村上虹郎×小泉今日子、映画『ソワレ』で描く人間愛。

インタビュー

役者を目指しながら、思うようにならない人生に足掻いていた翔太と、過去によって深く傷つき、畏れの中に生きるタカラ。海辺の町で出逢ったふたりは、ある事件をきっかけに衝動的に走り出す――。

『燦燦―さんさんー』(2013年)で長編デビューを飾った外山文治監督の待望の新作映画『ソワレ』。和歌山の空と海の狭間を彷徨い、人生の舞台の主人公は自分なのだと気が付く若い男女を、芋生悠とともに鮮烈に演じたのは気鋭の若手俳優、村上虹郎。豊原功補、小泉今日子らが立ち上げた映画制作会社、新世界合同会社の第1回プロデュース作品だ。

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翔太の日常を台詞に頼らずさらりと描き、生きづらい現代の若者像まで浮き彫りにする。そんな映画の幕開けは、鮮やかな語り口と村上虹郎の表現力によって、観客を一気に物語の中に放り込む。

村上 僕は決定稿になるまでは、途中の脚本をあまり読まないほうなんですが、準備稿ではもっとセリフや説明が多く、ある種の青春もののキラキラしたイメージが強かったんです。稿を重ねるに従って台詞や説明が減って、翔太のダメさ、クズさ、やるせなさが増していった記憶がありますね。

小泉 たとえば、男女の上に星が瞬いている時に「星がきれいだね」なんて言わない方がいい。せっかく瞬いているんだから。翔太をわかりやすくするために前の彼女が出てきたりとかも。そういう説明やセリフ、観たことある描写は止めようということで、決定稿になるまで12・5稿も重ねました。

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小泉 男女の駆け落ちというか逃避行というアイデアは、もともと外山監督の中にあって。プロデューサーの豊原も私も80年代から俳優としてさまざまな監督に出会い、その現場で育ってきて、それ以前にATGやディレクターズ・カンパニーの映画を観て、憧れ、影響を受けている。だから、我々世代はATGやディレカンの遺伝子を自然に受け継いでいるだろうなと思います。

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●NIJIRO MURAKAMI 1997年生まれ、東京都出身。2014年、カンヌ国際映画祭出品作『2つ目の窓』で主演を務め、俳優デビュー。映画『武曲 MUKOKU』(17年)にて、第41回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。20年11月、映画『佐々木、イン、マイマイン』の公開を控える。

小泉 でも、制作中にそのことを意識してはいないのに、観終わった人からATG映画を思い出しましたと言われるのは、むしろ俳優たちがそのムードを持っているんじゃないかと。虹郎くんは若い俳優の中でも唯一無二の個性の持ち主。芋生さんもこれからそうなっていく人だと今回確信しました。

村上 育った時代はもちろん違いますが、僕自身は、今日子さんも含め、浅野忠信さん、オダギリジョーさん、永瀬正敏さん、そしてオヤジである村上淳も含めて、90年代の映画がしっくりくるんです。

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翔太とタカラは、やがて強さも弱さも、温かさも寂しさも、すべてをひっくるめて互いを受け止め合う。それは恋愛よりも深い、魂の邂逅だった。

小泉 普通、若い男女の話って、恋から始まるじゃないですか。廊下でぶつかって、見つめ合ってとか。でも翔太とタカラは、それぞれが自分自身で受け止めなきゃいけない何かを持っていて。物理的に逃げなきゃってところから始まって、そこから心が動いていくんです。

村上 普通なら途中でチューしちゃいますもんね(笑)。

小泉 そう。最初の脚本にはもっと書き込まれていたんですが、ふたりの今後を想起させるようなことは直接描かれないほうがおもしろいんじゃないかって、豊原さんと外山さんとで話し合った部分でしたね。考えてみれば、男の子女の子の恋愛を省いた物語ってあまりないかも。恋愛からのスタートじゃないから、一気に深いところ、人間愛に近いところにたどり着けたのかもしれませんね。

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●KYOKO KOIZUMI 1966年生まれ、神奈川県出身。82年「私の16才」で歌手デビュー。女優として映画、舞台などの出演のほか、エッセイなど執筆家としても活躍。2015年、株式会社明後日を設立し、代表兼プロデューサーとして舞台制作を手がける。

村上 『レオン』(94年)とか『グロリア』(80年)とかの世界ですよね。今日子さんは、無類のジーナ・ローランズ好きだし。

小泉 『グロリア』は近いかもね。それと、タカラの家の窓ガラスが割れて翔太が助けに入って、そこからふたりが走り出す時、人の持つエネルギーってなんて美しいのだろうと思えるシーンになったことがうれしくて。それまで精気のない日々を送っていたタカラの身体にエネルギーが漲る。思わず、アニメなら沸き上がる"メラメラ"を描き込むところだなって。それに、そんな風に見えるふたりが役者としてすごくかっこよかった。身体能力がすごく高くて、走り方が本当にきれい。あの走りができなかったら、女の子走りだったりしたら、もっとつまらない映画になっていた気がするんです。

村上 それはそれで違う良さかも(笑)。

小泉 違う悲しみとか?(笑)。でもとにかく、走り出した途端に、ふたりの中に生への執着がパーンと生まれる気がしたんです。

村上 そこはやっぱり、芋生さんが生きたタカラのすごさじゃないですか? タカラって、死んでいてもおかしくない目に遭ってきて、それでも生きているのは生きる力の強さかなって。

小泉 そのタカラのエネルギーに翔太が感応していく、大きな愛の映画になりましたね。

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村上 愛といえば今回、現場の愛もすごかった。朝、5時半ぐらいに僕らだけ先に現場に向かう時とか、メチャクチャ元気な今日子さんが「はい、おはようございます!」って、助手席のドアを開けて待ってるんです。高級リムジンみたいに「どうぞ」とか言って。それ車両部ですから(笑)。で、またある時は、人手が少ないから通行止めも率先して。でも、それがちょっと楽しそうで。

小泉 通行止めは悪目立ちするから止めろって怒られて。逆に人集めてんじゃないかってね(笑)。

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村上:中に着たタンクトップ¥9,900/エヌ.ハリウッド アンダーサミットウエア(ミスター ハリウッド) ジャケット¥79,200/サスクワッチファブリックス(dwagraph) ベルト、ピアス/ともにスタイリスト私物

強烈な表現力を持つ主演男優・村上と小泉プロデューサーは親戚同士のような、あ・うんの呼吸を漂わせ、大きなる愛の映画を語ってくれた。

『ソワレ』
役者になる夢を持ちながら、うまく行かずに日銭を稼ぐ若者・岩松翔太(村上)。ある夏、演劇のワークショップを行うため故郷の高齢者施設を訪れた彼は、施設で働く若い女性・山下タカラ(芋生)と出会う。ふとしたきっかけで彼女が実の父から暴行を受けているところに出くわし、タカラは自衛のため、父親に大怪我を負わせてしまう。ふたりは逃避行へと旅立つが……。

●監督・脚本/外山文治
●製作/豊原功補、前田和紀、小泉今日子
●出演/村上虹郎、芋生悠
●2020年、日本映画
●111分
●配給/東京テアトル
8月28日(金)より、全国にて公開
https://soiree-movie.jp
©2020ソワレフィルムパートナーズ
●問い合わせ先:
dwagraph www.sasquatcfabrix.com
ミスター ハリウッド tel:03-5414-5071

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photos : ASUKA ITO, stylist : TADASHI MOCHIZUKI, texte : REIKO KUBO

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