【虹の刻 第15章】村上虹郎×山田智和×前川知大。
虹の刻
フィガロ本誌3月号より始まった新連載「虹の刻」は、俳優の村上虹郎と映像作家の山田智和、そして各回ごとに変わる文筆家と音楽家を招き、”とある瞬間”を表現する連載企画。
第15回目の文筆家には、劇作家で演出家の前川知大が登場。音楽は、ジャズドラマーとして、ソロ作やバンドCRCK/LCKSで活動するいっぽう、くるりのサポートやアニメ「坂道のアポロン」の演奏など、幅広く活躍する石若駿が担当。
どこまでも広がる雪原で、あてもなく歩く夕暮れ時。4人の表現者が描く、「分かりたい」の話。
コート¥394,350、ニット¥90,750、ショーツ¥79,200/以上オーエーエ ムシー(エドストローム オフィス)
分かりたい 前川知大
愛が何か、今もよく分からない。でも愛のふりをした何かは、よく見てきたように思う。
例えば「きみの為だよ」というのも。後になって「ああ、あれは僕の為を思って」などと思ったことは一度もない。あんなのは支配の為の方便だよ。
あと「裏切られた」というのもあまり好きじゃない。もちろん言葉通りの場合もあるけど、半分は見たくない相手の一面と遭遇した時に発せられる。もし無反省にそんな言葉を吐けるのなら、それもまた愛とは違う何かではないか。
あるいは介入についても。例えば友達が壁の前でもがいている時、子供が学校で人間関係に苦しんでいる時、大切な人が延命治療を拒んだ時。割って入りたい気持ちは僕も分かる、でもそれは誰の為? 見るに耐えない自分の心を守りたいだけなんだ。できることは、目を逸らさず最後まで見守る、それくらいだ。
共通するのは、結局自分ってこと。
でもこんな言葉もあるよね。「自分を愛せない人は、他人を愛することはできない」。ほら、また分からなくなってきた。
でもそれでいい。一番やっかいなのは、「本当の愛は」なんて言う人だよ。「本当の」なんて言葉を使って、自分の信じること以外に「嘘」のラベルを貼ろうとする。
分からないことは分からないまま、僕らはその対象に向き合うことができる。分かりたいという思いを抱えながら。
Tomokazu Yamada
1987年生まれ、東京都出身。Caviar所属。アーティストへの敬意、作品や精神性への共感と愛。光や闇、水などの自然を巧みに取り入れた作品群は、普遍性を持ちつつ私的な感情を描き出す。2018年、米津玄師「Lemon」のMVでMTV VMAJ 2018 最優秀ビデオ賞受賞、19年、スペースシャワーミュージックアワードでBEST VIDEO DIRECTOR受賞。
https://tomokazuyamada.com
Nijiro Murakami
1997年生まれ、東京都出身。2014年、カンヌ国際映画祭出品作『2つ目の窓』で主演を務め、俳優デビュー。作品の持つ時代性や自身の内的な記憶と真摯に向き合い、繊細な感情を映し出す演技派。出演映画『燃えよ剣』が5月22日に公開予定。5月31日からは、Bunkamura シアターコクーンでの舞台『パラダイス』(赤堀雅秋 作・演出)の公演を控える。映画『ソワレ』が2020年晩夏公開予定。
Tomohiro Maekawa
1974年生まれ、新潟県出身。2003年結成のイキウメを活動の拠点とし、全作品の作・演出を手がける。11年、舞台『太陽』で第63回読売文学賞戯曲・シナリオ賞、『奇ッ怪 其ノ弍』『太陽』で第19回読売演劇大賞 大賞、最優秀演出家賞を受賞。17年、舞台作品を原作にした映画『散歩する侵略者』(黒沢清監督)が第70回カンヌ国際映画祭に出品。
Shun Ishiwaka
1992年生まれ、北海道出身。13歳よりクラシックパーカッションを始める。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校打楽器専攻を経て、同大学を卒業。卒業時、アカンサス音楽賞、同声会賞を受賞。アニメ「坂道のアポロン」の演奏とモデルを担当。16年、リーダーアルバム『CLEANUP』をリリースし、JAZZ JAPAN AWARD2015のアルバム・オブ・ザ・イヤー ニュー・スター部門に選出。同年、5人組バンドCRCK/LCKSを結成。18年、くるりのライブサポート、レコーディングに参加。19年、新プロジェクト「Answer to Remember」をスタ―ト。
www.shun-ishiwaka.com
エドストローム オフィス
tel:03-6427-5901
※この記事に記載している価格は、標準税率10%の税込価格です。
réalisation : TOMOKAZU YAMADA, direction de la photographie et montage : YUKI SHIRATORI, musique : SHUN ISHIWAKA , acteur : NIJIRO MURAKAMI, texte : KAZUTOYO KOYABU, stylisme : KEISUKE SHIBAHARA, coiffure et maquillage : KATSUYOSHI KOJIMA(TRON), collaboration : HOSHINO RESORTS TOMAMU