
ストーリーも演技も音楽も最高! 映画『グッド・タイム』は必見!!!
Music Sketch
映画『グッド・タイム』がとても面白い。息つく暇もないまま、一気に引き込まれる。この感覚は、最近の映画を例に挙げれば『ノー・エスケープ 自由への国境』に近いものがあるが、眠ることなく覚醒し続ける感覚はクライムスリラーと呼ばれる以上に病みつきになるし、一方、たったひとりの音楽家の演奏に煽動されるような感覚は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を彷彿させる。何よりロバート・パティンソンの疾走感溢れる凄まじい演技が圧巻だ。彼は『トワイライト』シリーズで名を成した後も、デヴィッド・クローネンバーグ監督やアントン・コービン監督との作品で異なる印象の役柄を選び続け、この『グッド・タイム』のコニー役で自身のステイタスを別格のレベルにまで押し上げた。
『グッド・タイム』 予告編
余談ながら、彼がFKAツイッグスと付き合い始めた時は意外な組み合わせに驚いたが、FKAツイッグスに2015年1月に取材した際に(彼女はミュージックヴィデオやステージでの神秘的な印象とは全く違い、小柄でよく喋る大阪のおばちゃんのようであり、乙女な部分もあった)、「彼は楽器も演奏するほど音楽好きだし、お互いのクリエイティヴィティを刺激し合いながらいい関係を続けている」と話していたので、撮影当時はそれも関係したのだろうか。
■音楽を担当するのは『ブリング・リング』を手がけた鬼才の音楽家
映画音楽を担当するのはワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)。本名のダニエル・ロパティン名義では、ソフィア・コッポラ監督の『ブリング・リング』のサウンドトラックをブライアン・レイツェルと共作したのが有名だ。またアリエル・クレイマン監督作品『Partisan』の音楽も手掛け、他にも森本晃司『Magnetic Rose』のプレミア・ショー、またロサンゼルスのアーマンド・ハマー美術館やニューヨークのMoMA、ロンドンのテート・ブリテン等とのコラボレーションも行うなど、鬼才と呼ばれるのにふさわしい活動をしている。
サウンドトラックを担当した、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティン。Photo:Tim Saccenti
OPNとしては自身の作品以外にも、ナイン・インチ・ネイルズの楽曲をリミックスし、2014年のツアーにサポートアクトとして同行、アントニー・ヘガティ(アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ)やFKAツイッグスとのコラボでも注目されてきた。ナイン・インチ・ネイルズといえば、そのトレント・レズナーが第83回アカデミー作曲賞を『ソーシャル・ネットワーク』でアッティカス・ロスと受賞し、他にも『ドラゴン・タトゥーの女』、『ゴーン・ガール』等の音楽をインダストリアルなサウンドを中心にロスと手掛けてきたことで知られている。OPNがレズナーから刺激を受けたことは十分想像でき、ゆえに、この『グッド・タイム』でこれほどまで魅力的で、映画のシーンに寄り添うというよりはストーリーを牽引するような音楽を作ってしまったのも不思議ではない。結果、カンヌ・サウンドトラック賞を見事受賞した。
ロバート・パティンソンの演技から、一瞬たりとも目が離せない面白さ!!!
私は試写を含めて『グッド・タイム』は既に3回観たけれど、あまりにも音楽が映画のシーンに染み込んでいるために、今では音楽を聴くだけでどのシーンなのか明確に脳裏に再現されるほど。多少セリフやサイレンといった音が入っているとはいえ、ここまで最初から最後まで映画に同化したサウンドトラックは久しぶりだ。監督を務めたジョシュ&ベニー・サフディ兄弟はOPNの大ファンで、自らオファーしたという。OPNも監督と同様にニューヨークを拠点に活動しているとあって、街の闇を捉えたサウンドスケープをエレクトロニカからノイズ、アンビエント、ドローンといった実験的な響きまで容赦なく用い、不安や希望、緊張と緩和といった心象を描いていく。そのスクリーンの中の呼吸感と音楽のビート感がピッタリで、まるで音楽がこの映画の裏ボスのような存在なのだ。そしてエンディングには、イギー・ポップが歌う「The Pure And The Damned」が救いを感じさせる楽曲としてスクリーンいっぱいに広がる。
■ロバート・パティンソンとベニー・サフディ監督の怪演が見もの
サフディ兄弟は『神様なんかくそくらえ』(2015年日本公開)で、第27回東京国際映画祭の東京グランプリと最優秀監督賞を受賞。今回もその作品と同じくニューヨークのアンダーグラウンドが舞台だが、パティンソンはイギリスの進学校に通っていたこともあり、荒んだ街に暮らすクイーンズ訛りの男を演じるにあたり、脚本が完成する数ヶ月も前から弟のニックを演じたベニー・サフディと兄弟になりきって人生について語り合い、コニーの生い立ちを事細かに内面から築いていったそうだ。このベニー・サフディ監督の演技も驚嘆するほど素晴らしい。
(写真左から)兄弟を演じるパティンソンとベニー・サフディ
ストーリーは、兄コニー(ロバート・パティンソン)と弟ニック(ベニー・サフディ)が銀行強盗をした後、ニックだけ捕まって投獄されてしまうところから加速。コニーが弟を保釈させるために奔走するところから思わぬ展開を見せていく。ネタバレを避けるために多くは書かないけれど、弟のために必死なコニーが周囲を言葉巧みに巻き込んで暴走しながらも、殺人を犯したり、女性に乱暴したりすることのない描き方には好感がもてた。また資料によれば、パティンソンが「監督たちは怖いもの知らずで、(中略)わざとカオスを引き起こしているのではないかと思うことがあった。それを楽しんでいるようにも見えたからね」と話すように、白昼の追跡シーンを無許可で撮影するなどリアル感満載、アドレナリンが駆け巡るストリート感覚が物凄い。脚本は『神様なんかくそくらえ』の時と同じ、ロナルド・ブロンスタインとジョシュ・サフディだ。
■最後に流れるイギー・ポップの歌から、新たな解釈が
『グッド・タイム』というタイトルの理解は人それぞれだと思う。最後に後から届いた資料にジョシュ・サフディ監督のコメントが載っていたので転載しておく。
「(前略)音楽にもこだわりがある。映像で見える要素のすべてに、“それぞれの音”があり、コニーがあるシーンで着ているオレンジのパーカーにも音がある。音楽は、作品のもう1人の登場人物なんだ。イギー・ポップが歌詞を書いたエンディングの歌“The Pure And The Damned”で、イギーは兄コニーを罪深い者(damned)、弟ニックを純粋な者(pure)とした。彼は“純粋”な人だけでなく“罪深い”人も、愛ゆえに行動を起こすという音を示唆している。イギーの“もつれた紐から自分自身をほどく”という歌詞を聞いて、わかり始めたことがある。コニーは、ただその紐に絡まっているだけなのだと。銀行強盗は、弟を元気づけ、純粋に人生を味合わせるための方法だった。彼には目標とする兄弟の理想像があり、それはただ、楽しみたい(have a Good Time)ということだった。どれだけ多くの人に邪魔されようとね」
監督として存分に才能を発揮した兄ジョシュと弟ベニーの、サフディ兄弟。クイーンズとマンハッタン育ちだ。(c)BRIGITTE LACOMBE


写真左は『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』、右は『Good Time...Raw』。共に国内盤はボーナストラックを収録しているが、右の限定盤CDにはジョシュ・サフディによるライナーノーツと、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとジョシュ・サフディによるスペシャル対談を封入。
シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中。
© 2017 Hercules Film Investments, SARL
www.finefilms.co.jp/goodtime
*To be continued