背中を押してくれる必見の映画『あなたの旅立ち、綴ります』
Music Sketch
『あなたの旅立ち、綴ります(原題:The Last Word)』は、フィガロ読者に是非オススメしたい映画!!! 多くの名画に出演してきた大女優シャーリー・マクレーンと魅力溢れる女優に成長したアマンダ・セイフライドが共演し、世代を超えた友情で、お互いの人生を充実したものに変えていくコメディドラマだ。
■“なりたい自分”や“なりたかった自分”を目指して再スタート
新聞に訃報記事を書く記者アン・シャーマン(アマンダ・セイフライド)のところへ、元広告代理店の女社長であるハリエット・ローラー(シャーリー・マクレーン)が訪れ、“自分を賞賛したお悔やみの記事を、自分が生きている間に読んでおきたいから、すぐに書いてほしい”と高飛車な態度で依頼する。ハリエットがたまたま目にした訃報記事をきっかけに、長年スポンサーをしてきた新聞社に頼みに来たのだ。
『ミーン・ガールズ』や『レ・ミゼラブル』他、多くの作品で活躍するアマンダ・セイフライド。
こう書くと終活を意識した内容で、重い気持ちになる映画と思うかもしれない。しかし、いまアメリカでは自身の訃報記事を自分で書きたがる人が増えていて、脚本を担当したスチュアート・ロス・フィンクはそこから着想を得たというし、今回シャーリー・マクレーンとアマンダ・セイフライドがプロデューサーとしても携わっているとあって、休む間も無く喜怒哀楽の感情を揺らし、新しいドアを開く勇気も与えてくれる。ハリエットは大富豪だから好きなことができる環境で、そこは羨ましい限りだが、経験値の高い人生を歩んできたので叡智に富む言葉を投げかけてくれるし、持ち前の行動力の速さで、一度しかない人生での“自分の可能性を試すための最初の一歩の大切さ”を実証していく。つまりアンもハリエットも、“なりたい自分”や“なりたかった自分”を目指して日々生きていこうとするのだ。
まるで祖母と孫、ひ孫のような年齢差ながら、いつの間にか厚い友情で結ばれていく3人。
■ハリエットが見つけた、素晴らしい人生にするための4要素
コメディドラマとあって、何よりハリエットとアンのやり取りが楽しい。記事を書くために、アンはハリエットから同僚や友人、家族の連絡先を書いたリストをもらって一軒一軒訪ねて行くが、誰ひとりとして彼女のことを褒めない。当然、それらの発言を元に書いた第1稿をハリエットに見せても納得するはずがない。業を煮やしたハリエットは気に入った訃報記事を読んで自ら分析し、素晴らしい人生だったという記事にするための4要素を見つけて、アンに提案する。
- 家族に愛されていたこと
- 同僚から尊敬されていたこと
- 思いがけず誰かの人生に影響を与えていたこと
- 訃報の見出しになるような出来事となる、ワイルドカードを持っていたこと
そして「一緒に答えを見つけて、後世に残る物語を作るのよ」とアンに呼びかけ、一緒に行動を起こす。
しばらく会っていなかった夫にも会いに行くハリエット。
ハリエットが自分の人生を振り返り、やり残したことにチャレンジする一方で、夢見ていたことを半ば諦めていたアンにも変化が生じ始める。このあたりからストーリーは枝葉が伸びるように面白くなり、観ている私たちにも年齢に関係なく台詞がスクリーンから心へと飛び込んでくる。「いい一日を送らず、本物の一日を送って。自分に正直な一日、意味のある一日を送るのよ」と、ハリエットが朝のラジオ番組で語っているように。
■バラエティに富んだ音楽もストーリーを一緒に追っていく
DJが重要な鍵のひとつとあって、劇中に流れる音楽がとてもいい。ハリエットが新聞記者のアンに会いに行く時に流れるThe Regrettsの「Hey Now」、アンが帰宅し、ラジオをつけた途端に流れてくるBloodsの「Back To You」。前者は全員10代で2017年1月にLAからデビューしたばかりの50’s、60’sのポップ・ロックが好きなガールズ・バンド、後者はシドニー出身の3ピースバンドで、ヴェルーカ・ソルトのツアーに同行するなど90年代のロックが好きな世代に好まれそうなオルタナティヴ・ロックだ。
DJを始めたハリエットがAmnestyの「Mister President」をかけたり、アンが人気DJのロビン・サンズ(トーマス・サドスキー)と話している時にはWitchの「The Way I Feel」をかけたり、その粋な選曲も楽しめる。かつての部下ジョーがハリエットを訪ねてきた時に聴いていたのはDelores Whiteの「Why Don’t We Understand」、そしてハリエットとアンが、訪ねた先のコミュニティセンターで親しくなった9歳のブレンダを連れて、ハリエットの娘に会いに小旅行に出る時に流れるのがArum Raeの「Let’s Shake」といった具合に、曲名からもストーリーの展開を想像でき、かつてのソフィア・コッポラ並みに場面に最適の楽曲を当てている。
大の音楽好きのハリエットは念願のDJに。
スコアを担当しているネイサン・マシュー・デヴィッドの音楽もそれぞれの心情に寄り添うかのようにマッチしている。特にハリエットが娘と会った夜に、アンとブレンダと一緒にペネロペ湖で戯れるシーンに流れる楽曲「The Lake」がアルバム・リーフを彷彿させるような美しい音色と旋律で、スクリーンにそのまま引き込まれそうになってしまった。
■共演者と結婚しても、常に自分のベスト・ヴァージョンを心がけるセイフライド
この作品を見ながら必然的にいまの自分の状況やこれまでの人生を振り返ってしまうため、鑑賞後の会話が弾みそうな友人と、または親子や夫婦などで観るのが良いと思うけれど、この共演を経てアマンダ・セイフライドとDJ役のトーマス・サドスキーが結婚したので、これから距離を狭めていきたいというカップルにも是非オススメしたい。最後の最後まで笑いと涙を届けてくれるし、2人の交際を陰ながら応援していたというシャーリー・マクレーンが、映画同様にキューピッドになったという微笑ましいエピソード付きの珠玉の映画だ。
“あなたの旅立ち”とは、ハリエットのことだけではなく、アンのことも含めているのではないかと思えてきた。そしてこの映画が、観た人にとっても何かを綴り始めるきっかけになれば、と願いたい。
アマンダ・セイフライドとトーマス・サドスキーは2015年のオフブロードウェイ劇『The Way We Get By』で共演し、2016年から交際開始。今回の映画で一気に距離を縮めて、2017年3月に結婚し、その12日後に妊娠を発表した。
最後に、オフィシャルのインタビューからの引用を。
― どのような女性を尊敬していますか?
シャーリー・マクレーン:自分自身を理解しようと試みている女性です。だから私はアマンダを尊敬しています。彼女はこれから母親になる自分と向き合っているし、これからは自分自身だけではなく、彼女の子どもも父親のことも理解しなければなりませんしね。彼女は本当によくやっていると思います。
アマンダ・セイフライド:私にとっては挑戦です。だから女優でいられることがとても好きなんです。知れば知るほど、より他の人のことを知ることができるし、より自分自身のことも理解できるし、より周りの人と関われるし、より豊かな人生になります。とても素晴らしいことです。初めて本物のパートナーと赤ちゃんに恵まれて、学ぶことが終わることはなく、人生がどんどん豊かになっていると願っている。私は時間が経つごとに、常に自分自身のベスト・ヴァージョンでありたいと思うし、あなた(シャーリーの方を向いて)と時間を過ごすことは、沢山の、私にとってとても大事なことを教わったし、あなたの生き方はとても素敵だと思います。
シネスイッチ銀座、新宿ピカデリーほか全国公開中
配給:ポニーキャニオン/STAR CHANNEL MOVIES
提供:ポニーキャニオン/東北新社
© 2016 The Last Word, LLC.All Rights Reserved.
http://tsuzurimasu.jp/
*To Be Continued