Music Sketch

人生を楽しむヒントと音楽と。『恐竜が教えてくれたこと』

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オランダの映画『恐竜が教えてくれたこと』は、観終わって想像以上に心が豊かになる素敵なサプライズ映画だった。主人公は、11歳の少年サム。オランダ北部に位置するテルスヘリング島で、家族と一緒にヴァカンスを過ごした1週間が描かれている。そこには思春期を迎えた繊細なサム少年が、現実世界と想像世界を行き来するのにふさわしい、神秘的で美しい、または夢見心地になるような風景がどこまでも広がる。そしてサムの家族や、現地で知り合った不思議な少女テス、さらには彼女を取り巻く個性豊かなキャラクターが次々と登場する。

200318-a.jpg左から、サム役のソンニ・ファンウッテレンと、テス役のヨセフィーン・アレンセン。

■思い出、そしてユニークさを大切にして生きることの意味。

サムは、この世のすべての生き物がいつか死を迎えることに気がつき、「地球最後の恐竜は、自分が最後の恐竜だと知っていたのかな?」と、考え始める。そして、「自分は末っ子だから、家族のなかでいちばん最後に死ぬだろうから、いまのうちから“ひとりぼっちの時間”に馴れておこう」と、ひとりでいることに馴れる訓練を島でスタートする。しかし、「死」や「孤独」を意識するからこそ、人生にとって大事なものが見えてくるのだ。そして“思い出”に着目し始める。

200318-b.jpg島に着いて早々に、サムが砂浜に掘った穴に兄のヨーレが落ちて足を骨折してしまう。

予想を覆す展開で、あっという間に上映時間の84分間が過ぎていく。サムとテスを中心にしつつも、登場人物各々が丁寧に描かれ、いつのまにか自分も全員と知り合いのような気分になってくるほど、親密感にあふれるストーリーだ。

原作はロンドン生まれ、オランダ育ちの作家アンナ・ウォルツ作の児童文学『ぼくとテスの秘密の七日間(原題:Mijn bijzonder rare week met Tess)』。これをオランダ人監督ステフェン・ワウテルロウトが、子どもが主人公なものの、世代を問わず人生を豊かにするヒントを与えてくれる珠玉の映画『恐竜が教えてくれたこと(原題:My Extraordinary Summer with Tess)』として完成させた。

200318-c.jpg毎日必ず“ひとりでいることに馴れる訓練”を自分に課すサム。

ワウテルロウト監督は、これまで子ども向けの短編映画やTV映画を撮り続けてきたが、これが初の長編映画となる。作品については、「僕ら人間には、みんなそれぞれおかしな特性があると思うが、それは素晴らしいことで、大切なことだと思う。だから映画を観て、自分のユニークさを大事にすることがどんなに素晴らしいことなのか感じてほしい。人と違うということは実際、絶対的に普通なことだ」と語っている。

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■新進作曲家フランシスカ・ヘンケの、場面に寄り添う音楽。

また監督は、「美しい景色を撮ることで、サムを大いなる全体の一部として感じてほしかった」とも話す。そして、そこに寄り添うのがフランシスカ・ヘンケのオーガニックな素晴らしい音楽だ。まるで、その場面の傍らで演奏されているかのように、とても身近に感じる音楽。言葉にしづらいサムやテスの心情を弦楽器やピアノなどの最小限の音で表現している。

フランシスカ・ヘンケはドイツのザクセン州出身で、作曲家、プロデューサーの他にギタリストしても活躍している31歳。子ども向け映画『ネリーの冒険(原題:Nelly's Adventure)』(2016年)では弦楽曲からポップスまで幅広く作曲し、ドイツ映画音楽賞の最優秀新人賞を受賞。最近ではゾンビが蔓延する世界をふたりの少女が生き抜こうとするサバイバル・ホラー『ワールドエンド・サーガ 世界感染』(19年)の音楽を担当した。こちらではオーケストラサウンドなどをデジタル処理し、安堵感の向こうに見え隠れする不気味な音響空間を生み出している。

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ジャンルレスに活躍する音楽家、フランシスカ・ヘンケ。photo : Juliana Socher

また、フランクフルト・ブランデンブルグ州立管弦楽団などと仕事をするいっぽうで、最新作では新たなチャレンジも。ドイツで長年、森林の管理と保護に尽力してきたペーター・ウォールレーベンを取り上げたドキュメンタリー映画『The Hidden Life of Trees』(20年)で、森の動物の鳴き声や植物の音をフィールドレコーディングし、クラシック音楽とサウンドデザインの境界に挑戦しているという。どの作品にも共通するのは、その世界観にたっぷり浸りきって作曲していることだろう。

200318-e.jpg感性豊かなサムとテスの心情が、オーガニックな音楽によってスクリーンにさらに広がる。

『恐竜が教えてくれたこと』の主題歌「Dit Vergeet IK Nooit」はオランダ語で“私はこれを決して忘れない”という意味で、ともにオランダ生まれのソンニ・ファンウッテレン(サム)とヨセフィーン・アレンセン(テス)が歌う。他にもキューバのセプテート・トリオ・ロス・ドス(Septeto Trio Los Dos)の07年の人気曲「Dia Sin Estrés」など、劇中でカギとなるナンバーもサウンドトラックに収録されている。

まさに自分もヴァカンスに行ってきたように感じられる、ストーリー、映像、音楽、そして楽しいキャストで、すべてが印象に残る心温まる映画である。

*To Be Continued

『恐竜が教えてくれたこと』
●監督/ステフェン・ワウテルロウト
●脚本/ラウラ・ファンダイク
●出演/ソンニ・ファンウッテレン、ヨセフィーン・アレンセンほか
●2019年、オランダ映画
●84分
●配給/彩プロ  
●3/20(金)より、シネスイッチ銀座ほかにて公開

©2019 BIND & Willink B.V. / Ostlicht Filmproduktion GmbH

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