シャネルと映画が紡ぐ愛の連鎖。シャネルと是枝監督のサポートを受けた3作品が一般公開。
ガブリエル・シャネルの時代から映画への情熱を受け継ぐシャネルがスタートしたメンターシップ プログラム「CHANEL AND CINEMA – TOKYO LIGHTS」 。シャネルとメンターである是枝監督によるサポートのもと制作された3本のショートフィルムがシャネル・ネクサス・ホールで一般公開される。
左上:ジャンヌ・モローがシャネルのスーツとバッグを携えローマの空港にて。(1961年)© Keystone France 中:映画『危険な関係』より、仏俳優ジャンヌ・モロー。(1960年)© Getty Images 下:ロミー・シュナイダーとガブリエル・シャネル。(1962年)© Shahrokh Hatami
映画にコミットするラグジュアリー・メゾンは、いまでこそあまたあるが、その先駆者ともいえるのがシャネルである。芸術を愛する創業者ガブリエル・シャネルは、1920年代から映画界にも交友関係が広かった。ハリウッドにも進出し、スクリーンを通してミニマルなシャネルスタイルと現代的な女性像が世界に広がった。また、前衛的な映画作家であったジャン・コクトーの作品には資金提供も行い、若きルキノ・ヴィスコンティにルノワールを紹介し、助監督への機会を与えたことも有名だ。単なる衣装提供にとどまらず、資金援助・人脈形成・文化的パトロネージュという形で映画業界をサポートしたマドモアゼル・シャネルの意思は現在にも脈々と受け継がれている。その精神は、単なる支援にとどまらず、”新たな視点を生み出す場”を創出するかたちで、現代へと更新されている。
衣装提供にとどまらない映画界への支援。上:シャネルのアンバサダーであり、映画監督・プロデューサーのソフィア・コッポラの映画『プリシラ』では、シャネルが特別に製作したウェディングドレスをプリシラ・プレスリー役のケイリー・スピーニーが着用。(2023年)© philippe-le-sourd 下:ティルダ・スウィントンが出演するオッペンハイマー監督の『THE End』(原題)では、シャネルが製作と衣装をサポート。(2024年)© neon
映画界におけるプレゼンスを高めるシャネルが取り組む映画プロジェクトが「CHANEL AND CINEMA-TOKYO LIGHTS」だ。日本を代表する名匠・是枝裕和氏の支持を得て創設されたプロジェクトは、次世代の映画界を担う新しい才能の発掘を目的とするもの。2024年にはシャネルのアンバサダーでもあるティルダ・スウィントンを始め、映画監督の西川美和氏、俳優の役所広司氏、安藤サクラ氏らとともにワークショップが開かれた。その後、公募と選考を経て、選出された首藤凜、田中さくら、古川葵の3名の監督がメンターである是枝監督の指導のもとで短編を完成させた。単なる育成プログラムではなく、メゾンと映画作家が対話する創造の場として機能している点に、このプロジェクトの特異性が際立っているといえるだろう。
MESSAGE from TILDA SWINTON
「シャネルのおかげで、是枝さん、広司さん、サクラさん、美和さんとともに、東京で新進アーティストたちとワークショップを行う機会に恵まれ、心から光栄であり、この上なく楽しい時間を過ごさせていただきました。この活動が今後も続いていくことを心より願っております。 一方で、TOKYO LIGHTSの賞から生まれた3本の映画は、いずれも新鮮な声と視点が印象的です。3作品とも、現代における人と人との繋がりをテーマにしており、これほど芸術が取り組むべき切実な題材は他にないでしょう。 受賞者の皆さまに心からの祝福と、愛を込めてお祝い申し上げます」
ーティルダ・スウィントン
MESSAGE from KOJI YAKUSHO
「みなさん、それぞれの個性を生かした力作だと思います。今回のマスタークラスやショートフィルム制作の経験がいろいろな意味で、みなさんの未来に向けて良い経験であったことを祈ります」
ー役所広司
左から:首藤凜(『親切がやって来る』)、古川葵(『夕べの訪問者』)、田中さくら(『夜明け』)
多くの応募者の中から選出されたのは、3人の新進監督である。すでに『ひらいて』で商業長編デビューを飾っている首藤凜氏、同志社大学を卒業後、『夢見るペトロ』など短編で注目された田中さくら氏、短編映画やドキュメンタリー、MVでキャリアを積んできた古川葵氏。それぞれの世界観、作家性、技術を詰め込まれた3人3様のショートフィルムは、現代の女性像や関係性に独自の視点を投げかけている点でも興味深い。
今回のプロジェクトのメンターである是枝裕和氏、役所広司氏からはフィガロジャポンエクスクルーシブでそれぞれの監督へメッセージが到着。そのメッセージを受賞監督らに届けながら、3つの質問に答えてもらった。
【是枝監督から首藤監督へのコメント】
脚本の段階から、世界や人間に対する独特の批評性がありましたが、出来上がった作品も素晴らしかったです。タイトルからして「親切」を「悪魔」か「ゾンビ」のような「悪意」よりも得体の知れない恐怖の対象として捉えており、後半の傘を巡る描写で更に違和感が増していくその構成も見事でした。
Q1. 制作中、是枝裕和氏からのサポートで心に残っていることや言葉はありますか?
A. 企画コンペの面接時に、ラストシーンに関する議論になりました。「是枝監督ならどうしますか?」と尋ねると、「僕ならこうする」という明確なビジョンが返ってきました。ただ同時に、「作品は作家のものだから、首藤さんの思う通りに撮ったほうがいい」と言っていただき、結局当初の脚本通りに撮影しました。しかし完成した映像を見て、初めて是枝監督のおっしゃったビジョンの意味がわかり、あの時そちらを選んでいたらどうなっていただろうと、今でも考えます。映画って撮ったら取り返しがつかない、怖い!と改めて痛感しました。
Q2. 作品を観た役所広司氏のメッセージを受けて、制作で工夫した点などを教えていただけますか。
【役所広司氏からのメッセージ】
台詞のやり取りが自然で、特に若い親切な男女の芝居がよかったです。ドラマにすんなり入り込めるカメラワークも素晴らしい。後半に「親切」というものを怪しく感じさせる展開も成功していると思います。
A. 「3人それぞれの真意がわからない」という舞台設定のため、セリフは読み合わせを通してかなり細かく調整しました。特に青年役の佐藤寛太さんとは、何を考えどう動く人物なのか、自分たちの実体験も持ち寄りながら擦り合わせていきました。いろんなスタッフキャストの「親切」にまつわるエピソードが聞けて、面白かったです。カメラワークについては、カメラマンの柳島さんから「手持ちはどうだろう?」と素晴らしいご提案があり、偶然そこで起きた出来事のような臨場感が立ち上がるよう試行錯誤していただきました。私はこれまでフィックスで撮ることが多かったので、新しい挑戦になりました。
Q3. 今回のプロジェクト中に撮影した思い出深い写真を1枚見せてください。
Title :この傘はどうでしょうか?
300円ショップで撮って、スタッフのグループラインに送った写真がフォルダに残っていました。作中、キーアイテムになる傘について、みんなでああでもないこうでもないと相談したことを思い出します。最終的にどんな傘が選ばれたのか、ぜひご覧いただけたら嬉しいです。折れ具合にもこだわった一本です。
【是枝監督から田中監督へのコメント】
台詞の繊細なディテールが素晴らしかった。姉妹だからこその省略によって描かれていない時間や記憶はむしろ鮮明に伝わって、2人が別れる最後の朝を見事に表現していました。2人をリビングとベランダに配置したワンカットも効果的でした。
Q1. 制作中、是枝裕和氏からのサポートで心に残っていることや言葉はありますか?
撮影の前に是枝さんとお話しする時間をいただいた際、些細でありながら重要な物語上のファクターを、どのように提示していくのが最も効果的かという点についてアドバイスいただいたことが印象に残っています。例えばその台詞をいつ、どんな風に、何回言うか……などです。そうした緻密なディテールの積み重ねが、映画の強度を決定づけるのだと改めて確信しました。
Q2. 作品を観た役所広司氏のメッセージを受けて、制作で工夫した点などを教えていただけますか。
【役所広司氏からのメッセージ】
夜明け前から姉妹のしばしの別れの時間経過を丁寧に描いていましたが、撮影はかなり大変だったのではないでしょうか。美しい夜明け前の映像が印象的でした。物語としては夜が明けると共に姉妹が迷子になった記憶の違いと2人の心情がもっと見えてくるといいのかな?と思いました。
雨が降ってしまいあたりが濃い霧で覆われた屋外撮影は、スタッフみんなが苦労したと思います。しかしこの霧の出現によって結果的にとてもいい画が出来上がりました。撮影では、夜明けの一番美しい時間をフィルムに焼き付けるべく、深夜からリハーサルを何度も重ね、夜明けが来ると限られた時間の中で一気に撮影しました。ほとんど全てのカットを1テイクで撮影しました。
脚本を執筆するにあたっては、「8分程度」という限られた時間でどこまでのカタルシスをどのように配置し、それに向かう2人は一体何を話しているべきか、緻密なパズルをしました。とても新鮮な作業で、私自身とても楽しむことができました。
Q3. 今回のプロジェクト中に撮影した思い出深い写真を1枚見せてください。
Title: 『夜明け』組を象徴する一枚
香水の粒が落ちる様子を撮影している写真です。夜明け前の色に染まった青い部屋、16mmフィルムが巻かれていく音、小さな小さな香水の粒をじっと見つめるみんなの姿。この瞬間を構成するすべての要素に映画づくりの幸せを感じてシャッターを切りました。ずっとこんなふうにして私たちはこの作品を撮影していたと思います。
【是枝監督から古川監督へのコメント】
密室劇のサスペンスという難しい設定でしたが、これもまた『夜明け』同様に会話によって2人の間に起きたことを少しずつ理解させていく手法をとっていて志の高さを買います。彼女の、つまりは観客の中に芽生えた「疑心暗鬼」が果たして正しかったのか、スーツケースを開けてみたくなりました。そして何より「顔」の映画でしたね。
Q1. 制作中、是枝裕和氏からのサポートで心に残っていることや言葉はありますか?
是枝監督がイン前に必ず見るという成瀬巳喜男の『浮雲』と、必読書として教えてもらった『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』は、カットにどうやったら情感を持たせられるかを考えるきっかけになりました。これから何度も見返すと思います。また、編集の際には「演出は空間のコントロール、編集は時間のコントロール」というアドバイスをいただき、編集で’間’を生み出す面白さを知りました。
個人的に嬉しい発見だったのは、今回、15分を通して「なんか怖い」を表現しようとする中で、文脈とは離れて生まれる説明しきれない動物的な嗅覚を映像で表現することに興味が湧いたことです。今後、ホラーやスリラーに挑戦したいという目標ができました。
Q2. 作品を観た役所広司氏のメッセージを受けて、制作で工夫した点などを教えていただけますか。
【役所広司氏からのメッセージ】
会話の流れと俳優の熱演が結末に期待を持たせてくれました。しかし、最後の結末があっけなく感じてしまい、それは何故だろう?と思いました。短い時間ではありますが、ユーモア(軽み?)と緊張を織り交ぜた展開を意識すれば、結末で迎えるショックがさらに効果を生むのかな?と思いました。
「CURE」のダイアログの緊張感をお手本に脚本を書いていたので、まさか役所さんにご覧いただけたなんて……大変光栄です。今回、密室劇ということで停滞してしまわないよう、役者さんとは特に、動きについて話し合ったのですが、距離感や身体の向きによってセリフのニュアンスが全く違ってくることを身をもって知りました。以降、演出をキャラクターの気持ちの面から考えるだけでなく、動きの面からも考えるようになりました。そしてなにより、身体の状態に素直に反応し、セリフのニュアンスを変化させていく役者さんの表現力に感動しました。
また、展開についてはご指摘の通りでして、短編に見応え・満足感を持たせる難しさを痛感いたしました!!!今回、サスペンス、スリラーのようなジャンルを選び、見る人が最後までハラハラできる展開を目指したことは、見る人を想像して客観的にも作品を作るためのトレーニングになりました。いつかまた、見ていただける機会がありましたら「おっ!古川やるなっ!」と言っていただけるよう、今後の制作で腕を磨いてまいります!
Q3. 今回のプロジェクト中に撮影した思い出深い写真を1枚見せてください。
Title: 映画クラブ
撮影監督・池田さんのご提案で、撮影前に「フィルムを回してみようの会」を設けていただきました。16mmと35mmの端尺を持ち寄って、撮影から映写機での上映までを体験させていただき、フィルム撮影の手触りをみんなで共有しました。このフィルムは、その日の終わりに俳優・スタッフが輪になって演出会議をし始めた様子を見た池田さんが「まるで映画クラブみたいだね」と、こっそり回してくださったものです。
次世代の映画作家たちがどのように世界を捉え直すのか。その萌芽を示すという意味でも、本プロジェクトの意義は大きい。東京を起点に世界へと広がるこの試みが、どのような新たな視点を生み出していくのか、引き続き注目したい。
3作品は、4/24-5/24までシャネル銀座の「ネクサスホール」で一般公開される。
CHANEL AND CINEMA – TOKYO LIGHTS CINEMA WEEKS
会期:4月24日(金)〜5月24日(日)
入場無料/予約優先
場所:東京都中央区銀座 3-5-3 シャネル銀座ビルディング 4 階 シャネル・ネクサス・ホール
予約:シャネルのLINEミニアプリで予約受付中。
シャネルと映画の素敵な関係を紐解く記事をCHECK!
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- photography: Chanel
- text: Atsuko Tatsuta
- edit: フィガロジャポン編集部