Music Sketch

スターダムを駆け上がるオアシスのドキュメンタリー映画

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オアシスのドキュメンタリー映画『オアシス:スーパーソニック』がとても良い。試写を観ながら思い出したのだけど、オアシスが登場したドキュメンタリー映画といえば、90年代のイギリスの“ブリット・ポップ・ムーヴメント”を取り上げた『LIVE FOREVER』(2004年公開)も面白かった。おなじみのノエルとリアムのギャラガー兄弟の喧嘩や、宿敵!?ブラーとのチャート争いはもとより、国民的バンドになり発言力も増したことで、ノエルが政治の権力争いに利用されそうになるなど、外側からしか見ることのできなかった当時の事情をイギリス側から見ることができたからだ。もちろんギャラガー兄弟の歯に衣を着せぬ物言いは痛快だった。

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マンチェスター出身。ノエルは1967年生まれ(写真左)、リアムは1972年生まれ。PHOTOⓒJill Furmanovksy

『オアシス:スーパーソニック』のことは、エイミー・ワインハウスの長編ドキュメンタリー映画『AMYエイミー』の監督アシフ・カパディアにインタビューした時から、製作に関わっている話は聞いていたので楽しみにしていた。本作の監督はマット・ホワイトクロス(『グアンタナモ 僕たちが見た真実』)が担当しているが、貴重な映像や膨大な資料を徹底的に集める手法は同じ。大量のアーカイヴから編集したという、ギャラガー3兄弟の子供の頃の映像や、オアシス結成初期のスタジオ映像、ノエルがスパイラル・カーペッツのローディーをやっていた頃のレア映像など、これでもか!というほど出てきて、一緒に見に行った熱狂的なオアシス・ファンの友人でさえ感嘆していた。何しろ音声インタビューだけで数百時間に及び、そこからそれと一緒に流せる映像を探していったという。

 

『オアシス:スーパーソニック』予告編

オアシスがデビューした時には私はもう今の仕事をしていたので、取材する機会に恵まれ、この映画に出てくるアールズ・コートでのライヴも体感することができた。なので、当時の勢いのあったUKロックの匂いを思い出したり、また知り合いが映っていたり、来日中のシーンもかなり多く使われていて、懐かしさも堪能できた。

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日本でふざけていた時の様子。PHOTOⓒTim Abbot

取材した時期にもよるけれど、私の中では兄のノエルの方が話しやすく、質問の内容をきちんと汲み取って答えてくれる、いい人という印象があった。けれどこの映画を見ると、兄の方が個性が強く、ユニークな人物であることが再認識できる。3人兄弟の真ん中だったので、誰よりも“認められたい”という自意識が強かったのかもしれない。なので対比するかのように、リアムは末っ子キャラそのものに思えた。

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ソングライティングの中心はノエル、リアムはフロントマンとしての存在感が際立っていた。PHOTO2点ともⓒJill Furmanovksy

この映画の巧いところは、1996年8月にロンドン郊外のネブワースに2日間で25万人を集めた野外ライヴに(応募は約260万人)ハイライトシーンを持ってきていること。2009年8月の解散時で終えていたら、後味の悪いものになっていたのではないだろうか。ギャラガー兄弟はアシフ・カパディアと共に製作総指揮に名を連ね、新たな発言を挟み込んでいる。兄弟はさすがに同席して喋ることはなかったそうだが、当時から時間を経たやや客観視した言葉は逆に染みるし、バンドメンバーや関係者たちの証言も的確だ。

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インタビュー収録は2015年〜16年に行われた。PHOTOⓒJon Gorrigan

また、エピソードは含んでいても、ゴシップは抑えてあるのがいい。バンドがクリエーション・レコーズと契約して3年弱でスターダムを駆け上がる軌跡とその音楽に、観る側は集中できるからだ。そしてシングルマザーとして息子たちを育て上げた母親ペギー・ギャラガーが多くを語ることで、“母親と息子たち”という視点で見られるのは新鮮で、そこから彼らの音楽に通じるハートウォーミングさも伝わってきた。

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ネブワースでの野外ライヴの様子。アルバム7枚全て全英チャート1位、CDは全世界で5000万枚以上をセールスした人気ぶり。PHOTOⓒIgnition

今はロックバンドより、ジャスティン・ビーバーやカニエ・ウエストなどを筆頭に、セレブ系ソロ・アーティストの騒ぎっぷり破天荒ぶりがニュースになるが、この映画に収められたオアシスのハチャメチャぶりを見ると、いわゆるロックバンドらしい醍醐味をリスナーにも存分に味わわせてくれていたのが蘇ってくる。ネブワースでのライヴから20年という時間の流れに絶句したくなるが、伝説になりつつあるこのロックバンドのドキュメンタリー映画が最高の仕上がりになっているのは、製作スタッフたちもオアシスの熱狂的ファンだったことが大きな要因だと思う。それは観ている側もそうだろう。これは愛されているロックバンドへの愛が濃縮された映画なのだ。

『オアシス:スーパーソニック』
監督:マット・ホワイトクロス
出演:ノエル・ギャラガー、リアム・ギャラガー
制作総指揮:リアム・ギャラガー、ノエル・ギャラガー、アシフ・カパディア
2016年/イギリス
上映時間:122分
配給:KADOKAWA
12月24日(土)、角川シネマ有楽町他にて全国ロードショー!
http://oasis-supersonic.jp/

*To be continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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