Music Sketch

シカゴ出身の人気インディーズバンド、ホイットニーに取材

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ホイットニー(WHITNEY)を取材したい! と思ったのは、今年8月にアメリカの人気フェスの一つ、ロラパルーザのストリーミングを観ていた時だった。毎年楽しみにしているが、今年はDOMMUNE企画の 「#DOMMUNE~10人の音楽ライターと行くLollapalooza 2017」の搭乗ライターのひとりに誘ってもらったこともあり、いつもよりも早起きをして堪能した。

ホイットニーが昨年発表したデビュー・アルバム『LIGHT UPON THE LAKE』は愛聴していたものの、今年1月の初来日公演には行けなかったので、なおさら楽しみにしていた。ロラパルーザは彼らの地元シカゴでの開催とあり、チャンス・ザ・ラッパー率いるSave Moneyの一員ジョーイ・パープがインストゥルメンタル・ナンバー「Red Moon」に参加したのをはじめ、ストリングスなど次々と仲間が演奏に加わっていく。ホイットニーはジュリアン・アーリック(Dr、Vo)とマックス・カケイセック(G)の2人組だが、ステージがたくさんの人で埋まっていく様子は、まさに彼らの人柄が滲み出るようで、和やかで微笑ましいパフォーマンスとなっていた。そしてサマーソニック2017も、通常のバンドメンバー4人と一緒に6人でステージに登場。その翌日にインタビューした。

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フレンドリーな雰囲気で心地よい時間を堪能できた、サマーソニック2017の8月20日のステージから。©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved.

■この声だから、よりセンチメンタルな内容の歌を。

—ジュリアンは2歳の頃からドラムを叩いていたそうで、アンノウン・モータル・オーケストラやスミス・ウェスタンズなどでドラムを担当していましたよね。でも今はヴォーカルも担当しています。曲を作って歌う段階になって、こういう繊細なサウンドが歌声に合うとわかったのですか? それとも元々こういう音楽をやりたくて歌声を合わせたのでしょうか?

ジュリアン(以下、J):同時に起こったんだ。声もあり、曲もあり。僕は本当に自分がリードシンガーになるなんて、この新しいプロジェクトを始めるまで考えていなかった。とりあえず歌ってみたらこんな感じだった。でも、最初に曲を書き始めた時は、もう少し抽象的な感じだったかな。アルバムのデモを作っているうちに最終的に今みたいな感じになったんだ。

—素敵な声ですよね。声を活かすためにも、表現したいことは変わりました?

J:そうだね。やっぱり自分のこの声があるからこそ、よりセンチメンタルな内容の歌を他の人に表現できるというのがあると思う。ノスタルジックな部分だったり、ハートブレイクだったり。人を泣かせるくらいね。マックスはそれができないかもしれないけど。

マックス(以下、M):僕だって泣かせたことはあるよ(笑)。

J:(笑)。それが自分にできることだと思うから、良い点は伸ばしていきたいと思っているよ。

 

「Golden Day’s」

—繊細ということでは、ギターのアルペジオ奏法がすごくいいムードを作っています。曲を作る時や、アレンジする時はどう意識しているの?

M:ありがとう。シンプルであることを心掛けているよ。あまりいろいろ音がありすぎると良くないと思っているので、いい部分だけを抽出して残すようにしている。

—例えば「Dave’s Song」の装飾音が素敵ですよね。メロディと歌詞を活かすためにあのように弾いているの?

M:あの曲はギターから始まった。僕がダイニングルームでギターを弾いていたら、バスルームにいたジュリアンが歌い出して、それですぐに完成した。最初にできた曲で、しかも10分でできたんだ。

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左がマックス、中央がジュリアン。ツアー中は村上春樹の本が人気で、みんなで貸し借りしていたそう。©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved.

—すごいですね!

M:あれは僕が購入した古いテープマシンを置いて、「さぁ作るぞ」って感じではなくて、ある朝起きて、気軽にふらっと作った。アルバムに入ることも考えていなかったな。

J:そうだね。それから「Polly」や「Golden Day’s」ができて、どんどん曲が良くなっていったので、だったら「Dave’s Song」ももっと良くなるんじゃないかと思って、埃を払うような感じで綺麗にして、リライトした。Daveっていうのは以前アパートメントの下に住んでいた人の名前。いいヤツで気も合ったけど、ドラッグをしたり、クレイジーで怖いところもある男でね。最初は別の友人のことを書いていたんだけど、最後にジョークで彼の名前を付けた感じかな。

■曲を盛り上げたい時に必要だったトランペット。

—サウンド面では「Polly」のように、トランペットが直線的な音色ではなく、温かみのある、包み込むような音色の使い方をしているのも印象的です。ライヴの時も夕景に似合っていました。トランペットを楽曲やバンドに加えようと思ったのは?

J:ありがとう。「Polly」は僕が3、4曲目くらいに書いた曲。コード展開やヴォーカル部分は完成していて、でも「曲が進むに従って盛り上がっていかないといけないな」という思いが頭にあった。効果的にするのにストリングスだと十分じゃないな、と思っていた時に、新しいアイディアで出てきたのがトランペットだった。で、トランペット奏者に実際に演奏してもらったらとても良くて、そのままバンドに入ってもらったんだ。

 

「Polly」

—いい曲にするために曲作りで気にしていることはありますか?

M:フィルターをうまくかけること。自分たちが今取り組んでいる曲は、どうしてもどうにか良くしないといけないと思うけど、もし良くならなかったら諦めることも必要だね。良くないものをどんどん排除していく判断がすごく難しい。でも、そこをうまくやらないといけない。

J:シンプルにすることと、キャッチーにすることが大事。基盤がしっかりしていないとどうにもならないので、基盤をちゃんとするべき。だから歌詞よりも、まずいいメロディを作る。そこに歌詞を乗せていくことを心掛けているよ。

■デビュー・アルバムは自暴自棄の時に作ったものだった。

—私は「The Falls」の歌詞が特に好きです。歌詞はどんな気持ちで書いていることが多いのですか?

J:いつもは最初にコード展開を考えて、そこは僕があまり複雑にできないのでマックスに頼ってしまうんだけど、メロディがまずできて定まると、そこにワンフレーズの歌詞のいいアイディアがポン!と出てくる。で、それに関する歌詞にしようかな、ということになって、お互いアイディアを書き合って、その決まったフレーズに合う歌詞をどんどん出していく。それをシェアしていくから、割とゆっくりしたプロセスで歌詞はできていくよ。
M:「No Woman」の歌詞に“LA”とあるけど、最初はジュリアンが意味のない言葉でモゴモゴ言っているだけだった。でも僕には“LA”に聞こえて、それがいい感じだったので、「その言葉を使ったほうがいいよ」ってなった。だから、偶然の言葉を活かすこともある。

 

「No Woman」

—曲を書いたことによって癒されたり、何か問題が解決したりしたことは?

J:もちろんあるよ。デビュー・アルバムはまさにそれが詰まった作品なんだ。僕たちは最初の恋でフラれて自暴自棄になっていたし、前のバンドのスミス・ウェスタンズは解散したので、これからの人生をどうしたらいいのかわからない時期だった。そんな時に、「どうせみんなにはわかってもらえないかもしれないけど、とりあえず作りたいものを作って、それに全力を注いでみよう」と思った。僕の声も、もしかしたらバカにされるかもしれないけど、「とにかく自分たちの中から出てくるものをそのまま活かして何か作ってみよう」と思ったのが、このアルバムなんだ。

—でもある意味、その無の境地から生まれたからこそ、各地で高く評価されたのかもしれないですね。

J:それで結果、日本に年に2回も来ることができて嬉しいよ(笑)。

■実体験を共感されやすいように歌で表現するのが面白い。

—サマーソニック2017のライヴもとても良かったです。

J:そう言ってもらえると嬉しいね。自分たちの実体験から音楽ができあがっていくんだけど、何万人もの人と共有できるものにするというのがとても大変なんだ。歌は自分から出てくるものだけど、みんなが繋がりを感じられるものにするということを僕は常に意識している。次のアルバムもみんなの前で演奏するという状況が来るのがわかっているから、まさにそこが課題だね。

—まだ若くてキャリアとしてはこれからだと思うのに、自分の作品として表現するだけでなく、みんなと繋がるということを意識して作っているのが凄いですね。

J:祖父が亡くなったり、最初に愛した恋人からフラれてしまったりとか、誰もが経験することだと思う。だからそれを如何に共感されやすく表現するかというのは、自分にとって面白いことでもあるんだ。

—その次のアルバムの制作は進んでいますか?

M:何曲かできているよ。
J:ポートランドの郊外に山小屋があって、その最高に気持ちいい場所で制作する予定なんだ。それに新しいテープマシンをゲットしたし、シカゴに新しいアパートメントを借りたので、戻ったら引っ越しをして、もっといい環境で曲作りに集中できると思う。また日本に戻って来るから楽しみに待っててほしいな!

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ホイットニーは2015年の結成だが、2人が在籍していた前のバンド、スミス・ウエスタンズの頃から日本にもファンは多い。ジュリアンの腕のタトゥーのDaveは「Follow」で歌っている祖父の名前。

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デビュー・アルバム『LIGHT UPON THE LAKE』。

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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