Music Sketch

おおはた雄一がギター1本で弾き語る、人生に響く歌

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ギター1本で全国行脚することの多いシンガー・ソングライターのおおはた雄一が、ニュー・アルバム『夜の歌が聴こえる』を発表。東日本大震災の後に発表した前作『ストレンジ・フルーツ』(2012年)以降、彼が行っているユニット活動の話など含めながら、彼の原点である弾き語りで完成させた最新作についてインタビューした。

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シンガー・ソングライターとしてはもちろん、ギタリストとしての評価も高いおおはた雄一。取材先のカフェで。

■ ソロ活動以外の多彩な活動を経て

―ソロ・アルバムのお話を聞く前に、幾つかユニットについてお話してもらっていいですか? まずは"おお雨"(おおはた雄一+坂本美雨)について。

「これは自然発生的に始まって、そんなに続けているつもりもないままに、もうすぐ10年になります。でも実働は少ないかもしれないですね(笑)。やる曲もほぼカヴァーなので、その時の2人のやりたい曲を自然な感じでやれていますね。ユニットとして、とてもよくなってきていると思います」

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おおはた雄一と坂本美雨のユニット、"おお雨"。

―最近ライヴの多い、チャットモンチーの福岡晃子さんと組んでいる"くもゆき"はどのように始まったのですか?

「あっこちゃんが、自分のバンドとは並行して親子で楽しめる音楽みたいなものを予てからやりたいなと思っていたらしいんです。最初は、モデルの宮本りえさんが歌っているバンド"muupeas"にあっこちゃんや、僕もドラムで参加していたりして、そこから彼女ともセッションするようになっていって。それであっこちゃんに呑みに誘われて、"バンドやりませんか"と言われて。2年前の8月30日ですね」

―この間ライヴを見ましたけど、かなりはっちゃけていて、おおはたさん自身も楽しんでいますよね? 歌のテーマも餃子だったりパクチーだったり、子供でも一緒に歌える内容だし。

「あれはあれで自分の違う素が出せたなという感じで好きなんです(笑)」

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福岡晃子と2人でドラムやギターを演奏しながら、掛け合い漫才のように繰り広げられる"くもゆき"。

くもゆき「ザ・ギョーザ!」


―その他は?

「自分でやっているトリオ(芳垣安洋/Dr、伊賀航/B)があって、最近だったら高野寛さん(G,Vo)、畠山美由紀さん(Vo)とやったブルーノート公演が評判良かったみたいですね。あと、金子マリさん(Vo)と2人でライヴをやっています。エレクトリックの日もアコースティックの日もあり、時には久保田晴男さん(G)がと参加していたり。それから有山じゅんじさん(G,Vo)とのセッションも楽しんでいます」

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昨秋にブルーノート東京で大好評だった3人の共演。左から高野寛、畠山美由紀、おおはた雄一。


■ 昔のギターでの弾き語りで、原点回帰を

―他にもギタリストとしてゲスト参加するなど多々活動してきた中で、今回のソロ・アルバムはどういった作品にしたかったのですか?

「書き溜めていた曲をライヴではちょくちょく歌ってきたので、それをソングブックみたいな形で録った感じですね。すごくシンプルなものにしたかったので、一番昔に使っていたギターで弾き語りをするというのをもう1回やってみたかったので」

―それはある意味、原点に戻りたかったということだと思うんですけど、たとえば「小さなアンセム」、「未来の月」、「存在」など、自分の存在意義を確認するような本質を突いた歌詞が多く、『ストレンジ・フルーツ』よりも、震災後の作品と思わせる内容になっている気がします。

「確かにこちらの方が震災の後の感じがするかもしれない。前作の方が怒っていたかもしれない。混乱していたのかもしれないし」

―リスナーも立ち止まった時に、こういう歌を聴きたいのでは?

「それはとても嬉しいです。『小さなアンセム』は2年くらい前にパーッと作ってしまったんですよね。"言いたいヤツには言わせておけ!"みたいな、応援するような感じで。『未来の月』は歌詞はあったんですけど、細かな言い回し、コード、言葉の乗り方、繋がりなど誰も気づかないような細かいところを直すのに時間をかけました」

―今まで言いたいことも、何かに言い換えていたり、聴き様によってはラヴソングに聞こえる歌になっていっていて、ここまではっきり歌ってなかったような。

「確かに歌詞がストレートになってきていると感じます。それはたぶんいろんなところで歌ってきて、だんだん自分がそういうのを少し簡単な言葉で歌いたくなったんでしょうね。あとはMCで語るより、歌で語るというソリッドにやってみたいというのもあって」

―"くもゆき"でおちゃらけている部分、自分の原点みたいなものを無意識のうちに入れたくなったのかな、と。

「そうかも。1曲目とか、"くもゆき"とは全然違いますもんね」

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3月18日には代田橋CUBBYでおおはた雄一×近藤康平によるライヴペインティングが行なわれ、美味しい食事と合わせて大盛況だった。


■ レコーディングも歌詞が変わることが多いリアル感

―実は1曲目を聴いたとき、このアルバムどうなるんだろうと思ったんです。全体を通してだと、とても意思の強さを感じるアルバムです。

「ありがとうございます。やっと10年くらいかかって、こういうことを言えるようになったんだなと」

―ライヴで毎回変化していきそうな曲「存在」はどんな感じでできたのですか?

「すぐにできました。歌詞は決まってなくて、即興で歌ったのを、マネージャーが後から聞き書きして歌詞を起こしてくれたんだと思います。高田渡さんの影響を感じさせる曲ですね」

―レコーディング中も歌詞が変わることは多い?

「そうですね。今回全部歌詞が頭に入っていたから、どの曲も歌詞を見ながら歌わなかったし、しかも歌っていてその場で歌詞を変えちゃうことがあるので」

―フォークシンガーは従来そうだったのかもしれないですね。

「スタジオでも(歌詞を)書いていたって言いますもんね。ボブ・ディランも最近、"インスピレーションを削ぐから歌詞カードは不要だ"とインタビューで言っていたし。(でも歌詞カードがないと、)みんな聞き取れないからなんじゃない?(笑)」

―最後に収録された「物語は続く」はとてもリアル。歌に本質的なものが増えたのは、もしかして震災というより、自分の人生や生活を考えて、そういったことを歌いたくなったということ?

「きっとそうでしょうね。このアルバムの前に、インストゥルメンタルの作品『Solace』(2013年/『キチム』店頭と、おおはたのライヴ会場でのみ限定販売)を作っていて、そこから言葉が出てきてこのアルバムになってきたというか。その頃は"くもゆき"の曲をシリアスなことを考えずに全然違う頭で作っていたから、わりと自分自身のことはソロに絞ったんでしょうね。この曲は最初から最後まで、即興で書いたような記憶があります」

―自分の歌をみんなの歌に変えていくためにも、自身の経験をどこか客観視する必要もあったと思うのですが。

「歌を書くのにひとつのきっかけがあったとしても、僕はそのことをずっと言うのではなく、それをひとつの核として、もっといろんなことを織り込みたいタイプでもあるので、この歌もみんなの歌になればいいなとは思っていますね。そういえばこの曲は1人でやったら救いがないような気がして、特に2番はその場でtico moonの吉野友加さんに"一緒にやってもらえませんか?"ってお願いして、ハープを弾いてもらったんです」

おおはた雄一『夜の歌が聴こえる』アルバム・ダイジェスト


■ 歌詞とメロディを活かす音の響きにこだわって

―歌詞やメロディをとても大事にしているせいか、曲自体が本当にすんなり入ってきます。

「興味があるのは歌詞とメロディと、それに当てるコードの響きの選び方、流れとか。ギターが1本しかない分、なるべく奥行きが見えるようにとか。コードの流れもシンプルに行くなかでちょっと何か1個だけ交ぜるとか、そうするとずいぶん変わって聞こえたりするし、あとボイシング(コードの和音に含まれるそれぞれの音の垂直的な間隔と並び順を決めること)で押さえるところで全然ニュアンスも違ってくるし」

―全部メロディを活かすために演奏しているという?

「そうですね、その時は感覚的にすっきりするまでやりますね。『にじみ』という曲は湯川潮音さんに提供した曲のセルフカヴァーですけど、ここでのイントロ終わりのコードに広がりがあってとても気に入っています」

―ライヴでとても人気の高い「おだやかな暮らし」を再録していますよね。

「これはライヴでtico moonの二人とやったら、とっても良かったので、そのアレンジを残したいと思って。前に発表したのが10年前なので、この10年では使わなかったコードの流れを2回目のサビに入れたり、アイリッシュハープも凄く合っていると思います」

―夜に感じる孤独感を包み込んでいくような、温もりや優しさにも本当にいいアルバムですよね。前作も良かったけれど、こちらはじっくりと味わうように聴き入ってしまいます。アルバムを出したことで自分が次へ進める感触はありますか?

「そうですね、何も形にしないとぼんやりしがちなので、これができた事によって、ずいぶん良かったと思います(笑)」

―おおはたさんの背中に続き、リスナーにとっても背中を押してくれるアルバムになるといいですね。

「そうなってくれたら、とても嬉しいですね」

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『夜の歌が聴こえる』 店頭販売はしておらず、彼のライヴ会場とSONG X JAZZのHPから直接購入できる。


今後のツアースケジュールはおおはた雄一HPで
http://www.yuichiohata.com/index.html

*To be continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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