の設定よりは年下です)、いい友人でもある。つまり私の元ボスは、プラダを着た悪魔ではなく、プラダを着た女神だったのかもしれない……ということにしておこう!

『プラダを着た悪魔2』
●監督:デヴィッド・フランケル
●出演:アン・ハサウェイ、メリル・ストリープ、スタンリー・トゥッチ、エミリー・ブラントほか
●2026年、アメリカ映画 ●119分
●配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
●5月1日より、全国にて公開
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