【犬山紙子】夏の風景に恋をして
犬山紙子がいま思うこと
文・犬山紙子
夏が終わりに近づくと寂しくなってしまう。あんなに「暑い〜最悪〜」と言いながらも、夜風を涼しく感じるとそう思う。夏の暑さが私たちの熱っぽい気持ちを代弁してるのか、恋の終わりの寂しさに似た空気が流れる。まだ行かないでよ、私まだ夏に何もしてないって未練がましくなっちゃうのです。
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夏は「何かしなくちゃ」と人を急かすし、周りを見渡すとみんな夏に何かしているように見える。目に止まる誰かの夏の光景はこう。
ひえひえのレモンサワーの水滴
子供のお腹の丸さ弾けるプール
コーラルピンクのキッチュな唇
エロい線香花火
くすみオレンジのペディキュアとほかほかのアスファルト
汗をかいた男の子
商店街の中のブルーストライプのサンドレス
田舎の気だるい犬
アニマル柄のサングラスの未成年
入道雲と夕立前のアイスクリーム
白いリボンのストローハットと張り付いた前髪
フードコードに屯する浴衣の女の子
こういった光景に恋をしているから切なくなるんだなあ。自分には案外風景を愛する心があって、特別な夏の風景より日常の夏の風景に心が反応するんだなと今年やっと気がついた。ただ通り過ぎてるだけじゃなくて知らぬ間に季節を愛でていたんですね。
この夏何した?って聞かれるととっさに答えられないけど、別にそれは「海外留学」とか大きなことじゃなくてもいいんだよね。
本も読んだし(友達のエッセイとか勉強の本とか)映画も観たし(みなさま『おしえて!ドクター・ルース』はもう観ましたか?今年91歳の彼女は現役のセックスセラピスト。まだ性について話すことがタブーのような時代を知性とユーモアで切り開いてたくさんの人を救った人。震えるほどに尊敬できる生き様を見ると自分の可能性が一つ開けるものですね、おすすめ中のおすすめです!)仕事もしたり、友人や家族とコミュニケーションもとったし。悪くないね、私の夏。頰に一つシミが増えた分、今年の夏を愛でたのです。
さあ秋、いつでも来ていいよ。芋も栗も愛でまくってやるから。