自宅時間、YouTubeでパリ・オペラ座バレエに強くなる。
パリとバレエとオペラ座と。
パリ・オペラ座バレエ団の来季2020-21のプログラムは発表後、変更が生じています。
詳しくはhttps://www.operadeparis.fr/en/programme-and-ticketsにて。
新型コロナウイルスと最前線で闘う医療従事者たちへ感謝を捧げるダンスメッセージ『Dire Merci』が、4月16日にパリ・オペラ座バレエ団のインスタグラムにアップされた。以来、約60名のダンサーが次々即興で踊るメッセージを視聴する人の数は増すばかり。制作には映画監督セドリック・クラピッシュも参加していて、誰もが見て楽しめる上出来の4分39秒だ。この支援メッセージを受け取ったある病院の医療関係者たちは、『白鳥の湖』のコール・ド・バレエを真似たビデオで返礼メッセージをアップ。また、このダンスメッセージに触発されて仲間と一緒にダンサーたちの動きをまるごとコピーしたビデオをつくる人も現れて……。
『Dire Merci』より。バレエ団でこの制作に関わったのは、スジェのシリル・ミティリアン。ソーシャルメディア活動にアクティブなダンサーのひとりで、昨年末ガルニエ宮の前で踊られた『白鳥の湖』のまとめ役を務め、撮影も行っている。
これに限らず、YouTubeにはパリ・オペラ座バレエ団による公式のビデオが多数登録されている。舞台あり、リハーサルあり。どれもさほど長くないので、ちょっと一服、というときに見てみては? エトワールたちが登場するこの2年間くらいの動画を何本か紹介しよう。
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ドロテ・ジルベール『ライモンダ』のリハーサル
昨年の12月、オペラ・バスティーユで31日まで踊られる予定だったルドルフ・ヌレエフの『Raymonda(ライモンダ)』は、年金改革反対ストにより初日の公演以降はすべてキャンセルされてしまった。長いことオペラ座で踊られることのなかったこのヌレエフ作品への期待は高かっただけに、これには大勢ががっかり。来シーズンにはあいにくとプログラムされていない。
そのリハーサル映像(英語字幕つきの5分10秒)では、稽古風景が見られるだけでなく、ライモンダ役のドロテ・ジルベール、アブディラム役のステファン・ビュリオン、ジャン・ドゥ・ブリエンヌ役のポール・マルクが登場し、各々の役や作品についての説明も聞くことができる。制作されたのは公演前なので、舞台の映像は過去の抜粋が挿入されている。いつかこの作品を鑑賞する日のため、これを見て雰囲気を掴んでおくといいだろう。
2019年12月の『ライモンダ』。ファーストキャストはドロテ・ジルベールとユーゴ・マルシャンだった。photo : Svetlana Lobbof/ Opéra national de Paris
衣装、舞台、音楽もとても豪華! photo : Svetlana Lobbof/ Opéra national de Paris
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2021年3月までお預けとなった『ル・パルク』
『ライモンダ』と同時期にオペラ・ガルニエでの公演が予定されていたアンジュラン・プレルジョカージュの『Le Parc(ル・パルク)』。ゲネプロを含め、公演すべてがキャンセルとなってしまった“幻の”作品ではあるが、『ライモンダ』と違ってこちらは来シーズン2020〜21のプログラムに入っている。公演は2021年3月。その配役はまだ発表されていないが、YouTubeでは12月3日に行われた第一配役によるプレゲネプロから短いながら3本の映像があげられている。モーツァルトの音楽に乗せて主人公役を踊るのはマチュー・ガニオだ。
パリ・オペラ座のため、18世紀の宮廷を舞台にアンジュラン・プレルジョカージュが1994年に創作した作品。『ル・パルク』のクラシックとモダンダンスが見事に融合された身体言語で踊られる。コール・ド・バレエのロクサーヌ・ストヤノフ、イダ・ヴィキンコスキー、レティティア・ガロニが踊る3本目も見ごたえ十分。photo : Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
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来季の開幕トリプルビルで踊られる『Art of Not Looking Back』
ホフェッシュ・シェクターが2009年に創作した『Art of Not Looking Back』は、2018年5月にパリ・オペラ座にレパートリー入りした。ホフェッシュが母親に置き去りにされた“子ども時代のパンドラの箱を開けた”という作品だ。大音響(オペラ・ガルニエでは耳栓が配られた!)と暗い照明の中、9名の女性ダンサーたちが素足で30分間踊り続ける。ダンサーたちの一体感が観客を舞台に引きずり込むパワーと美しさがあり、たとえばナイス・デュボスク(スジェ)は、これに配役されなかったことを残念に思っているそうだ。2018年に踊った9名のダンサー中、ミュリエル・ジュスペルギーが昨年引退。2020年9月、彼女はこの作品を踊れるだろうか……。
オペラ座初演時に配役されたのはオニール八菜、ミュリエル・ジュスペルギー、マリオン・バルボー、エロイーズ・ブルドン、イダ・ヴィキンコスキー、キャロリーヌ・オスモン、マリオン・ゴルティエ=ドゥ=シャルナッセ、クレマンス・グロス、エロイーズ・ジョクヴィエル。photo:Agathe Pouponey/ Opéra national de Paris
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2021年6月を待ちながら『ロミオとジュリエット』のパ・ド・ドゥを
ジェルマン・ルーヴェとレオノール・ボラックは、日にちは異なるものの2016年12月に『白鳥の湖』を踊り、オーレリー・デュポン芸術監督によりともにエトワールに任命されている。入団からほぼ同じようにバレエ団の階段を上がってきたふたりは、身体的なバランスもよいことからパートナーとして配役される舞台も少なくない。バンジャマン・ミルピエ前監督も、2015年の公演『ロミオとジュリエット』にまだスジェだったフレッシュな彼らを起用した。そのふたりによるバルコニーのパ・ド・ドゥを見てみよう。2021年6月6日から始まる公演でも、この組み合わせで見られるだろうか……。
photo : Michel Lidvac
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アマンディーヌとユーゴのリハーサル、『ロミオとジュリエット』
『Romeo and Juliet(ロミオとジュリエット)』といってもヌレエフ版ではなく、サシャ・ワルツによるコンテンポラリー作品である。日本でこの作品をアマンディーヌ・アルビッソンとユーゴ・マルシャンの組み合わせで見られる可能性は、極めて低いだろう。リハーサル・コーチとの仕事、アマンディーヌとユーゴの語りで構成された英語字幕が付く約5分のこのビデオで満足するとしよう。英語字幕付、2018年撮影。
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『椿姫』から2つのパ・ド・ドゥをレオノールとマチューで
レオノール・ボラックがいつか日本で踊れたら、と願う作品は『椿姫』。この作品では、彼女はまだコリフェだった時にオランピアに抜擢されている。2018年12月の公演では、マチュー・ガニオをパートナーに主役マルグリットに配役された。その時の第一幕の出会いのブルー・パ・ド・ドゥと第三幕の濃密で悲壮なブラック・パ・ド・ドゥをショパンの美しい音楽とともに!
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素顔のエトワールが語る
エトワール・ダンサーひとりひとりにフォーカスを置いたシリーズ『Parcours d’Etoile』が徐々にアップされている。ダンスを始めたきっかけに始まり学校時代、任命などが語られ、子ども時代の写真、クラスレッスンの様子、デフィレ、舞台映像の抜粋などが語りの中に組み込まれて展開する。かつてオペラ座のダンサーだったヴァンサン・コルディエが監督するシリーズ。現在、5名のエトワールの話を聞くことができる。次は誰だろう……。英語字幕付きで、いずれも10分弱の長さにまとめられている。
エレオノーラ・アバニャート。子ども時代にローラン・プティに見いだされた彼女は、『カルメン』(写真)をはじめ彼の作品には欠かせないダンサーだ。祖国イタリアのローマ歌劇場バレエ団の芸術監督も兼任、という珍しいエトワール。2019年12月23日に予定されていた『ル・パルク』でのアデュー公演は年金改革反対ストでキャンセルに。5月18日に再設定されたアデュー公演は、さらに9月に延期された。photo : Julien Benhamou/ Opéra national de Paris
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ステファン・ビュリオン。日本で開催されるガラに参加しないダンサーなので、なじみの薄いエトワールだろう。コンテンポラリーダンスのコレオグラファーに愛される彼だが、クラシック作品にも優れたダンサーで2010年に『ラ・バヤデール』のソロール役を踊りエトワールに任命された。この紹介ビデオでは、趣味の写真についても多く語っている。現在40歳。photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
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ユーゴ・マルシャン。ウィリアム・フォーサイスやクリスタル・パイトといったコンテンポラリー創作家との仕事を語り、後者による『Body and Soul』(写真)からの舞台の抜粋も。2017年の来日公演で踊られた『ラ・シルフィード』でのエトワール任命の瞬間も収められている。photo : Julien Benhamou/ Opéra national de Paris
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マチュー・ガニオ。彼は2004年、20歳の時に『ドン・キホーテ』を踊りスジェから飛び級でエトワールに任命された。この映像には、ローラン・プティが彼の母に振り付けた『マ・パヴロヴァ』(写真)で舞台デビューを果たしたときの愛らしい姿も挿入されている。photo : Michel Lidvac
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リュドミラ・パリエロ。アルゼンチン出身の美脚のダンサーで、2012年3月22日に『ラ・バヤデール』のガムザッティ役を踊ってエトワールに任命された。この役を踊る予定のダンサー全員が怪我で降板し、この3月22日の夜の公演はガムザッティがいない!という状況に。当時の芸術監督ブリジット・ルフェーヴルが白羽の矢を立てたのは、2年前にこの役を踊った経験のあるリュドミラだった。当日の午後に稽古を始め、晩の舞台で任命!というエピソードがある。photo : Ann Ray/Opéra national de Paris
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。