太賀と、カボチャとマヨネーズ。
インタビュー
現在公開中の映画『南瓜とマヨネーズ』。原作は、1999年に発売した魚喃キリコによる同名作。出演する太賀(たいが)に、今作の観どころやエピソードを聞いた。
こんなにもだらしなく芯のある男を、こんなにも華麗に演じられる男がいるだろうか。
映画『南瓜とマヨネーズ』で、役者・太賀は夢を追うミュージシャン、せいいちを演じている。
「僕は俳優で、せいいちはミュージシャン。やっぱり、うまくいかなかった時、いかない時はある。その葛藤には共感した」
夢を追うということは、夢が叶っていないということ。太賀演じるせいいちは絶望の中で微かな光を見いだしたり、見失ったりしている。そんな彼を支えるのが、臼田あさ美演じるツチダ。せいいちの迷いや不安を精一杯受け入れ、自らが犠牲になって稼ぎに出る。その間、せいいちは音楽と向き合う。
「せいいち = いまの自分、にはもちろんならない。でも、自分とせいいちとの共通性を見つけていき、共感を得られるところを探っていった。音楽面では、ギターの練習をしたり。バンドメンバー役の役者たちと一緒に過ごしたり。でも、(臼田あさ美演じる)ツチダを目の前にすると、どんどんシンプルになっていった。ツチダからの言葉や想いとか、それらが“芯”に迫ったものだったから、ただそれに応えるだけで自然にせいいちになることができた。意図的ではなくていいんだ。狙いを持って近づけなくていいんだって思えて。最終的に僕をせいいちにしてくれたのは、ツチダですね。臼田さんです」
ふたりは古いアパートで暮らす。狭い部屋の中、常に一緒に居られる距離で生活をしている。きっと長年暮らしているのだろう。でも、ふたりの間には大きな距離がある。『Mr.&Mrs.スミス』(2005年)のブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーのような身の上の疑いではなく、何か、もっと深くヒリヒリするような痛くなるような距離があるのだ。
見え隠れする、誰もが抱える葛藤。
「劇中には普遍的な人間の葛藤が描かれている。自分たちが生活している日常と地続きである世界、というか。そういうところに共感できるかもしれない。たくさんある気がします」
ツチダはせいいちに夢を重ね、せいいちはツチダに現実を委ねる。くすぶる気持ちは、誰にも止められないし、誰しもがそれと向き合っていかなければならない。
「決まった年齢ではないけど、自分にもくすぶる時期はあります。断片的に。もちろん、せいいちの気持ちや葛藤はわかる」
太賀は、きっと“葛藤”と真摯に向き合っている。全速力でぶつかってきている。
やってもやっても理想の自分にたどり着けない。でもその自分をどうにかしたいという熱量。『桐島、部活やめるってよ』(12年)で演じたバレー部の風助からは、漲る悔しさとエネルギーを感じ取れた。『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(16年)では、親友の死を受け入れられない、でも生きていくという葛藤を、生々しく。その痛みを全身全霊で受け入れる後半の食事のシーンは、もう、演技という枠を超えていた。突然、殺人者の息子となってしまう『淵に立つ』(16年)で見せた揺らぎも忘れられない。
今作も同様に、太賀から放出される葛藤は、深く届いてくる。ただし、いままでになく静かで、滴のようにゆっくりとしたスピード感で、だ。
「(劇中での)バンドメンバー、若葉竜也や、浅香(航大)くんとかは、もともと交流があって、ライブハウスで練習したりしてましたね。仕事の合間を縫って。臼田さんがライブハウスの予約をしてくれたりして。入る前にそういう時間を過ごせたのが、すごく良かった」
物語の始まり、せいいちはバンドマンではない。バンドメンバーなのは、過去の話だ。みんなで音楽を作り上げる輝く時間も、その後の闇も、太賀は一瞬の隙もなく演じる。
「ギターは昔からちょこちょこやってました。でも、曲を作るとか人前で歌うとかはなかったし、今回はけっこう練習して。夜、街でギターをひいてみたり」
せいいちが弾き語りで歌うシーンがある。ツチダの心をゆっくりと溶かすような、やさしい歌だ。
>>次世代を担うことについて語る。
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次世代を担うということ。
せいいちは夢を諦めるか、否か。そこを行き来する。実際はどうか聞くと、「思い出す限り、ないです」と話す。
「高校を卒業して役者になった時、ああ、これで食っていくんだ、と思った。演じていくうえで、熱っていうか、やる気というか、気持ちはずっと変わらないですね」
葛藤を行き来する役者の熱量はスゴい。いまでも、映画館に足を運ぶし、レンタルDVDも利用するのだとか。
「いい作品を観たら、出合ったら、やっぱり胸が熱くなる。最近(インタビューは9月)だと、エリック・ロメール監督の『緑の光線』(1987年)が良かったです」
主人公のデルフィーヌは、『南瓜とマヨネーズ』のツチダやせいいちと同じく、目に見えないものと葛藤している。世界が歪んでしまう。でも、その先に必ず、新しいスタートがあったりする。「自らの感情のわからなさに立ち止まる登場人物に、強烈な共感を抱いた」という理由で、今作のオファーを引き受けた太賀。彼を通して、揺れる人間模様をじっくりと感じ取ってほしい。
カボチャとマヨネーズが合うのか、合わないのか、マズイのかおいしいのかを追求するように。
『南瓜とマヨネーズ』
ライブハウスで働くツチダ(臼田あさ美)と同棲中のせいいち(太賀)。夢を追うせいいちを、とある仕事で支えるツチダ。そこへ過去につながりのあった男、ハギオ(オダギリジョー)が現れる。音楽監修、劇中歌制作は、やくしまるえつこが担当する。
●監督・脚本/冨永昌敬 ●出演/臼田あさ美、太賀、光石研、オダギリジョー ●93分 ●配給/S・D・P ●新宿武蔵野館ほか全国にて公開中。
ⓒ 魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
たいが●1993年、東京都生まれ。数々のドラマ、映画、舞台に出演する。ドラマ「ゆとりですがなにか」ではコミカルな演技を見せ、人気を博す。現在、主演作『ポンチョに夜明けの風をはらませて』が公開中。12月8日からは、舞台「流山ブルーバード」の公演が始まる。
photos : YUSUKE ABE , stylisme : DAI ISHII, coiffure et maquillage : MASAKI TAKAHASHI