Music Sketch

音響派ピアノ・トリオはアコースティック楽器で魅了する

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ゴーゴー・ペンギンは、イギリス・マンチェスター出身の気鋭の3人組。ピアノ、ダブルベース、ドラムスを駆使するこのジャズ・トリオは、各自の音楽的蓄積による豊かなアイデアと卓越した技術からユニークな音楽を生み出し、ジャンルを超えた音楽ファンから愛されている。楽曲はもちろん、エレクトロニック・サウンドを奏でているかのような音響の美しさにも心が掴まれる。10月に待望のライヴハウスでのジャパン・ツアーが決まった彼らの魅力をインタビューを通して紹介したい。

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左から:クリス・アイリングワース(P)、ニック・ブラッカ(Ba)、ロブ・ターナー(Dr)

■難しい曲を作っている時はサディスティックな意味で楽しい。

今年2月のブルーノートでの演奏、素晴らしかったです。特に「One Percent」の後半のドラムとピアノのインプロヴィゼイションが見応えも聴き応えもありました

クリス・アイリングワース(以下I):ありがとう。あれは難しい曲なんだ。でも、楽しい曲なんだ(笑)。

—難しい曲を作っている時って、楽しいですか?

I:サディスティックな意味で(笑)。簡単な曲をやっている時は、それはそれで曲の中に迷い込めるから、別の楽しさがある。演奏をすることで曲を複雑にしたり膨らませたりして、バランスを取っている感じだね。

GoGo Penguin 「One Percent (Live)」

今回は最新アルバム『ア・ハムドラム・スター』の曲が中心のステージで、そこに収録されている「Strid」も、ジャム・セッション風というか自由に演奏していましたね。

I:そうだね。特にあの曲はアルバムの他の曲に比べてもそうだよね。ベースとドラムが一緒に演奏しているあたりとか、ドラムの即興演奏のところとかね。

—最新アルバムの話に移ると、最初に「Raven」を聴いて、あまりのカッコ良さに、しばらくこの曲ばかり聴いていました。最初のアルバム『v2.0』では「Kamaroka」、次のアルバム『Man Made Object』では「Smarra」や「Unspeakable World」あたりが気になっていたので、その流れで気に入ったというか。ドラム演奏そのものがインプロヴィゼイションというか、ドラムロールの入り方がかっこいいし、音の作り方も素晴らしい。どう組み立てていったのですか?

ロブ・ターナー(以下T):このバンドを結成する7,8年前にクリスがリーズンというソフトで作っていた1分ほどのアイデアのMP3(音源)をバスに乗っている時に見つけて、そこからその音を真似しようとしてできた曲なんだ。

I:その曲ができた話になるけど、僕はカラスとチェスをするという夢を何ヶ月もの間に何度も見て、しかもいつも負けていた。石の壁がある図書館みたいなところだったんだ。夢から曲を作ることが結構あって、「Garden Dog Barbecue」も昔見た夢から書けた曲なんだ。

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2018年2月8日ロンドンのRoundhouseでの様子。 Photo: Fabrice Bourgelle

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■音にとてもこだわるので、時には電話帳やガムテームも使う。

スネアの残響音がとても良くて、表現力が凄いですね。ステージではクリックを使っていないですよね。

T:リバーブとかレゾンナンス、サスティンに気をつけて、ドラムは会場に合わせてチューニングを変えている。マイクの置き方を含めてジョー(ジョセフ・レイザー)の仕事なんだ。クリックはレコーディングの時は使うけど、ライヴでは使わない。何となく身体に染み込んでいるからね(笑)。

GoGo Penguin 「Hopopono (Official Video) 」

ジョーさんは、プロデューサーとしてもクレジットされているエンジニアですよね?

T:このバンドでは音がとても重要で、ジョーは4人目のメンバーさ。でもインタビューには来ない(笑)。会場のスピーカーから聞こえる音がどういう音になるかということはとても重要だ。聞こえる音というのはアートであり、サイエンスだと思う。そのあたりのことをジョーは僕らが演奏している時に、同時にデスクでリバーブやディレイを掛けなながら、一緒に音楽を作っているようにしてミックスしていく。ハウスエンジニアは僕たちの音楽を知らない人にはなかなかできないからね。

たとえば「Bardo」でのピアノの響きや輝きがエレクトロニカのようで際立っていました。あれも演奏に合わせてその場でジョーが作っているという?

I:そうだよ。あれはリバーブだよね。頭の部分のちょっとシンセっぽいところもそうだけど、実はスタジオでのレコーディングでは音をそうするためにピアノの弦のところに電話帳を入れて音を出した。でもライヴではそれができないのでガムテープでやっている。凄いよね(笑)。僕らが音楽的にやりたいことをジョーは本当にわかってくれているから、アイデアを音にするのは僕らの役目だけど、そこから先はジョーのスキルでああいう音になっている。「Bardo」は最初ロブが“テクノっぽいことをやりたい”感じで考えていたことがああいう形になったし、前のアルバムの「Initiate」は最初とてもダンスっぽいサウンドだったんだけど、それを生楽器でどうやったら良いかというところから始まっていった。ジョーは「何をするのにも怖がらない」と言っていたよ。

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■メンバーの中で一番ユニークなのはベースのニック。

曲を聴いていると、FOUR TETことキーラン・ヘブデンと故スティーヴ・リード(ジャズ・ドラマー)との共演や、E.S.T.などの音楽が頭を掠めるのですが、一方でクラシックの影響も感じます。クリスの演奏はヒーリングミュージックとは異なり、打楽器、コード、メロディというピアノの特性を200%生かした演奏になっていますよね?

I:そうだね。僕の場合、クラシックが基盤にはあるけど、(ヒーリングミュージックにあるような)メロディが他の楽器の上に乗っかるのではなくて、どちらかというと他の楽器とロックインして、その間に自分(の演奏)が行きたい感じさ。たまにベースとピアノで演奏する時があるけど、それも別にダブルになることによって前へ行きたいのではなくて、その2つの音のミックス状態で何か出したいと思ってやっている。ライヴを観にきたお客さんによく言われるのは「3人のうち1人に目が行くのではなくて、こっちに行ったりあっちに行ったりして、結局全部見たくなる」(笑)。だから演奏スタイルも必要に応じては違うものになるということなのかな。

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3人それぞれのパフォーマンスに目が奪われる。ロンドンのRoundhouse(同上)。Photo: Fabrice Bourgelle

まさにその通りで、3人の演奏を同時に見たくなるほど楽しいパフォーマンスです。3人とも卓越したミュージシャンですが、誉め言葉的な意味で3人の中で一番ヘンなのは誰ですか?

I:ニックだね(笑)。

それは演奏を見ていて感じました(笑)。

T:結成時は違うベーシストだったから、ニックが入ってきてからそれまでと違うのがとてもよくわかったし、特に「Smarra」のベースラインはニックじゃないと弾けないし。

I:僕もたまに変わったことをするけど、ニックほど変わったことはしないと思う。褒め言葉だよ(笑)。

ニックは自分の楽器のパートナーとして何故ダブルベースを選んだのですか?

ニック・ブラッカ(以下B):僕が12歳の頃、兄の友達がストーンローゼズのようなバンドをやっていて、それを見てベースがいいと思った。最初は普通のベースギターで、今はダブルベースも演奏するけど、ゴーゴー・ペンギンの曲調だとダブルベースだと思った。ブルーノートのコンピレーションアルバムで、トニー・ウィリムスのトリビュートをレコーディングする時にはベースギターを弾いた。それが最初で興味深かったな。だからたまに弾くことはあるよ。

GoGo Penguin 「All Res」

ユニークな音楽のアイデアはどこから?

B:いろんなタイプの音楽を聴いてきているからね。僕のベースの先生は若い時にドラムンベースのバンドを組んで大会場で演奏したり、ジャズもやっていたりしたのを見てきた。僕はあらゆるジャンルの音楽が好きだし、このバンドに入って2人から影響を受けた点もあると思うよ(笑)。

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■作曲のきっかけになった夢を映像に反映させることも。

“これがやりたかった音楽だ”というような、今のスタイルが最初に完成した曲は?

I:僕にとっては「Kamaloka」。地元サルフォードで、ニックが入った時にジャムしながらできた。アイデアを集めて最初にやった大きな変化は1枚目のアルバム『Fanfares』(2012)。このアルバムを出した後にニックが参加して『v2.0』になったんだけど、「Kamaloka」を作っている時に自信が付いてきたよ。

私も最初に話したように「Kamaloka」はゴーゴー・ペンギンらしい曲だと思っていました。

I:僕はこのバンドの前に違うトリオをやっていて、今のレベルには全然至ってなかったけど、やりたかったことの要素は前のバンドにもあった。でもそれが初めて実現したのは今の3人になってからなんだ。

T:僕もクリスに同意する。覚えているのは長い間スクエアプッシャーのカバーをやりたくて、このバンドに入る前にニックと一緒にやっていたんだよね。それを目指そうとしたグループは何百とあったと思うけど、実際にできた人はいなかったわけで。

B:途中から参加した時は、すぐレコーディングという状況だった。「To drown in You」をスタジオのリハでクリスとロブが演奏しているのを聴いた時に、“これは凄く面白いものができるな”と思ったのを覚えているよ。

180518_gogo_penguin.jpg4枚目のアルバム『ア・ハムドラム・スター』は現在発売中。

ライヴの印象でいえば、ブルーノート東京の時の映像も良かったです。特に「Bardo」が印象的でした。

I:ブルーノートのスタッフがやってくれたんだけどフィーリングが合ったし、インタラクティヴでとても良かった。

B:照明もすごく良く、ツアーに連れて行きたいくらい気に入っていたよ。

I:「Bardo」の映像は映像作家のアンソニー・バークワース=ナイトが制作している。お願いした最初の作品は「Last Words」でアニメーションにして制作した。彼はアイデアが面白くて、「Wash」や「All Res」も担当しているんだ。

GoGo Penguin 「Last Words」

クリスが見た夢を映像にも反映させることはありますか?

I:「Last Words」はそうだね。アンソニー自身もアーティストなので、僕たちが言ったアイデアから解釈を広げて作るから興味深い。「Bardo」は古代エジプトの死者の書からテーマをもらっている。今の人生が終わって来世に行くまでの間の期間をバルドーというからね。曲に興味を持ってくれたら、その奥にあるものもイメージしてもらえたら嬉しいね。

***

アルバムを聴いていても十分に楽しめる音楽だが、何より彼らの魅力はライヴ・パフォーマンス。秋の来日公演を心待ちにしていたい。

■ツアー情報

2018年10月3日(水)
会場:東京 / 渋谷クラブクアトロ
開場:18:00、開演:19:00
SMASH:03-3444-6751
※前売り¥6,800 (スタンディング・税込・1ドリンク代別途)

2018年10月5日(金)
会場:大阪 / 梅田クラブクアトロ
開場:18:00、開演:19:00
SMASH WEST:06-6535-5569
※前売り¥6,800 (スタンディング・税込・1ドリンク代別途)

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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