Music Sketch

海外の最先端を意識した、yahyelの音楽(後編)

Music Sketch

前回に続き、新進気鋭のバンド、yahyel(ヤイエル)のインタビューを。11月23日発売にもかかわらず、私は早くも今年のベストアルバム10枚に加えたいほど聴き込んでいるのが、彼らのデビュー・アルバム『FLESH AND BLOOD』だ。

話を聞いていると、ヴォーカルを担当する池貝が10代の頃にトム・ウェイツなどの文学性の高いシンガー・ソングライターに傾倒していたからか、まず歌としての完成度が高いのが大きい。しかも声の良さも歌のうまさも卓越していて、インタビューしていてもコクのある声に魅了されてしまうほど。そして、そこにアイディア豊富な杉本や、コンセプトにこだわる篠田がトラックメイクしていくことで、よりユニークな音で曲が構築されていく面白さがあるのだろう。

アルバム『FLESH AND BLOOD』は、まるで宇宙人が会話しているような奇妙な音から始まる。そんなところからも、ヤイエルとは、地球外知的生命体バシャールと交信しているというチャネラーのダリル・アンカが、“私たちが最初に接触する異星人はyahyel文明のヤイエルだ”と語っているところから付けたのでは、と思われる。

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ヤイエルはインタビューした池貝峻(Vo)、篠田ミル(Sample,Cho)、杉本亘(Synth,Cho)の3人に、大井一彌(Dr)と山田健人(VJ)が加わった5人組。

■トラックメイクは興味のある音で構築し、最後に3人で合わせる

―アルバムは、もちろん音楽面から言ってもすごく良いですよね。「Joseph」の指を鳴らす感じのところとかサスペンス的な感じ、サウンドトラック風で、しかも歌詞が直接的じゃないですか。誰かに対して歌っているんでしょうけど、この曲もすごく面白かったです。

池貝:もともと作っていたものがあって、それを杉本に投げって、っていう。

杉本:なんか難しかったよね。途中のサビに入る部分も、サブベースが入ってくるパートとか、ザ・ウィークエンドもそうなんですけど、その時にそういうサビにサブベースで、重いビートでズシンとくるようなドロップが僕らの中で流行っていて。そういうのを取り入れたいと思ったら、うまい感じにハマったので。

―「Alone」はイントロに聞き覚えのある機械音と人の会話があるんですけど、R&B的雰囲気のラヴソングなのに、この音遣いの違和感が斬新で好きでした。

池貝:(笑)。「The Flare」と「Alone」に関しては破壊衝動からではなくて、すごい会話的な曲だなと僕の中では思ってて。特に「Alone」は、R&Bの流れというのはデモを作った状態からすごくそこを考えて作った曲だったので、そうやって見ていただけるのはありがたいですね。でもあんまり愛情表現というよりは、迷っているというか、結局“人にアプローチしていくことって、すごい怖いことである”という中で、距離を詰めようとしている過程を歌っている曲なので。

—私が言う“ラヴソング”って、恋愛を扱っているという意味であって、別に甘いラヴソングという意味ではなくて。

池貝:そうですね。でも、確かに愛情を扱っている曲ではあります。

―これも大体作っておいて、投げていく感じなんですか?

杉本:はい。後半部分は任せてもらいました。

―職人ぽいですね。

杉本:でもそんな感じになっていますね。トラックを作る職人みたいな。

―それでトラックメイクしていって、最後3人で合わせるという?

池貝:いろんな形があっていいと思うんですけど。このアルバムに関してはそういう流れが多いですね。

―こういう音使いはNGというのはないんですか?

池貝:表現としては基本ないです。意見が割れることは多々あります。ヴォーカルとしての乗り方とか、好きなコードももちろん違いますし。でも最近は互いの好きなコードとかわかってて。

杉本:この前KANGOLのwebCMのBGMを2人で作らせてもらった機会があったんですけど、「だいたいガイ(池貝)君こういうコード好きだよね?」というところから始まって、作業は早かったですね。

「KANGOL 16FW」

■ヴォーカルがいいので、音より言葉にフォーカスしてほしい気持ちも

―曲を作る時にポップというのはすごく意識しています?

篠田:間口の広さは大事にしている。

池貝:それは意識しています。どちらかというと僕らが意識しているのは、全部の国際的シーンを含めた音楽の中で“今実際に流れているのは何か”というところは、すごい脈絡を踏もうと思って作っていますね。

―歌詞だと、抽象的にしたり、共有できる言葉を散りばめることで間口は広くなりますが、サウンド的にこれだけ凝ったことをやりながら間口は調整できるものなんですか?

篠田:たぶん僕らが乗ろうとしているプラットホームって、ジョン・ケージのような前衛音楽家でなければ、アルカとかOPN(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)のような先鋭的なエレクトロニカのトラックメイカーみたいな人たちでもなくて、2000年代後半以降、若者がギターの代わりにラップトップで音楽を始めることが当たり前になった後の時代にすごく接続してプラットホームに乗っかっていると思っていて。その人たちの表現は、アルカとかOPNの手段を参照しつつも、ベースにあるのはアルカやOPNが乗っているプラットホームとは違うから……。

池貝:アルカがプロデュースとしてやってる作品(FKAツイッグスやビョークなど)に近い。ジェイムス・ブレイクくらいのバランスなんじゃないかな。

篠田:もしかしたら、チェット・フェイカーとか近いのかもね。彼も元々電子音楽家としてスタートする前から、ギターを持ってた人じゃないですか。

杉本:あと単純に(池貝の)ヴォーカルがいいので、音にフォーカスするというより言葉にフォーカスしてもらいたい気持ちもあるので、というのと、今のオンタイムで音数が少ないようなトラックを聴いていて心地いいと感じる世代なのかなっていうのもありますね。

―メロディを生かしながらも、音で遊びながら構築していく感じ?

杉本:バランスですよね。

池貝:でもこの3人だとそれができるので、それをやっていますね。

「Alone」このMVは、楽曲のテーマでもある「人間の帰する所は孤独」という個人主義的結論をサタニズム思想に結び付けた内容とのこと。

■ライヴは持ち時間で、ひとつのトラックを作る感覚

―普段は打ち込みで曲を作っていて、ライヴに関してはドラムの大井一彌さんとVJの山田健人さんに来てもらってやっているという感じですか?

池貝:そうですね。

篠田:曲都度、ライヴに向けて組んでいくという。トラックを作るのとはまた別の次元で。

―ライヴはまだ見ていないのですが、音源とは違ってきているの?

杉本:意識して変えているより、変わってきている。特にドラム。音源通りには叩かないですし、独特の人間っぽさが出るし、曲の繋ぎ方もひとつのショーとして考えているので。

篠田:曲と曲をうまく繋げるためにというか、綺麗に見せるために、曲のアレンジを変えていたり、ヴォーカルのアレンジを微妙に変えたり、いろいろです。

―ライヴだと、お客さんを踊らせるということも意識するんですか?

池貝:僕は“踊らせる”という感覚は、すごく不自然な気がしてて。例えば僕らがロンドンに行った時だって、身体的に反応するのは向こう側のパートというか、僕らがどうこうするパートではなくて、僕らは自分たちのトラックを作るというのが一番の目的なので、それを作っていい演奏をすれば自然に人は踊ると思いますし。

杉本:だから30分持ち時間を与えられたら、“30分でひとつのトラックを作る”というような感覚。

―いいですね!そういうのはすごく好き。

杉本:で、それを流すのではなく、演奏することでお客さんがどう反応するかというのは見てすぐフィードバックして、次のライヴに生かしていくという。

―では、ヤイエルが目指している音楽はどういうものですか?

池貝:表現したいことはその都度その都度変わってくるので、それに合った音楽を作っていくんです。このプロジェクトを始めた時点で一番大事だったことは、僕らの世代は世界との差がなく音楽を聴いていて、僕らは海外で過ごしていた経験もあるので普通に海外の友達がいて、何のコンプレックスもなく普通に生活している中、今、日本という国が海外に向けてすごくコンプレックスがあって、外からの見られ方に不思議な日本像みたいのがある中で、メジャーの音楽シーンでしっかり音楽として評価されている日本人のアーティストってどのくらいいるんだろうという疑問があるんです。

―なるほど。

池貝:だから、“その壁を壊さないと全く意味がない”というマインドの下、“そこに溶け込むような音を作りたい”というのがあって。同時に“僕らが好きなものをやれば、そこに溶け込めるだろう”という自信もあったので、そこでしっかりと評価されてこそ、僕らがやりたいことになるのかな、っていうのはありますね。それはコンセプチャルな面でもあり、音でも両方の面からそこの部分を本当に目指して曲を作っている感じです。

―the xxのギターサウンドだったり、ジェイムス・ブレイクのホワイトノイズだったり、瞬時にわかる特徴的な音があると、より個性が際立ちますよね。まさに今流れている音楽のセンスをエッセンスとして取り入れつつ、音を構築しているヤイエルですが、 池貝さんのヴォーカル以外にも、今後はもっと自分たちのサウンドを確立していきたいですよね?

池貝:それはもちろんこれから次の作品で研ぎ澄まさせていくことですね。このアルバムを通して自分たちのコンセプトだったり、音の雰囲気だったりというのは自分たちでもわかってきたことであるので、それはこれからどんどん降りてくるんじゃないかなと思っています。

―日本らしさというより、個々の個性をうまく集約させていくという感じですか? いろいろなサウンドの調理の巧さも見事ですが、今後は“こんな違和感、知らなかったけど、気持ちいい!”的な音とか出てきそうですね。

篠田:そうですね。

―きっとみんな、ヘンなところがあると思うので。

全員:ハハハハ。

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デビュー・アルバム『FLESH AND BLOOD』。メンバー曰く、ディストピア性を押し出している作品とのこと。
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このインタビューの直後のオールナイト・イベントでyahyelのライヴパフォーマンスを体感することができたが、なるほど池貝のヴォーカルは感情をぶつけるようにエモーショナルだし、「The Flare」での演奏をはじめとする杉本や篠田の動きもエネルギッシュで、生ドラムや映像との相乗効果もあり、緻密で心地よい音源とは違った、インパクトの強い“生きている音楽”を感じさせた。ある意味、異星人的感覚を持ったこの新星ヤイエルが、今後この地球上でどう活躍していくのかとても楽しみだ。

ヤイエルのHP→http://yahyelmusic.com/

*To be continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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