ピーター・リンドバーグが女優の素顔を引き出せる理由。
インタビュー
90年代のスーパーモデルのポートレートを筆頭に、女性の内からにじみ出る美しさを捉え、ファッション写真をリードするピーター・リンドバーグが来日!
14人の女優を撮影した新刊『Shadows on the Wall(シャドウズ・オン・ザ・ウォール)』と、世界のクリエイターたちが着物を新しい解釈で表現するエキシビション『KIMONO ROBOTO』への参加について話を聞いた。
ピーター・リンドバーグ
--新刊は、2017年版ピレリ・カレンダーのために撮影された写真をまとめたものです。なぜタイトルを『Shadows on the Wall』にされたのですか?
「撮影風景を収めた映像に、女優たちのインタビューも収録されています。その中のジェシカ・チャステインの言葉、『ピーターは光と、壁に落ちる影(Shadows on the Wall)にとても興奮していた』から取りました」
--写真集には、ジェシカはじめ女優たちの言葉がたくさん掲載されていますね。
「彼女たちは、役柄が与えられる映画とはまったく違い、女優なのに何も演技をしていません。そうしたやり方で私と一緒に撮影をすることに対して、どう思ったのか語っている彼女たちの話がとても興味深くて」
--テキストは手書きです。
「この本はパーソナルなムードにするべきだと思ったんです。テキストを手書きにするというアイデアが出て、すごくいいね!と賛同したら、じゃあピーターが書いて、ということになってしまって(笑)」
『Shadows on the Wall』ピーター・リンドバーグ著 TASCHEN刊 ¥12,000
--この写真集でもそうなのですが、ピーターさんの写真はいつも被写体の人となりがにじみ出ているように感じます。そうするためのコツや戦略はあるのでしょうか?
「ただ誠実であることですね。『やあ! 今日も美しいね! そのヘアスタイル素敵だね!』なんておべっかを使っても役に立ちません」
--この写真集は3万7千枚の中から選ばれた、とありましたが、量を撮ることも大事なのでしょうか?
「写真は対話のようなものです。1カットずつ断続的に撮るよりも流れるようにたくさん撮る方がいい。ニコール・キッドマンは、私と彼女の間のカメラの存在が忘れ去られ、消えてしまった、と言っていましたよ。そうした時に美が生まれるんです」
--ナチュラルなヘアメイクもポイントなのでしょうか。
「私は自然体の女性が好きなんです。だからベースメイクだけで十分。華美なメイクは彼女たちと私の間に壁を作ってしまいます。頭からつま先まで完璧すぎるのは苦手です」
--もし日本人を撮影するとしたら誰に興味がありますか?
「『KIMONO ROBOTO』のために撮影したモデルのチハルとミキ・エハラはとても美しかった!」
--ふたりを海辺で撮影した写真ですね。こちらの作品のコンセプトを教えてください。
「このプロジェクトには、『着物を翻訳する、変化させる』というコンセプトに関心を持ち、参加しました。私たちは、歌舞伎のようなヘアスタイルで、ノーメイク、乱れた着物にブーツ、という風にできるだけ完璧でないことを目指しました。間違いだらけだとは思うのですが、あえて日本人のスタッフを呼ばなかったんです。着物の新しい見え方に、若い人たちが興味を持ってくれれば」
--たしかに、斬新なスタイルです……! 73歳のいまなお精力的に活動されていますが、今後はどのようなことを考えていらっしゃるのでしょうか?
「少し仕事を減らしたいですね……20年前も、10年前も同じことを言って仕事量が変わらないので無理かもしれませんが(笑)。興味深いことが多いので、当分やめられません!」
『KIMONO ROBOTO』のためにピーター・リンドバーグが撮影した作品より。 Photographer_Peter Lindbergh
『KIMONO ROBOTO』の展示風景。
期間:開催中〜2017年12月10日(日)
会場:表参道ヒルズ本館 B3F スペース・オー
東京都渋谷区神宮前4-12-10
営)11:00〜21:00(月〜土) 11:00〜20:00(日)
会期中無休
入場無料
Peter Lindbergh
1944 年ドイツ出身。世界で最も影響力のあるファッションフォトグラファー。1981 年のイタリア版「ヴォーグ」の仕事で注目を浴び、以降、クリスチャン・ディオールなど世界のトップメゾンとの仕事や、「ヴァニティ・フェア」誌や「ローリング・ストーン」誌などの雑誌で長年にわたって活躍を続ける巨匠。
ピレリカンダーの2017年版の撮影を手がけ、「エモーショナル」と題された作品は修正をかけず、女優たちの魂に迫る内面を映し出ている。その作品群を編集し、まとめあげたものを、新刊『シャドウ・オン・ザ・ウォール』として刊行。
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interview et texte : ITOI KURIYAMA