エルメスで、プティ アッシュのカンカイユリィが楽しい。
PARIS DECO
言葉の響きになんだか心が弾む、ラ・カンカイユリィ(金物屋)! 工具類、金物雑貨、掃除道具などを販売する店のことである。 今、エルメスのセーヴル通り店の一階のプティ アッシュのコーナーでは、“ラ・カンカイユリィ”と銘打って、まさに金物屋的なイメージで新しいコレクションをお披露目中だ。製品の販売は続くけれど、このラ・カンカイユリィのインスタレーションは3月の頭まで、となると急いで見に行きたくなるのでは? 駆けつけても慌てて店に入らず、まずはウィンドウを眺めてみて! 革製のカラフルなくちばしをつけたはたきが、まるで鳥たちが遠方へと群れで飛んで行くように右側のウィンドウに眺められるのだから。
ラ・カンカイユリィのイメージでまとめられた左側のウィンドウ。
店内の上方にも、鳥のくちばしをつけたはたきが。棚の上のワインカラフをふたつ繋げた巨大な砂時計は、予約済み! このインスタレーションが見られるのは、3月上旬まで。
アーティスティック・ディレクターのパスカル・ミュサールがラ・カンカイユリィの主役に選んだのは、トンカチ、ねじ回し、ブラシ、定規といった、アトリエで職人たちにとって不可欠な貴重な道具たちだ。ブティックの壁を飾っているトンカチは柄の部分がカラフルな革で覆われ、バッグはモチーフがトンカチ、ハサミ、目抜きといった道具で、スツールのような道具箱は、革の蓋の留め具がケリー・バッグのようにカデナだったり……。ラ・カンカイユリィと名付けただけあり、実際に日常生活の中で使えるものばかり。
ハサミ、ペンチ、トンカチ……。ラ・カンカイユリィにようこそ。
ケリー・バッグのように閉じる脚付道具箱。これがあったら大工仕事や針仕事に積極的に取り組みたくなる!
エルメスのさまざまなメチエのアトリエで不要となった素材や、商品化されなかった品を集め、そこからファンタジーあふれるクリエーションを生み出し続けるプティ アッシュ。 2010年にプティ アッシュがスタートする前から、アーティスティック・ディレクターのパスカルはエルメスの品を本来の用途と異なる使い方をするのを楽しんでいた。乗馬用の鐙を食卓に置いてみたり、イヤリングを靴の飾りにしたり、というように。子ども時代から放課後をブティックで過ごしていた彼女が、エルメスのアトリエの職人たちに抱く愛情はとても深い。かつて引退する職人から愛用していた釘入れのメタル缶を贈られたことを、とても喜んでいた。そして、また彼女は古びてゆくオブジェが美しく、捨てることができない。そんなパスカルとチームのデザイナーたちだからこそ、微笑みを誘うアイデアで捨てられる運命の品から稀少価値をもつ品をマジシャンのようにクリエイトできる。自由奔放な発想の実験室だというプティ アッシュのアトリエから生まれる品々は、買うのも楽しいし、眺めているだけでも気持ちが陽気になる。
中央の引き出しの左側に縦に並ぶナンタケット風バスケットは、あっと言う間に販売終了! 陶器のキーホルダーなど、求めやすい品も揃っている。テーブルウェアコーナーで販売されているモザイクのお皿が、小さな星型のキーホルダーになった姿を見るのは、ちょっと楽しいかも。
スニーカー用のシルクのシューレースや、動物の顔をかたどった革のスニーカー用装飾も販売。
photos:Alex Profit
17, rue de Sèvres
75006 Paris
tel:01 42 22 80 83
営)10:30〜19:00
休)日
madameFIGARO.jpコントリビューティングエディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。