ベネディクト16世からレオ14世まで。3代の教皇の祭服を手がけたデザイナーの素顔。

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フィリッポ・ソルチネッリは長年にわたってローマ教皇の祭服を手がけてきた人物。職人技、宗教的遺産、現代的なビジョンといったキーワードが似合うデザイナーだ。

2023年3月30日、ミラノ店のオープニングを迎えたフィリッポ・ソルチネッリ。photography: Alessandro Levati / Getty Images

2026年9月25日から28日まで教皇レオ14世がフランスを訪問する。教皇就任以来、フランス本土への初の公式巡礼となり、パリ、ルルド、メスの各都市を歴訪する予定だ。複数の典礼儀式が予定されており、首都パリのコンコルド広場、聖地ルルド、そして最後にメスのサンテティエンヌ大聖堂でミサが行われる。各地で教皇は明確に定められた規則に従って仕立てられた祭服を身につける。そのデザインを手がけるのが、控えめな奇才のクリエイター、フィリッポ・ソルチネッリだ。

教皇のデザイナー、フィリッポ・ソルチネッリ。photography: Alessandro Levati / Getty Images

「教皇のデザイナー」とも呼ばれるイタリア人デザイナーは20年ほど前からカトリック教会の最高指導者の祭服を手がけてきた。ベネディクト16世、フランシスコ、そしてレオ14世。フィリッポ・ソルチネッリがこの世界に入ったのはひょんな偶然からだった。だが歳月を経て彼は非常に閉鎖的な世界で名を知られる存在となった。

祭服の世界へ

フィリッポ・ソルチネッリはイタリアのマルケ州のモンドルフォに生まれた。代々織物職人や仕立て職人の家に生まれた彼にとって、幼い頃から宗教や教会は身近な存在だった。そこは芸術、建築、法具などが混在する世界で、最初に興味を抱いたのは音楽だった。13歳でローマの教皇庁立宗教音楽研究所に入り、オルガンを学ぶかたわら、イタリア各地の大聖堂でオルガニストを務めるようになる。この学びの時期にカトリックの伝統的な典礼や慣習についての知識を深めていった。

仕立て屋になった契機は2001年、26歳のときに訪れた。友人から司祭叙階式に臨むので、司祭平服を仕立ててほしいと頼まれたのだ。そこで叔母や修道女たちの助けを借り、モンドルフォにある家族経営の小さな工房で服を仕立てた。やがて彼はここにクリエイションの拠点LAVS(Laboratorio Arte Vesti Sacre)、すなわち典礼用の祭服のデザイン、製作、修繕を専門とするテキスタイル工房を設立する。彼の職人技にバチカンもすぐに注目し、フィリッポ・ソルチネッリは2008年以降、ベネディクト16世の祭服など多くの注文を受けるようになった。この協業を通して、徐々に聖職者の服を手がける代表的なクリエイターとして地位を築いていく。

数年後、ローマ教皇庁教皇儀典室からアルゼンチン出身のフランシスコ教皇のための注文があった。2013年、同教皇が就任後初めておこなうミサでの祭服だ。それはクリームと白と金色を用い、あえて簡素なデザインに仕立てた一着であり、教皇が体現しようとしていた、質素さや人々に寄り添うというイメージに調和したものだった。以来、フィリッポ・ソルチネッリは世界各地の多くの枢機卿、大司教、司教の服も手がけ、現在もさまざまな教区や典礼関係機関と仕事を続けている。

LAVSの工房にて フィリッポ・ソルチネッリ。photography: dpa/picture alliance via Getty I

現在51歳のフィリッポ・ソルチネッリはカトリック教徒であり、同性愛者であり、タトゥーも入れており、多分野で活動するアーティストとして自分の個性を打ち出している。宗教関係者の衣服にとどまらず、香水ブランドも現在では立ち上げている。香りの一部はお香や香木、樹脂など、典礼に用いられる香りから直接インスピレーションを得たものだ。その多彩なアプローチにより、2018年にはミラノの教区美術館で彼の展覧会が開催されたほか、複数の賞も受賞している。

厳密なコードに従う衣服

それにしても何世紀にもわたる伝統という制約を受けながら、デザイナーはどのようにクリエイティブな作品を生み出すことができるのだろうか。流行を追ってシルエットを変えられるファッションデザイナーとは異なり、フィリッポ・ソルチネッリが身を置くのは、極めて厳格なコード(規則)に従う世界だ。典礼服にはそれぞれ明確な役割があり、典礼の種類や典礼暦によって服の種類が定められている。ミサを執り行う際に司祭はアルバ、ストラ、カズラなどを身につける。教皇の場合は儀式の重要性に応じて、さらにさまざまな装飾品や小物が加わる。

2026年9月7日、イタリアでの典礼儀式に臨む教皇レオン14世 photography: Mondadori Portfolio / Mondadori Portfolio via Getty Im

まさに伝統とクリエイションのはざまに置かれた厳格な領域でこのイタリア人デザイナーは確固たる地位を築いた。リミニにある彼の工房では、専門の職人たちが細心の注意を払い、とりわけ刺繍や仕上げにこだわりながら仕立てている。手の込んだ作品の場合、完成までに数百時間を要することもある。細部へのこだわりという点では、オートクチュールの作品にも引けを取らないぐらいだ。ただし、フィリッポ・ソルチネッリの仕立てる作品に関しては典礼に従い、その象徴性を尊重し、何世紀も続く伝統を守った上での芸術性が求められるという違いがある。

教皇の祭服のデザイナーとしていまや彼の名は知られるようになったが、レオ14世の祭服を仕立てているのは彼ひとりだけではない。バチカン専門の工房は他にも存在している。イタリア人デザイナーのフェデリコ・トニオーロと典礼専門家のレオナルド・カルドッツァが率いるアゴラ工房もそのひとつで、教皇の祭服の一部を手がけている。どれも似たように見えても、教皇の服の背後には、職人や専門家によるひとつの世界が広がっている。彼らはそのクリエイションを通じ、いにしえから伝わる厳密な服のコードを脈々と受け継いでいるのだ。

From madameFIGARO.fr

※この記事は、フランスの新聞社「Le Figaro」グループが発行する「madame.lefigaro.fr」で掲載されたものの翻訳版です。データや研究結果はすべてオリジナル記事によるものです。

  • text: Bénédicte Magen (madame.lefigaro.fr)