齊藤工 活動寫眞館・参拾肆 小松菜奈。
「齊藤工 活動寫眞館」について
俳優、斎藤工。そして、映画監督、齊藤工。表舞台であらゆる「人物」を演じ、裏方にまわり物語をクリエイトしていく。齊藤工がいま見つめるものとは、何か。彼自身がシャッターを切り、選び出す。モノクロームの世界に広がる、「生きた時間」を公開していきます。今回は、映画『糸』で齊藤と初共演した女優の小松菜奈が登場。
発売中のフィガロジャポン6月号「活動寫眞館」に掲載された、小松菜奈のふたつのポートレート。右ページの横顔は憂いを帯び、どこか心が彷徨っているような印象。それに対して左ページは、瞳に映るものに素直に反応する少女を思わせるあどけなさを感じさせる。いずれも映画『糸』で主人公・葵を演じた小松の表情であり、ひとときの恋人役で共演した齊藤が、映画撮影の合間にとらえたものだ。後者はふたりが初めて共演した沖縄で撮影された。
「僕は沖縄でクランクインでしたが、小松さんにとっては順撮りではなかったから、感情のタイムスリップをしなければいけなかったと思います。でも浜辺での最初のシーンから、嘘のない眼差しをした人がそこにいた」
この映画の中で齊藤と小松のシーンは、平成のリーマンショックの時期を駆け抜けるように目まぐるしく展開していく。小松は、フィガロジャポン5月号では齊藤とともにファッションシューティングに臨み、その時の対談で、自身の役を沖縄の海や自然が導いてくれたと語った。その言葉を裏付けるかのように、沖縄で齊藤が撮影した小松は無邪気に自然と戯れながら、表情は明るい輝きを放っている。同時にさまざまなしがらみから解放され、ようやく素直に向き合えた恋人に対する、葵としての思いが重なっているようにも見える。
いっぽうで物憂げな横顔のショットが撮影されたのは、東京でのシーン撮影の時。小松演じる葵と、W主演の菅田将暉が演じる漣が再会するところを、齊藤演じる水島は遠くから目撃する。
「ふたりの間に見えないはずの何かが見えて、経験はないですが彼女が同窓会に気合いを入れて行くのを見送るような(笑)、ざわつく感じがして、水島としては心の置きどころがなくなり、いい意味ですごく乱れた。葵の感情はもうここにないけれど、それを見せないようにしているのが皮膚感覚で伝わってきて。気持ちをこちらに向けてくれているぶんだけ、反比例して遠のいていく。だから自分が彼女の背中を押す日がいつか来ると、水島にはわかっていた気がするんです」
その後、なぜふたりは沖縄に行くのか。水島はどのような形で葵の背中を押すのか。いずれスクリーンで見届けたい。
前述の5月号でのファッションシューティングについて、小松は齊藤との撮影に緊張したと明かしつつ、「他人ではない感じがして、すごくいい時間でした」とも語った。共演したかけがえのない時間が心をよぎったのかもしれない。
「小松菜奈は実在した、だけど銀幕の中のヒロインとしても存在し続けている。
お会いして、作品をともにして、より神秘性、神話性が高まりました」
『糸』
●監督/瀬々敬久
●出演/菅田将暉、小松菜奈、榮倉奈々、斎藤工ほか
●2020年、日本映画
●130分
●配給/東宝
●近日公開
https://ito-movie.jp
©2020 映画『糸』製作委員会
東京都出身。モデルを経て『渇き。』(2014年)でスクリーンデビューし、日本アカデミー賞新人俳優賞のほか数多くの賞を受賞。『沈黙-サイレンス-』(16年)でハリウッドデビューを果たす。歌とギターにも初挑戦した『さよならくちびる』や『閉鎖病棟-それぞれの朝-』(ともに19年)など、映画を中心に数々の話題作に出演。『糸』で菅田将暉とともにW主演を務める。公開待機作には映画『さくら』、『恋する寄生虫』がある。
TAKUMI SAITOH
長編初監督作『blank13』(2018年)が国内外の映画祭で8冠獲得。同18年、パリ・ルーヴル美術館のアート展にて白黒写真作品が銅賞受賞。19年も出品。日本代表として監督を務めたHBO Asia “Folklore”『TATAMI』(18年)と“Foodlore”『Life in a box』(19年)、企画・制作・主演の『MANRIKI』、企画・脚本・監督・撮影の『COMPLY+-ANCE』が公開中。近日公開の映画『糸』に出演。21年公開予定の『シン・ウルトラマン』に主演。13作目となる監督最新作は同年公開予定の『ゾッキ』。移動映画館cinéma bird主宰。