驚くべき実話を描く『エル・クラン』監督インタビュー。

インタビュー

勢いのある南米映画。奇想天外なブラックコメディ『人生スイッチ』(2014年、ダミアン・ジフロン監督)のヒットも記憶に新しいが、そのアルゼンチンからまたまた傑作が登場した。気鋭パブロ・トラペロ監督による『エル・クラン』である。

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『エル・クラン』©2014 Capital Intelectual S.A. / MATANZA CINE / EL DESEO
 

実際に起きた“裕福な一家による連続誘拐事件”を題材にしたドラマである。本国では『人生スイッチ』のオープニング記録を抜く成功を収めた本作は、2015年の第72回ヴェネチア国際映画祭で監督賞を受賞するなど国際的にも高く評価された。

「この事件のニュースを聞いたのは、13歳か14歳のときでした。その後、大人になって映画を作るようになって、この事件を思い出し、映画にふさわしい題材だと思い始めたのです。前作の『ホワイト・エレファント』(2012年)ではブエノスアイレスのスラム街に赴任した神父の目を通して現実を描きましたが、今作では、30年前に実際に起こったことを映画化することで検証することが意味深いと思ったのです」

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パブロ・トラペロ監督
 

1983年、裕福で近所でも評判がよかったプッチオ一家が連続誘拐の罪で逮捕され、世間を震撼させた。人質たちは家族の友人や顔見知りで、中には殺されたものもいた。なぜ、一見普通の一家が、そのような恐ろしい犯罪に手を染めたのか?その大いなる疑問が、物語を牽引するキーポイントとなる。

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『エル・クラン』より、アルキメデス・プッチオを演じるギレルモ・フランセーヤ。©2014 Capital Intelectual S.A. / MATANZA CINE / EL DESEO
 

事件が起こった1980年代のアルゼンチンは、マルピナス戦争(フォークランド紛争)の敗戦によって軍事独裁政権に終止符が打たれ、民主化が進んでいた。だが、軍事政権下で政府の情報管理官として働いていたアルキメデス・プッチオは職を失う。その彼が、“仕事”として選んだのが身代金目的の誘拐だったのである。

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『エル・クラン』撮影中のパブロ・トラペロ監督。
 

*次のページでは、トラペロ監督がこの映画をつくりたいと思ったモチベーションについて、そして作品に込めた普遍的なテーマについて語ります。

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「この映画をつくりたいと思った大きなモチベーションのひとつが、時代の変化を語りたかったということ。多くの罪もない市民の血が流れた軍事政権の時代が終わり、民主化されたことはアルゼンチン社会にとって希望の光をもたらしました。でも、主人公のアルキメデスにとっては、活躍できる“いい時代”は終わってしまったのです。彼はもちろん少数派ですが、時代を象徴する人でもあったのです」

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『エル・クラン』撮影中のパブロ・トラペロ監督。
 

ある意味、歴史の大きなうねりの被害者でもあったアルキメデスの歪んだ価値観と生きざまがこの映画の不気味さなのだが、一方で、クライムミステリーというジャンルにはおさまらない人間ドラマでもあることが、この映画の強みだ。

この映画の中でアルキメデスとともに重要な役割を担うのは、長男のアレハンドロである。サッカー選手としても人気で、開店したばかりのスポーツ用品店も順調、しかも美しい恋人もできた。人生でもっとも美しい時期を謳歌している彼に暗い影を落としたのが、父親の“仕事”だったのだ。実際、この映画の核は、まさに父と息子の対立である。古い時代の象徴のような父親と新しい時代に希望をもつ息子は、まさにアルゼンチンの光と影の投影でもある。

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『エル・クラン』より、恋人との幸せな時間を過ごすプッチオ家の長男アレハンドロ(ピーター・ランサーニ)。©2014 Capital Intelectual S.A. / MATANZA CINE / EL DESEO
 

「取材をして行く中で興味深かったのは、アルキメデスは、外ではとても温和で善良な男というふるまいをしていたにも関わらず、映画の中でも描かれているように、家では恐ろしいほどに絶対的な存在でした。モンスターといってもいいほどに。その最大の犠牲者が子どもたちだったのです。私がこの脚本を書いた当初は、この事件は国内的には感心を持たれるけれど、インターナショナルなものではないと言われました。でも、私は、この親子関係や問題は、極端ではあるけれど、普遍的なものであると確信していました」

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『エル・クラン』より。父と息子の関係が物語の核となる。©2014 Capital Intelectual S.A. / MATANZA CINE / EL DESEO
 

トラペロのこの信念を受け入れて、国際的な舞台に引っ張り出したのは、スペインの巨匠ペドロ・アルモドバルである。国際映画祭で出会い、顔見知りだったペドロは兄アウグストゥスとともにプロデュースを引き受けたのだという。ちなみに、アルモドバル兄弟は先述の『人生スイッチ』の製作も手がけている。スペイン語圏映画の強さは、こうした強力なプロデューサーの存在もあるのだろう。

『 エル・クラン』
監督・共同脚本/パブロ・トラペロ
2015年、アルゼンチン映画 110分
配給/シンカ、ブロードメディア・スタジオ
新宿シネマカリテほか全国にて公開中
http://el-clan.jp/

 

texte: ATSUKO TATSUTA

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