地下鉄の白いタイルと
建築家アンリ・ソヴァージュ。
PARIS DECO
パリの地下鉄駅といったら、まず思い浮かぶのは面取りを施した光沢のある白い陶製の長方形タイルでは? サイズは縦7,5cm、横15cm。その使用開始は地下鉄の歴史と同時で20世紀のはじめである。2013年からパリ市内の地下鉄駅は利用者利用者のより安全と便を求めてあちこちで改装工事が進行中で、なんでも273駅で合計約2300万枚のこのメトロ・タイルがこれに際して新たに使われるそうだ。
最近はアパルトマンのインテリアで、キッチンやバスルームにも使われるメトロ・タイルだが、ずっと昔にこれを建物の外装に使用した例がある。かなり年配の映画ファンなら、ベルトルッチ監督の『ラスト・タンゴ・イン・パリス』(1972)で主役のマーロン・ブランドが最後に殺されるアパルトマンと言えば、ああ!! となるはず。それは1912年から13年にかけて建築された、パリ6区のヴァヴァン通り26番地のアンリ・ソヴァージュ(1873〜1932)による建物だ。これが今ももちろん健在……というのは、パリの街の素晴らしいことのひとつだろう。地下鉄12番線のVavin駅からそう遠くないから、見に行ってみよう。タイルの外壁だけでなく、その形の珍しさもこの建物の特徴となっているので、見つけるのは簡単。採光のため、そして多くの家庭がテラスを持てるようにと、階段状に建てられているのだ。パリ18区では、低所得者用に彼が建てた階段状住宅を見ることができる。彼は1925〜30年にはデパートのラ・サマリテーヌの2号館、3号館も手がけた。デパートは長いことクローズしていたが、目下、その跡地にLVMHグループによる高級ホテルの建築が進行中。敷地内、取り壊されてしまった19世紀の建築物があったけど、ソヴァージュのアールデコの建物はどのように生き残れるのだろうか……。完成予定の2018年までのミステリー!?
madame FIGARO japon パリ支局長
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏する。フリーエディターとして活動し、2006年より現職。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。