"男らしさの危機"をガエル・ガルシア・ベルナルが熱演!

インタビュー

ナタリー・ポートマン主演の『ジャッキー/ファースト・レディ 最後の使命』(2016年)で米国に進出したチリの鬼才パブロ・ラライン監督の新作『エマ、愛の罠』。心の拠りどころをなくした情熱的なダンサー、エマの奔放な行動の行方を追うミステリータッチのドラマだ。主人公エマとの結婚生活が破綻に追い込まれる、夫で振付師のガストンを演じたメキシコのスター俳優、ガエル・ガルシア・ベルナルにオンラインインタビューした。

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美しきダンサー、エマ(マリアーナ・ディ・ジローラモ/左)の夫で振付師のガストンを演じるガエル・ガルシア・ベルナル(右)。

パブロは僕が台本を見ずに仕事を受ける、唯一の監督。

――いまは、メキシコのご自宅からですか?

はい。本当は日本に行きたかったけれど、新型コロナウイルスのおかげで行けなくなってしまって残念。

――昨年、ヴェネツィア国際映画祭で上映された『エマ、愛の罠』が日本公開されます。パブロ・ラライン監督とは友人でもありますね。

パブロとは、10年前からとても親しいんだ。これまで『NO』(12年)、『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』(16年)、そして今回の作品を含め3作品撮ったけれど、おそらくこれからも、ずっと一緒に作品を作っていくと思う。本当に気が合うというか、一緒に仕事をするのが楽しいからね。

――どういう部分で気が合うんでしょうか?

どうしてか自分でもはっきりわからないけど、心地いいんだ。相互作用しているというか、結果として深い仕事ができる。仲がよいからといって、必ずしも一緒にいい仕事ができるとは限らないからね。パブロとは、とても特別な関係だよ。クリエイティブなプロセスを楽しむことができるし、信頼関係もある。実際に彼は、僕が台本を見ずに仕事を受ける、この世でたったひとりの監督なんだ。たとえば彼から連絡が来て、来年何か映画を撮ろうと言われたら、たとえシノプシス(あらすじ)さえ知らなくても受けるよ。一緒に、どんな内容にしようかと話を進めていける関係だね。

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ある事件をきっかけに、エマとガストンの結婚生活は破綻してしまう。

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――本作については、彼からどんなふうに話があったのですか?

今回はユニークだった。だいぶ前から、とある夫婦の養子縁組が破綻する――というストーリーの企画を考えていると聞いていたんだけど、なかなか進まないので、きっと時間がかかるのかなと思っていたんだ。すると突然連絡がきて、2カ月後に撮影を開始したいから、ぜひこの企画に参加してほしい、と言われたんだ。

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2019年のヴェネツィア国際映画祭に、パブロ・ラライン監督(左)や共演者らとともに登壇。

――エマというダンサーと、あなたが演じたガストンの夫婦関係が破綻するところから物語は始まりますが、どのあたりまで話を聞いていたのですか?

僕がエマの夫ガストン役で、夫婦が養子縁組した子どもと別れた後の話……と聞いていたんだ。ガストンは、この映画の基軸になるような存在だともね。また、養子縁組の破綻という、これまであまり扱ったことがない深いテーマに挑むというのもおもしろいと思った。まだ脚本はなかったけど。というか、ちゃんとした脚本はつくらず、即興も多い、と。彼らしいチャレンジだなと思った。そのあたりで、エマを演じたマリアーナ・ディ・ジローラモが加わったという感じだね。

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エマを演じたマリアーナ・ディ・ジローラモ(中央)。2014年にテレビドラマで女優デビューし、本作で映画初主演。

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男性が直面する危機について、ガストンと一緒に探求できた。

――ガストンを演じていておもしろかった理由は?

すごく好きな役だよ。ガストンは、現代社会の男性が直面している危機を象徴しているといえるかもしれない。今日のジェンダーレス的な世界で、男性はパピルス紙のように脆弱な存在だと思うんだ。男性は、“男らしさ”といったこれまでの価値観について、考え直さなければいけない時にきているよね。プライベートでも仕事でも、“男らしさの危機”だよ。

こういったテーマを反映した役を、これまで演じたことはなかった。アイデンティティの危機に瀕している男性で、さらに養子縁組の破綻にも直面していて、それがどんな結果をもたらすのか。僕自身もガストンと一緒になって、このテーマを探究できたことは興味深い体験だったよ。

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エマはある思惑を秘めて、彼女に未練のある別居中の夫ガストンをも誘惑する。

――結果的に即興は多かったのですか?

そうだね。そもそも映画を撮る時は、脚本があっても、いろいろやっているうちにアイデアが出てくることもある。うまくいかなければ、軌道修正したり違うやり方を見つけたり。それが映画を撮るプロセスだからね。パブロは、実験的にいろいろやりたい人。でも、ある時パブロと(共同脚本家の)ギレルモ・カルデロンから3ページくらいのモノローグをいきなり渡された時は、ちょっと躊躇した。1日で覚えきれるような長さではなかったからね。即興やアドリブが自然と生まれてきたんだ。

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――マリアーナ・ディ・ジローラモを撮りたくて、この作品が生まれたんじゃないかと思うくらい、彼女の存在は大きかったと思います。夫婦役を演じましたが、あなたから見て、彼女はどんな女優さんでしたか?

僕自身も、彼女に驚かされたよ。彼女は、チリではドラマに出演して有名だったらしいけど、僕はこの作品で出会うまでは、彼女のことをまったく知らなかった。

圧倒的な存在感で、エマというキャラクターを成立させるような力を見せつけられた。熟練した女優でも、それをできる人はなかなかいないからね。彼女はナチュラルでありながら、知的で、即興性もある。自分の立ち位置や、どこで力を入れ、どこで弱めるべきか、わかっている。僕がいままで出会った女優の中でも、最高のひとりだね。

彼女が動くと、周囲の人は目が離せなくなる。そうしたカリスマ性も持ち合わせているんだ。パブロは彼女が出演しているドラマを観て、途中から彼女を念頭に置いて脚本を書いた。今回は、1回ディナーを一緒にしただけで、翌日から僕たちは夫婦役を演じなければならなかったんだけど、うまくいったと思う。彼女を選んだパブロの審美眼が利いたよね。

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エマの本当の目的と、夫婦が迎える想定外の結末とは?

――パブロが彼女の才能を開花させたといえますか?

“鶏が先か卵が先か”という話かもしれないけれど、相互的にうまくいったんだと思う。マリアーナがこの映画を見つけたともいえるし、パブロがこのチームをうまく作り上げたともいえる。マリアーナはダンサーじゃないけれど、情熱的なダンスのパフォーマンスは最高だった。エマは、マリアーナにぴったりの役だったことは間違いないね。

自宅から、リラックスした雰囲気で気さくにオンラインインタビューに答えてくれたガエル・ガルシア・ベルナル。彼から日本の観客へのメッセージに続いて、『エマ、愛の罠』予告編をどうぞ。

ガエル・ガルシア・ベルナル Gael García Bernal
1978年、メキシコ・グアダラハラ生まれ。ロンドンのセントラル・スクール・オブ・スピーチ・アンド・ドラマで演技を学び、在学中に出演したアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品『アモーレス·ペロス』(2000年)で映画デビュー。アルフォンソ・キュアロン監督『天国の口、終りの楽園。』(01年)にてヴェネツィア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。メキシコ国外にも活動の場を広げ、『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04年)で英国アカデミー賞主演男優賞にノミネート。パブロ・ラライン監督とは『NO』(12年)、『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』(16年)でも組んでおり、本作が3本目の出演作となる。短編やテレビシリーズの演出を手がけるなど監督業にも取り組み、19年には2本目の長編映画『Chicuarotes』(原題)を発表した。
『エマ、愛の罠』
ある事件によって結婚生活が破綻、仕事も失った若きダンサーのエマ。ある思惑を秘めて女性弁護士とその夫を誘惑し、さらには別居中の夫も挑発する。男女3人を次々と虜にしていくエマの真意とは? ジェンダーレスなルックスを持ち、常識やモラルを踏み越える過激なヒロインに、ラライン監督が探求した新しい時代の女性像が投影される。全編にフィーチャーされるレゲトンダンスも本作の大きな魅力。
●監督・共同脚本/パブロ・ラライン
●出演/マリアーナ・ディ・ジローラモ、ガエル・ガルシア・ベルナル、パオラ・ジャンニーニ、サンティアゴ・カブレラ、クリスティアン・スアレスほか
●2019年、チリ映画
●107分
●配給/シンカ
●10/2(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、kino cinéma立川髙島屋S.C.館ほか全国にて公開
http://synca.jp/ema
©Fabula, Santiago de Chile, 2019

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Interview et texte : ATSUKO TATSUTA

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