Music Sketch

映画『グレイテスト・ショーマン』の歌に込められた秘話

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圧倒的な音楽である。もちろんミュージカル映画だから当然だが、どの曲も自分の人生を賭けるかのように熱唱するため、最初から最後までボルテージMAX。誰もが素晴らしい歌声と歌唱力を誇り、観終わった後にサウンドトラックを聴いていると、各シーンが再び目に浮かんでくる。脚本のスタッフには『シカゴ』(2002年、脚本)、『ドリームガールズ』(2006年、脚本と監督)、『美女の野獣』(2017年、監督)を担当してきたビル・コンドンが参加し、楽曲はベンジ・パセック&ジャスティン・ポールが担当。この2人は『ラ・ラ・ランド』(2017年)で第89回アカデミー賞の歌曲賞を、ブロードウェイ・ミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』で2017年度の第71回トニー賞オリジナル楽曲賞を受賞した、32歳と33歳という、今、ノリにノっている最強コンビだ。

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P.T.バーナムが乗り移ったかのようなヒュー・ジャックマンの演技が全開。

■ ヒュー・ジャックマン在りきの映画

ストーリーは、興行師フィニアス・テイラー・バーナムがニューヨーク市にあった「スカダーのアメリカ博物館」を買い取り、補強して「バーナムのアメリカ博物館」として興行をスタート。周辺住民の反対など紆余曲折を経て「地上最大のショウ」という名のサーカスを成功させるまでを描いている。実話とあって展開が読めてしまうところはあるものの、とにかくスクリーンから飛び出してくるかのような演者たちの迫力がすごい。

映画『グレイテスト・ショーマン』予告

主人公P.T.バーナムを演じるのはヒュー・ジャックマン。まさにMCとしても適役だ。第58回トニー賞、第81回アカデミー賞の司会を務めていて、実際に観ていた後者では司会者というより存在自体パフォーマーとして楽しませてくれた記憶が鮮明に残っている。資料によれば、この時の番組にプロデューサーのローレンス・マークと共同脚本家のビル・コンドンも一緒に携わっていて、番組作りに情熱を注ぐジャックマンの仕事ぶりを見ていてP.T.バーナムのことが頭に浮かび、そこからこのミュージカルの話が始まったのだそうだ。

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ミシェル・ウィリアムズ演じる妻や家族との関係も魅力的に描かれている。

もちろん役者としてミュージカル歴も豊富。オーストラリア人作曲家兼俳優のピーター・アレンの生涯を描いたブロードウェイ・ミュージカル『ザ・ボーイ・フロム・オズ』で、2004年にトニー賞ミュージカル主演男優賞を受賞。2012年には同名のミュージカルを映画化した『レ・ミゼラブル』に主人公ジャン・バルジャン役で出演し、ゴールデングローブ賞ミュージカル・コメディ部門主演男優賞を受賞している。どこか彼が主役というだけで、既にエンターテインメント作品として成功したと思わせるほどの安堵感がある。

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■ もともと歌は得意ではなかったザック・エフロン

個人的に楽しみだったのはザック・エフロンだ。彼を知ったのは一躍スターの仲間入りをするきっかけとなったテレビ映画『ハイスクール・ミュージカル』(2006年)だが、実は彼はその当時はそれほど歌が上手ではなく、その年末から2007年にかけて全米をまわった「ハイスクール・ミュージカル コンサート・ツアー」には参加できなかった。しかしその屈辱から必死に歌唱力を磨き、『ヘアスプレー』(2007年)で挽回。その後は、演技と同様に着実に歌唱力も身に付け、この『グレイテスト・ショーマン』ではP.T.ボーナムの相棒であるフィリップ・カーライルとして、ロマンティックで情熱的な歌声を披露している。

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名役者に成長したザック・エフロンの歌と踊りも見せどころ。

主題歌「This Is Me」を歌うキアラ・セトルは、オーディション会場で歌ったところ、その歌声にヒュー・ジャックマンを含めた関係者一同が感動し、即決したそうだ。ハワイのオアフ島出身の彼女は、ブロードウェイでのデビューは34歳と遅いものの、42歳を迎えたいま、髭の生える女性レティ・ルッツ役を堂々と演じている。個性的な人々を率い、“差別や偏見に負けずに、ありのままの自分で進んでいく”という思いを込めて歌う「This Is Me」は圧巻で、既に2018年の第75回ゴールデングローブ賞で最優秀主題歌賞を受賞している。

「This Is Me」 with Keala Settle オーディションの様子も見られる。

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■ ジェニー・リンド役の歌は歌手ローレン・オルレッドが担当

バーナムがイギリスで出逢い、その後アメリカで公演を行うようになるスウェーデンの歌姫ジェニー・リンド。その歌声にも強く魅せられたものの、サウンドトラックを聴いていたら、実際に歌っているのはその役を演じたスウェーデン出身の女優レベッカ・ファガーソンではなく、アメリカの歌手ローレン・オルレッドだった。ファガーソンは音楽学校に通ったことはあるものの、リンドのように歌うことはできず、パセック&ポールが曲を作っている過程で、仮歌を入れるために参加していたオルレッドの歌声がとても良かったので、彼女を起用することになったそうだ。

 

After singing with @thehughjackman tonight at the MET! ❤️

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ローレン・オルレッドが インスタグラムにアップしたヒュー・ジャックマンとの写真。

ローレン・オルレッドの経歴についてはDesert News Entertainment(2018年1月18日付)の記事に詳しくあるが、父親はSalt Lake Choral Artistsの指揮者、母親はソプラノ歌手として活躍し、共に大学で教授として生徒を指導しているほどの音楽一家という。オルレッドも当初はクラシックの道を目指していたが、マライア・キャリーのカセットテープを見つけてからポップスに目覚め、セリーヌ・ディオンとトニー・ブラクストンに夢中になり、ポップスでの歌手デビューを志すようになったという。22歳の時にNBCの音楽オーディション番組『THE VOICE』のシーズン3(2012年)に出場した経緯があったこともあり、アメリカでは今回の起用は話題を集めた。最初にデヴィッド・ゲッタ feat.ケリー・ローランドの「When Love Takes Over」を歌った後、オルレッドはアダム・レヴィーン(マルーン5)のチームに参加。レディ・アンテベラムやエイミー・ワインハウスの曲を歌うが、最後はリサ・スタンスフィールドの「Go Around The World」で敗退していた。それ以後は、脚光を浴びる日を夢見ながら、地道に歌手活動を続けてきたという。

「Never Enough」Lyric Video

その彼女がレベッカ・ファガーソンからスウェーデン語訛りのアクセントを直接教わり、ファガーソンはオルレッドの歌に合わせて口を動かす練習をしたそうだ。ジェニー・リンドの役に自分の思いを重ねてローレン・オルレッドが“私には足りないの”と歌う「Never Enough」。クラシックの素養とポップ・ミュージック好きのオルレッドだからこそ歌えたナンバーには、聴けば聴くほど、グッと胸にこみ上げてくるものがある。出演者もシンガーも自分の思いや生き様を個々に重ねて入魂しているからこそ、歌のパワーが倍増しているのだろう。

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スウェーデンの歌姫ジェニー・リンド役はスウェーデン出身の女優レベッカ・ファガーソンが演じている。

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空中ブランコのパフォーマーを演じるゼンデイヤ。歌手やダンサー他、多方面で活躍する21歳。今、注目すべきひとりだ。

恋愛も家族愛も、仕事を成功させるまでの夢も野望も描かれ、自分らしく生きて幸せをつかもうとするそれぞれの姿を描いた『グレイテスト・ショーマン』。19世紀を舞台にした映画にしては楽曲はとても現代的で圧倒されるが、その分、“いま”を生きる人たちに響いてくる。そして歌は背中を押してくれるだけでなく、日本では中学校の授業でダンスが必須になり、また登美丘高校ダンス部の動画が注目を浴びているように、体育祭をはじめ群舞に欠かせない楽曲になりそうだ。

「This Is Me」 Lyric Video

近い将来、この作品は舞台化される予定があるという。どのようなパフォーマンスになるのか、誰がジェニー・リンド役を演じるのか、そこも楽しみにしていたい。

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『グレイテスト・ショーマン(オリジナル・サウンドトラック)』 
音楽も話題で全米ビルボード・アルバムチャート2週連続第1位、英国アルバムチャート5週連続第1位、iTunesチャートは73カ国で第1位に輝く大ヒット。
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グレイテスト・ショーマン
配給:20世紀フォックス映画
© 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
全国ロードショー中
www.foxmovies-jp.com/greatest-showman/

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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