attitude クリエイターの言葉
清らかさと力強さが同居する、FKAツイッグスの歌声に浸る。
インタビュー
恋人との破局に病気、絶望から舞い戻った強き歌姫。
FKAツイッグス|シンガーソングライター
デビュー時に“未来のR&B”と評され、イギリスのマーキュリー賞やブリットアワードなど、複数の賞にノミネートされて脚光を浴びたFKAツイッグス。2015年のフジロックでは、新人ながらホワイトステージの大トリに抜擢され、演劇的かつ官能的な表現で観る者を圧倒した。
だが、その後あまり動向が伝わってこなくなる。俳優ロバート・パティンソンとの破局、子宮にできた腫瘍の除去手術と心身ともに傷を負い、一時期は絶望の淵に立っていたのだ。『マグダレーン』は、そんな彼女の約5年ぶりの新作である。
「そうした経験が私を強くした。治癒の力を感じたし、再生できる自信がついた。自分に悪影響を与える人からは遠ざかるようにしたし、ストレスは最小限に抑えるようにした。結果、以前よりも力強いアルバムに仕上げることができたと思う」
インスピレーションは、マグダラのマリア。
制作の過程でマグダラのマリアのストーリーにインスピレーションを受け、それが自身の再生と表現欲求に繋がったという。新約聖書に登場するマグダラのマリアは、イエスに従い、後に彼の復活を弟子たちに伝えたとされる聖女である。
「ここ数年、私たちの求める母親像や女性像の変化とともに、マグダラのマリアがひとりの女性として再評価されつつある。何が女性らしさなのかを考えるうえで、彼女の生き方はとても興味深く、影響を受けた」
制作時の心境が反映され、宗教音楽に近い厳かなムードに貫かれた作品だ。しかし、歌には逆境を跳ね返す力強さがあり、情熱的でもある。
「サウンドの中に空間を探してあげることが大事だった。そうすることで、言葉が際立つだろうと思って」
リード曲「セロファン」は弱さを曝け出した正直な歌詞だが、MVは彼女のポールダンスに目を奪われる。そのMVが象徴的だが、FKAツイッグスの音楽表現とダンスや肉体表現は、常に分かち難く結びついている。
「メロディと歌詞を書くことから始め、そこからビジュアル的なアイデアも浮かんでくる。どれも同じインスピレーションに属しているの」
ポールダンスに惹かれたのは「空を飛んでいるみたいだから」だと言う。
「重みとともに感じる開放感がいい。でもそのためには、とても力が必要。習得するのに1年かかったわ」
ファッションでも個性を表現する。
「手術後しばらくは着たい服が着れなかったけど、いまは“ニューロマンティック”が気分。そういう服を見つけて着るのが好き」
FKAツイッグス「セロファン」
イギリス・グロスタシャー出身で、ジャマイカとスペインにルーツを持つ。2012年に『EP1』、14年に『LP1』を発表して批評家たちから絶賛され、15年には初来日公演も。ファッションアイコンとしての注目度も高い。
約5年ぶりのセカンドアルバム。デビュー作同様に自身がプロデュースするが、ポップシーンで目立って活躍するジャック・アントノフや、電子音楽の流れを変えたニコラス・ジャーも参加。ラッパーのフューチャーが客演した曲もある。宗教音楽を想起させる重々しくも実験的なサウンドの迫力、何よりも歌の力強さに揺さぶられる。『MAGDALENE』(Young Turks)¥2,420
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*「フィガロジャポン」2020年2月号より抜粋
interview et texte : JUNICHI UCHIMOTO