齊藤工 活動寫眞館・弐拾 福島リラ。
「齊藤工 活動寫眞館」について
俳優、斎藤工。そして、映画監督、齊藤工。表舞台であらゆる「人物」を演じ、裏方にまわり物語をクリエイトしていく。齊藤工がいま見つめるものとは、何か。彼自身がシャッターを切り、選び出す。モノクロームの世界に広がる、「生きた時間」を公開していきます。今回は、モデル・女優として国内外で活躍する福島リラが登場。
1月中旬、待ち合わせ場所は公園の大きな滑り台の前。先に到着したのは福島リラ。
「子どもの頃は、“ここから落ちたらワニに食べられる”なんて、設定を考えて遊んでいました」
遊具を眺めながら、福島はそんなエピソードを話してくれた。その声は快活で明るく、まるでよく知っている同級生の女の子のような親密さを感じさせた。オーバーサイズのカーキ色のアウターにグレーのローゲージニット、細身の黒いパンツにブーツというカジュアルな服装もその一因かもしれないが、福島は「活動寫眞館」のバックナンバーを見て、齊藤の撮るモノクロームの写真には、どんな色や素材の服が合うだろうかと考えて選んだという。
齊藤が公園に現れ、ふたりは挨拶を交わした。お互いの活躍に刺激を受け合いながらも、この日が初対面だった。1月にしては暖かなこの日の日差しのように、撮影はゆっくりと穏やかに始まった。
福島と齊藤は、映画のことや共通の知人たちのことを話しながら、同世代ならではの感覚をシェアしているように見えた。自然と心が打ち解けていくようなやりとりを続けつつ、福島がジャングルジムをするすると上り始める。そんな彼女を見上げてカメラを構えていた齊藤も、彼女が移動するのを追って上っていく。大きな滑り台の上で、童心にかえって戯れるように撮影をするふたりの周りに、子どもたちが集まってくる。
ひととおり撮影を終え、そこから移動して訪れたのはバー。営業時間前の店内には、冬の柔らかい光が差し込んでいる。その一角でテーブルを挟んで座り、齊藤がシャッターを切る音の合間に、対話が続く。いつしかふたりとも経験しているというマクロビオティックの食生活の話になる。
福島 いまもマクロビですか?
齊藤 いえ、小学校の6年間だけでしたね。
福島 私は20代の頃、ほとんどマクロビだったんです。ニューヨークに住み始めた時から。
齊藤 それは自主的に?
福島 はい、自主的に。でも帰国してから、撮影現場で「私マクロビなんです」と言っていると、自分が要求の多い人みたいに感じられて。まだそういう環境ではないんだなと思いました。いまは何でも食べます。お肉を食べるようになって、すごく元気が出るようになりました(笑)
齊藤 宗教上のこともあると思いますけど、海外のほうがそういう食生活をしやすいですよね。
福島 何でも食べられるけど今日はこれをチョイスする、というほうが健康的な気がして。でもマクロビをやっていた時は体調がよかったです。次の日にも疲れが残らないし。お酒は飲まれますか?
齊藤 たくさんは飲めないですけれど、お酒の場はとても好きです。
福島 私も「茶色いお酒が似合う」って言われるけれど(笑)、全然飲めないんです。イベントなどでは、シャンパンのグラスにジンジャーエールを入れてもらって飲んでます。
そんなやりとりをしながら切り取られた福島の表情は、公園でのリラックスした雰囲気とは打って変わって、こちらをまっすぐに見つめる凛とした瞳に吸い込まれてしまいそうに感じられた。
よい写真が撮れて、ふたりの間にカメラがなくなってからも、話は続いた。齊藤は海外に拠点を移した福島の活躍を見守ってきたと語る。
齊藤 自分の身の置きどころについて、いい意味で悩んだんです。僕が単身海を渡るということではないなと思って。自分の場合は、この日本で作った作品が海外に行くことを目標に掲げたんです。実際に海外で戦いに挑むには、中途半端な気持ちでは絶対に通用しないので。
福島 私は、齊藤さんがこれからアジアを代表する映画監督、表現者になるんだろうなと思っています。演じられている作品も拝見して、本当にいろんな才能がある方なんだなあと思って。
齊藤 とんでもないです。
福島 応援しています。あと、移動映画館を主宰されていたり、WOWOWの映画の番組も。
齊藤 すみません(笑)。知っていただいていてありがとうございます。
福島 同世代でもあるので、こんなふうに活躍されている方がいるんだなあ、と遠くから刺激をもらっていました。
齊藤 それはたぶん、主戦場で戦えないって分かったので、隙間というか、自分にできることをやっています。
福島 謙虚。新しいアーティストとしての在り方、生き方の提示みたいなことをされているんじゃないかと思ってます。それこそ私も、モデルをしていた時にいたのは主戦場じゃないんです。メインストリームの人が右に行ったら左に走る、みたいなところがあったし(笑)。でもそこにいま不満は感じていなくて、そのおかげでできていることはたくさんあります。女優の仕事も、自分に合いそうなものがあったらまたやってみたいという気持ちがすごくあります。
少女のように無垢な表情と、強さと繊細さを秘めたまなざし。これまでに見たことのない福島の多彩な表情をとらえた写真を見ていると、“戦い”に挑み続けるふたりが、今回の撮影を通じて深く共感したのではないかと感じられた。
2013年、映画『ウルヴァリン: SAMURAI』にてハリウッドデビューし、女優業を本格的に始動。14年にはNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」、同年10月からアメリカのTVドラマ「ARROW」シーズン3に出演。15年からTVドラマシリーズ「Game of Thrones」シーズン5にアジア人として初めて出演。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(17年)、テレビ東京/Netflix 共同制作ドラマ「百万円の女たち」(17年)、「BLINDSPOT~ブラインドスポット」シーズン4(18年)に出演。日本人初のルイ・ヴィトン 2017 オフィシャルアンバサダーに就任。19年から国際派女優のキャリアを積むべく再スタートをきる。
TAKUMI SAITOH
移動映画館プロジェクト「cinéma bird」主宰。監督作『blank13』(18年)が国内外の映画祭で8冠獲得。昨年12月、パリ・ルーヴルでのアート展『Salon des Beaux Arts 2018』にて写真作品『守破離』が銅賞を受賞。企画・プロデュース・主演を務める『MANRIKI』が今年公開予定。www.b-b-h.jp/actor/saitohtakumi