Music Sketch

小林樹音に聞く、これからのミュージシャンのスタイルとは?

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テクノロジーの進化の影響もあり、映画やファッションなどに比べて変化が著しく速い音楽シーン。音楽そのものもそうだが、アナログ盤やCDといった形態も、今はWAVといったオーディオファイルの形式で語られることが普通になり、ストリーミング配信サービスも日常に浸透してきた。楽器を演奏できなくてもパソコンなどを使ったDTMで楽曲を簡単に作れるし、音楽はますます身近になっている。そのデジタル主流の時代に、若手ミュージシャンはどのように活動しているのだろう。今回はバンドでメジャーデビューした経験を持ちながら、今は個人的に活動の場を広げているベース奏者/トラックメイカー/プロデューサーである小林樹音にインタビューした。

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現在、ユニットsone+JitteryJackalで活躍する小林樹音(右側)。JitteryJackal とは高校生の時に絵を描いていた頃から使っているネーミングという。2018年5月15日 @ 高田馬場 club PHASE  photo: 綺桜シンヤ

■大学4年の時に観たライヴでミュージシャンを志す

樹音さんと私はTAMTAMの取材で知り合ったわけですが、いろいろな活動をされていますよね。まず、そもそも音楽を始めたきっかけを教えて下さい。

「4歳から14歳まで、親の意思でヴァイオリンを習わされていたのが最初。一浪して19歳の時に長崎から上京したんですけど、その前に高校の時の友達からベースを1万円くらいで買っていて。当時はレゲエとかダンスミュージックを聴いていて、ベースはカッコイイ楽器という認識だったので。でも実際に弾き出したのは、早稲田の中南米研究会というサークルに、『19歳にしてはスカとかレゲエを知っているから』って誘われてからですね」

最初のバンド活動は?

「高校の時はデトロイト・テクノやヒップホップなど聴いていたので、学生時代初期はリベラルな気持ちが強かったんです。所謂”大学サークルの雰囲気”に完全には馴染めず、ストイックに練習していましたね。そうしているうちにオリジナルのバンドをやりたいと思って、21歳の頃にTAMTAMを結成しました。そうしたら大学の先輩のDF7Bというディスコファンク系や、共通の友人を通して知り合ったCHIYORIさんのバンドを手伝うようになって」

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ベース奏者としてロックバンドからアイドルまで多岐にサポート。2017年9月7日 @新宿BLAZE photo:タカハシハンナ

卒業の頃には“音楽で生活して行こう”と決めたという?

「大学4年の時に、KAIKOO POPWAVE FESTIVAL ‘10をひとりで2日間観に行ったんですよ。THE BLUE HERB、渋さ知らズオーケストラ、toeとか出ていて、2日目の大トリがclammbonで。ライヴ後に、Nujabesさんが亡くなった年だったこともあって、mitoさんが追悼の曲をかけたんだけど、その時に誰も帰らなくて、会場が揺れていたのを見て感動して、あっち側に自分も立ちたいと思った。それで、就活を辞めてしまった」

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■メジャーデビュー後、多幸感のある音楽を目指すように

トラックは当時どんなものを作っていたのですか?

「初めてCDを買った中学2年の頃は、L’Arc-en-Cielやスピッツを聴いて、その1年後にレディオヘッドやプライマル・スクリーム、その1年後にはニンジャ・チューン系、さらに1年後にはデトロイト・テクノを聴くといった、自分の中でいろんな音楽を聴くのが当たり前になっていて。学生時代も色々な音楽を聴いていたんですけど、変わらなかったのは“カッコイイもの”を作りたいということで。それをとりあえず打ち込みに反映させていって、その中でダブの手法が自分の中でしっくりきて、ダブっぽいトラックを作っていました」

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トラックメイクもベース演奏と同時に大学時代からスタートした。2018年5月15日 @ 高田馬場 club PHASE  photo: 綺桜シンヤ

最初に結成したTAMTAMでメジャーデビューしましたが、そこでの変化はありました?

「元々は暗めの音楽を好んで聴いていたんですけど、そのタイミングで改めてJ-ROCKやJ-POPなどの日本語の歌ものをきちんと聴くようになりました。聴いたら、面白いし、メロディのある歌ってきれいだなと思って。Nujabesも好きだったし、自分が作ってきたものにもキラキラした多幸感、バレアリック(Balearic)=多幸感と自分で言葉を変えているんですけど、それがあったよな、と。とにかく自分はポップなものとストイックなものとの両方にいたし、その真ん中を絶対やりたい、やらないと意味がないと思うように変わりました。今やっているsone+JitteryJackalは極端にわかりやすい例かなと。ビートとかは、いろんなジャンルにアンテナを貼って面白そうなものを持ってくるけど、そこに必ずポップな歌がハマればどんな曲だって聴けると思っています」

TAMTAM「エンターキー」(2014年)

sone+JitteryJackalはどのようにスタートしたの?

「TAMTAMをやめて、新しくTHE DHOLEを結成して始めたけどうまくいかなくて、“バンドって難しいな”と悩んでいた頃に、前に対バンしていたATLANTIS AIRPORTのVoのsonezakiがソロでもやっていて、“一緒にやりませんか”と誘ってくれて。僕自身、打ち込みとか得意になっていたし、2人でライヴをやった時にMARZ(ライヴハウス)のスタッフが“めちゃめちゃいいから、ちゃんとやりなよ”と勧めてくれて。で、soneが弾き語りで作ったものを僕がアレンジャー/トラックメイカーとしてリアレンジしていくスタイルで、2016年に一旦ミニアルバム『SCENES』を作ったんです。ただ当時は、まだ彼女はバンドをやっていたので、あんまりきっちりした活動はしないでおこうという感じでした。その後にサポートでもお世話になっているおやすみホログラムとアイデアを出し合ってコラボしたら面白いんじゃない?ってなって、一緒にミニアルバム『LIFE  CIRCLE』を作って、そこら辺から本腰を入れた活動を始めて、今年はsone+JitteryJackalでフルアルバム『TALE TELLER』を制作しました」

sone+JitteryJackal「東京ジオラマ」(2018年)

『TALE TELLER』、とてもいいですよね。トラックだけ聴いてもハマるし、メロディのポップ感から歌は口ずさみやすいし、何度もリピートして聴いてます。 これは自主制作ですか?

「フジパシフィックミュージックの方が僕らを気に入ってくれて、“でも今はまだ会社で扱うのは無理だけど”って、レーベルの人を紹介してくれたのがNEXTORY Inc.。流通をレーベルオーナーに相談したらスペースシャワーの方に声を掛けてくれて今回は3社の力を借りてリリースしています。今は原盤制作は自分たちでやった方が上がりは大きいけど、売れる枚数が変わってきたらいい機会は増えると思っています」

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■ベース演奏と楽曲制作が相互作用してより面白いものに

自分は、バンドでベースを弾くのも、サポートとして弾くのも、打ち込みで曲を作るにしても、やりたい音楽は近いですか?

「基本、打ち込みでもベースでもアウトプットのやり方が違うだけで、自分の中ではほとんど似てきているなと思いますね。結局、僕はフロアの人にまず踊ってほしいし、感情を揺さぶるものであってほしい。ダンスにもいろいろあるけど、自分にとってもエモーショナルなものでありたいですね」

今は活動の幅がどんどん広がっているので、そこに迷いはないですか?

「いろんなことをやるのは、自分がやりたい音楽活動というより、どこかで僕の演奏や楽曲を聴いてオファーをくれたわけであるから、そこに需要があるのであればきちんと応えたいし、僕の成長に絶対に100パーセント繋がるので、好きなジャンルかどうかといったことで判断したくない。そういう意味で活動に対して迷いはないですね。いっぱいやっているのは、それぞれに可能性が感じられるからですね。例えば、“アイドルって、ステージでこういう動きがあるんだ”とかパフォーマンスで学べたりする。サポートはサポートとして割り切ってやっているけど、例えば楽曲的に相談されたら、樹音節がちょっとずつ出てくる。音のコミュニケーションが多いほど自分を出しやすいから。今サポートしているchelovek.(チェラビェーク)は、新曲では作曲の時点から関わっているし、バンドサポートのつもりであるけど、こうしたらいいんじゃない?っていうプロデューサー的な目線でも関わっています」

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chelovek.のライヴにサポートとして参加している(右)。2017年9月7日 @新宿BLAZE photo:タカハシハンナ

chelovek.「ZWMK」 小林樹音が曲作りから加わった楽曲。

とはいえ、今の樹音さんの活動の中心はsone+JitteryJackalと考えていいですか?

「メンバーであるのはこれだけ。でも、他も全部本気でやっています。自分の音楽が一番鳴っていて、自分主体で動いているという意味ではそうですね」

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■これからのミュージシャンの活動スタイルとは

ドラム奏者のkomakiさんが代表社員として運営しているPLUS GEARにも関わっていますよね。

「親しくなって話しているうちに、“サポート以外にも、音楽でやれることってもっといろいろあると思うんだよね”ってなって。今はクリックアプリの音を作ったり、ベース弾きたい子がいたらレッスンしたり、komakiが困ったことがあれば、いつでも相談してくれればいいし、という関係性。主軸は彼の意思で、プラスギアはもっと活動の幅を広げていきたい思うので、僕はそのチームメイトという感じですね。ビジネスとして駆け出しなので、音楽教育やマネジメントとかも何年後かを見据えてやっているという」

音楽の仕事は全般的に働きやすいですか?

「個々人で違うでしょうが、働きやすい環境は自分で作っていかないといけないかなと思います。僕は楽曲提供といった制作も、ベース演奏もどっちもメインだと思っているんです。演奏が好きな理由はバンドが好きだからですけど、バンドはレコーディングするのも大変だし、1個のものを作るのにすごく時間がかかる。その労力がかかることと関係あるのか分かりませんが、今のUSチャートを見ても、バンドが少なくなっていて、打ち込みが多くなっている。僕はその流れ自体は時代だなと思って。バンドをやるためには時間を作らなきゃいけない。そういう意味で自宅仕事がいいと思うのは、自分のルールで決められるから。制作はちゃんとお金さえもらえたらかなり時間の融通がきくからです。そして、いろんな場所で弾いたベース演奏も、バンドでみんなと練ったアレンジも自分の脳内では自分のものになるので、それは楽曲提供に活かされるし、楽曲提供や制作でやったものもベース演奏に活かされて、双方でフィードバックがある。だから両方できた方がいいと思うんですよ」

プロデューサー的な視点もその狭間で磨かれているのでは?

「ベーシスト兼プロデューサーって多いですよね。ベースはリズムとメロディの真ん中を必ず取らないとならない楽器だし、ルートを制するのもベースだし、歌が鳴っているとか、気づくことが多いからじゃないですか。友人には、『樹音くんは凄い音楽好きなのに、いつも(聴く時は)1個2個くらい引いてて客観的だよね』って言われたんですけど、たぶん楽器を始めたのが遅くて、ずっとリスナーだった期間が長かったからかもしれないですね」

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小林樹音。1987年長崎県生まれ。樹音(じゅね)は本名。ベース奏者であり、トラックメイカーとしても活躍。

生活していくのが大変な若手ミュージシャンが多いですが、どう思いますか?

「みんな凄く頑張っていると思うんですけど、視野を広げたらもっといろんな可能性がありますよね。バンド界隈で知名度はなくても、レッスンだけで稼いでいる方や、CMなどの音源制作に専念している方に会ったことがあります。僕もいろんな界隈で出会った人を見てきて、“自分もちゃんとしたクオリティのものさえ出せれば、仕事には絶対なるんじゃないか”と思えたし。いまは、頑なに“ロックだけ!”、“バンドはこうならなければいけない!”とか決めるような時代ではないし、いろんなことに目を向けたらビジネスになるチャンスはあると思います。もしも好きな音楽だけしかやりたくないのであれば、会社員をやりながらでも良いと思うんですよね。誰に何を言われてもいい、お客さんゼロでもいいから、危ない橋を渡るよりは、昼間働いて、後は自分の好きな音楽に専念したら、音楽という意味では面白いものが生まれると思うから。ただ、偉そうに聞こえるかもしれませんが、音楽だけで生計立てたいのであれば、視野を広げて色んな可能性を模索しなければいけない。そして人との繋がりを大事にしないといけない。僕の場合は、結局、今いろんなこととできているのは人との繋がりでしかないから、人を大事にして、友達がいっぱいいたほうがいいと思いますね。孤高になっていいのは、たぶん天才だけだと思う」

—いま、自分自身は手応えはありますか?

「sone+JitteryJackalでいえば、トラックが褒められるのは100%自分の作業なので、嬉しいですね。やっと30歳過ぎてから自信が付き始めた。物事が変わり始めた。いまは、そのエネルギーをもっと外に出していきたいと思っています」

sone+JitteryJackal→https://sonejitteryjackal.com
chelovek. →http://chelovek.jp
plus gear→https://plusgear.net

*To  Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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