3曲分多い、実写映画化された『美女と野獣』の聴きどころ
Music Sketch
実写版となる映画『美女と野獣』がとても魅力溢れる作品になっている。何よりベルを演じるエマ・ワトソンがはまり役だ。「この役作りのために、乗馬の練習やダンス&歌のレッスンなどでロンドンにいなくてはならず、『ラ・ラ・ランド』とのスケジュール調整がうまくいかなくて『ラ・ラ・ランド』は断念したの」と、本人が海外のインタビューで明かしていたが、ベル役は彼女以外には考えられない。ハリー・ポッターのハーマイオニー・グレンジャー役で一世を風靡した流れを受けて、ヨーロッパの雰囲気漂う気品や、ファンタスティックでロマンティック感溢れる彼女が、ベル役にとても合うのだ。
野獣役のダン・スティーヴンスとベル役のエマ・ワトソン
■イギリスの実力俳優たちが歌う、ミュージカル映画
私は野獣役のダン・スティーヴンスのことは知らなかったが、ポット夫人役のエマ・トンプソンの名演を筆頭に(自ら脚本も書き主演を演じた映画『ナニー・マクフィーの魔法のステッキ』を思い出した)、ガストン役ルーク・エヴァンスやコグスワース役イアン・マッケランなど脇役も素晴らしい。ルミエール役にユアン・マクレガーを起用するなど、贅沢と思えるほど。私はあまりにアニメーションの映像が目に焼き付いていたので、どう実写化するのか想像できなかったけれど、リアリティとファンタジーを行き来するような感覚に溢れ、夢見心地の心豊かになる作品に仕上がった。
そして、舞台経験も豊富なエマ・トンプソンが歌う「Beauty and the Beast(美女と野獣)」をはじめ、シェークスピアなど演劇が盛んなイギリスの俳優を多く起用した効果もあり、お馴染みの歌が次々とストーリーを盛り上げる。エマ・ワトソンの歌の上手さにも驚かされた。
■3人がそれぞれ歌う「時は永遠に」に注目を
ディズニー作品の音楽担当で知られる音楽家アラン・メンケンは、実写映画化に向けて、アニメーション映画の楽曲からさらに3曲追加したそうだ。歌詞は『アラジン』でもコンビを組んだイギリスの著名な作詞家ティム・ライスが担当。その3曲はというと、お城にいる小物や道具たち全員で歌う子守歌「Days in the Sun(デイズ・イン・ザ・サン〜日差しをあびて〜)」、お城からベルを解放した野獣(ダン・スティーヴンス)が、彼女が遠くへ去ってしまったことを悲しみながらも愛を知った喜びを歌う「Evermore(ひそかな夢)」、そして3曲目は「How Does A moment Last Forever(時は永遠に)」。この曲はベルの父親モーリス(ケヴィン・クライン)がミュージック・ボックス・ヴァージョンとして歌い、次にベル(エマ・ワトソン)がモンマルトル・ヴァージョンとして歌うなど、いつも身近にある思い出をテーマにした歌。映画の最後にセリーヌ・ディオンの歌が流れてくることで安堵感が広がり、いろいろなことが繋がっていく。その仕掛けも見事だと思う。
言うまでもなく、カナダから1990年にワールドデビューして間もなかったセリーヌ・ディオンを世界中に知らしめたのは、このディズニーのアニメーション映画『美女と野獣』(1992年)。主題歌「ビューティ・アンド・ザ・ビースト~美女と野獣」をピーボ・ブライソンとデュエットし、アカデミー賞の歌曲賞やゴールデン・グローブ賞の主題歌賞、グラミー賞も受賞するなど、映画と同じく世界的大ヒットになった。その後は『めぐり逢えたら』(93年)、『アンカーウーマン』(96年)、大ヒット映画『タイタニック』(97年)の主題歌を担当し、当時セリーヌは“ラヴ・バラードの女王”、“セリーヌ・ディオン主題歌を歌えばその映画がヒットする”とまで言われたほど、その歌唱力で映画をさらにドラマチックに盛り上げた。実際セリーヌに話を聞いた時も、「『美女と野獣』から人生が変わったのよ」と話していたくらいだ。
今回、主題歌を歌うのはアリアナ・グランデ&ジョン・レジェンド。エマ・ワトソンと同世代といっていいアリアナが歌うことで、観客はぐっと感情移入できるはずだ。グラミー賞受賞歌手でもあるジョン・レジェンドは『ラ・ラ・ランド』に俳優として出演していたが、2008年に当時アメリカ大統領候補だったバラク・オバマ元大統領の公式サポート・ソングを提供したあたりから、多角的にアメリカのエンターテインメント界を代表する顔になっている気がする。もちろん、音楽の才能を認められてこそ、だ。
■ディズニー映画を愛してやまないアラン・メンケン
アメリカの作曲家アラン・メンケンは、1960年に公開された映画『リトル・ショップ・ミュージカル』を、1982年にミュージカルとして舞台化した作品で注目された。その4年後の1986年に再び映画化された『リトル・ショップ・ミュージカル』の主題歌を作曲し、それがアカデミー賞の歌曲賞にノミネートされ、評価が高まったという。そして1989年にディズニーのアニメーション映画『リトル・マーメイド』の音楽を任され、楽曲や主題歌「Under The Sea」(歌:サミュエル・E・ライト)で、アカデミー賞作曲賞、歌曲賞、ゴールデン・グローブ賞作曲賞、主題歌賞などを総ナメ。それ以降、ディズニー映画の音楽に欠かせない作曲家となっている。
アラン・メンケンは『リトル・マーメイド』『美女と野獣』のほか、『アラジン』や『ポカホンタス』でもアカデミー賞を受賞している。
彼は子供の頃からディズニーの大ファンだったそうで、『ファンタジア』との出合いは今を語るに欠かせないものだそう。
「私の想像力をかき立てた映画が『ファンタジア』で、私のクラシック音楽への深い認識の扉を開いた作品です。ベートーヴェンの『交響曲第6番』、『禿山の一夜』、『魔法使いの弟子』、『花のワルツ』といったクラッシックの名曲と映像が融合していく中で、音楽、映像、ストーリーが私の頭の中で一つに組み合わさったのです。それ以来、音楽と音楽が映し出す現実の世界との繋がりを感じることなしに音楽を聴くことができなくなりました」
それゆえ、ディズニーから仕事の話が来た時は、「本当に幸せな気分になった」と、先日の来日時にTV番組『スッキリ!!』で話していたほどだ。
曲作りは、脚本を構築していく段階から一緒にスタートするそう。舞台も映画も歌を通してストーリーを語るために、その方法と音楽スタイルを見つけ出すという共通の基盤はあるものの、「映画ではクローズアップ(近接撮影)というのがあり、キャラクターの顔を間近にみることで、何を考え、何を目にしているのかを解釈することができます。しかし舞台では遠距離ですから、クローズアップで実現できない距離を歌で埋めなければなりません。結果として、舞台ミュージカルの方が曲の数が多く、観客に向けてオープンに感情を表現する時間がさらに増えます。それに比べて、映画では曲数が少ない分、歌の存在感が強まります」という工夫があるそうだ。
酒場でのシーンでガストンが歌う「Gaston(強いぞ、ガストン)」にはアニメーション版で使われていなかった歌詞が追加されたそう
アラン・メンケンは実写映画化された『美女と野獣』の魅力について、次のように話している。「実写化されて素晴らしいところは、アニメーション映画が持つパワーと純真さを保ちつつも、実写映画という形態をうまく駆使してもっと大人向けの繊細な作品に仕上げていること。その絶妙なバランスを生み出すのは簡単なことではありませんが、今回の実写映画ではその両方の側面がうまく生かされています」
まさにその通りで、大人になっても抱き続けているファンタスティックな世界をリアルに見せていて、ストーリーはもちろん、そこにも感動してしまう傑作になっている。アニメーションでないことでスムーズに映画の世界に入れる人もいると思うし、かといってディズニーの世界観が失われていないことにも魅了される。また数々の賞を受賞しそうな今回新たにプラスされた3曲に特に注目しつつ、ぜひ劇場に足を運んでみてはどうでしょう。
『Beauty and the Beast』 (Original Motion Picture Soundtrack/Deluxe Edition)
デラックスエディションに収録されているデモ曲では、アラン・メンケンの歌を聴くことができる。
https://itunes.apple.com/us/album/beauty-beast-original-motion-picture-soundtrack-deluxe/id1212572841
TOHOシネマズ日劇、TOHOシネマズ日本橋、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国上映中
© 2017 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
4月21日(金)全国公開
www.disney.co.jp
*文中のアラン・メンケンの発言はオフィシャル・インタビューより
*To Be Continued