公園を散策しながら楽しむ、第17回東京ジャズ。
Music Sketch
東京ジャズへ行ってきた。以前、有楽町にある国際フォーラム周辺で開催されていた時には何回か行ったけれど、渋谷が会場になってからは初めてだ。NHKホールを中心に、代々木公園の欅並木にもステージが組まれ、その他WWW、WWW Xといった人気のライヴハウスも会場となり、誰もが足を運びやすいエリアになっている。
何といっても、公園を散歩しながら音楽を楽しめるのがいい。開催期間中は、ベテランから気鋭の若手まで国内外の多彩なミュージシャンが登場し、大学生のバンドも多数出演、会場周辺にはフードフェスティバルを想起させるほど屋台が賑やかに並ぶ。各会場での出演時間が重なって全部観られないのが惜しいくらいだ。
今回の目玉のひとつは御大ハービー・ハンコックのライブ。Photo by Reiko Oka ©17th TOKYO JAZZ FESTIVAL
私が行ったのは9月1日の土曜日で、NHKホールでの公演の休憩時間には、時折小雨の降る曇天だったものの、友人と代々木公園の欅並木を散策。そこに設置されたステージ前が賑わっていて、チラ見するつもりが、その時は桑原あい ザ・プロジェクトのアグレッシブなパフォーマンスについ引き込まれてしまった。とても自由で、観客と一緒に音楽が出来上がっていくような雰囲気が野外空間にとても合う。音楽に気持ち良く揺れている老若男女を見ていると、未だにジャズに苦手意識がある人っているのかな、と思えてしまうほどだ。
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■映像と合わせて構築するコーネリアスの世界観。
まず昼過ぎからthe HALL(NHKホール)で開催されたコーネリアスとR+R=NOWを観た。
コーネリアスはいうまでもなく、小山田圭吾を中心としたグループで世界的にも人気が高い。なかでもベックと古くからの友人であることで知られ(フィガロジャポン2009年5月20日号で対談を企画、掲載)、昨秋のベックの武道館公演でもオープニング・ゲストとして出演していた。
この日も映像と併せて独創的な世界を展開し、昨年リリースしたアルバム『MELLOW WAVE』から「夢の中へ」といった曲を披露する一方で、ロックテイストの強い「I Hate Hate」も演奏するなど、いつものコーネリアスの魅力をバラエティに富んだ楽曲からパフォーマンス。R+R=NOWを目当てに来ていたジャズファンには異色に映ったと思うが、どこにいてもオリジナリティの強い存在のコーネリアスゆえ、その我が道を貫く姿勢も格好良かった。
演奏と映像がシンクロすることも魅力の一つであるコーネリアス。Photo:Rieko Oka ©17th TOKYO JAZZ FESTIVAL
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■気鋭のミュージシャンが結集した新グループ、R+R=NOW
R+R=NOWは、ロバート・グラスパーが結成した注目の新グループ。今回最も観たかった演奏のひとつで、そして圧巻だった。楽しかった。観ながら笑みがこぼれるとは、こういうライブかもしれない。何しろステージ上のミュージシャン誰もが笑顔だったからだ。グラスパーに関してはMUSIC SKETCHでも紹介してきたように、自身の活動の他に、ピアノ・トリオやロバート・グラスパー・エクスペリメントなど、様々な形態で活動しているが、もしかしたらこのR+R=NOWが一番自由かもしれない。
「時代を反映させることはアーティストの責務」というニーナ・シモンの言葉から生まれたスーパー・グループには、ケンドリック・ラマーのプロデューサーとしても知られるテラス・マーティン(Syn, Vocoder, Sax)も参加。ひとりだけステージ衣装など佇まいが目立っていたクリスチャン・スコット(Tp)に関しては、彼と同時期にバークリー音楽大学に通っていたという友人が、「彼は在学中から何かと目立っていた」と教えてくれた。
相変わらず爪楊枝をくわえながら演奏するロバート・グラスパー。Photo:Hideo Nakajima ©17th TOKYO JAZZ FESTIVAL
個々の技術が卓越していて、そのソロ演奏を聴いているだけで十分に楽しいし、その個々の演奏に触発されて、他のミュージシャンも独創的な演奏を繰り広げる。特にベース奏者のデリック・ホッジが6分ほどソロ演奏している間、残りのミュージシャンたちはステージ袖に捌けることなく、ドラムの後ろに集まって、楽しそうに身体を揺らしている。それを観て、本当にみんな音楽が好きなんだなぁと、私も一緒に笑顔になってしまった。
変形のトランペットにエフェクトをかけるなど、現代のジャス・シーンを牽引するにふさわしい演奏を披露したクリスチャン・スコット。Photo:Rieko Oka ©17th TOKYO JAZZ FESTIVAL
ステージは鍵盤とドラムスからミステリアスなトランペットへと流れる「Respond」、「Been On My Mind」と続き、繊細なピアノからヴォコーダー・ヴォイスなど美しい旋律に魅了されていく。「How Much A Dollar Cost」の終盤にはドラマチックにホーン隊が加わり、一方、フライング・ロータス主催のレーベル“ブレインフィーダー”からアルバムを発表している異才テイラー・マクファーリンは、シンセサイザーやパッド、ビートボックスなど機器を駆使して途中で独演し、クリエイティビィティに富む世界を築き上げた。ドラムとヴォコーダーの絡みにグラスパーのピアノがさらに絡んでいく場面など、最初から最後まで見せ場が続いた。
(右から2人目)テイラー・マクファーリンなど、いま注目のミュージシャンがグラスパーの元に結集したR+R=NOW。Photo:Hideo Nakajima ©17th TOKYO JAZZ FESTIVAL
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■祖国アルメニアの旋律をジャズに含ませた、ティグラン・ハマシアン。
夜の部の前半はティグラン・ハマシアン。今回の来日メンバーは2014年の来日時のメンバーと同じで、そのサム・ミナイエ(b)、アーサー・ナーテク(ds)とレコーディングしたアルバム『MOCKROOT』(2014)からの楽曲を中心に構成された。デスメタル的作品と評されたアルバムで、コトリンゴとの対談時に、メシュガーやマーズ・ヴォルタなどのロックの影響も語っていたが、トリオの演奏はそれらを想起させるようにアグレッシブに音を畳み掛けていく。
立ち上がって演奏するなど、アイコンタクトしながら熱い演奏を展開したティグラン・ハマシアン。Photo:Rieko Oka ©17th TOKYO JAZZ FESTIVAL
緩急に富み、まさに感情のジェットコースターのような演奏。彼が自在に演奏するフレーズは祖国アルメニアのフォークロアをルーツにしたものが多く、そこに内なる声を思わせるヴォイスを発し、静寂に近づくほどに神秘性を帯びた声も会場の雰囲気を一変させていた。パンフレットに「僕にとってジャズは『可能な限り高いレベルでのインプロヴィゼーション』と同義語」と語っていたが、盟友との息の合ったプレイで、あっという間に1時間強の演奏が終わった。
ピアノ以外にもシンセサイザーやエフェクターを駆使して音を創り上げ演奏するハマシアン。Photo:Hideo Nakajima ©17th TOKYO JAZZ FESTIVAL
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■予定時間を超えて大盛り上がりのハービー・ハンコック。
ハービー・ハンコックは、彼の人柄を感じさせるパフォーマンスだった。彼の気心の知れる敏腕ミュージシャンたちに、R+R=NOWのメンバーでもあるテラス・マーティンが参加。細かいことを書き出したらキリがないが、ギターの音色とは思えないサウンドを奏でるリオーネル・ルエケの魔法のような演奏をはじめ、新次元へと進むパフォーマンスで魅せてくれた。次のハンコックのアルバムはマーティンのプロデュースで制作するといい、今回のライブはその前振りのようにも思えて、とても楽しみになった。
サックス、ヴォコーダー 奏者の他に、プロデューサーとしても手腕を振るうテラス・マーティン。Photo:Rieko Oka ©17th TOKYO JAZZ FESTIVAL
そして、なんともラッキーだったのが、アンコールにハービー・ハンコックを師と仰ぐロバート・グラスパーがステージに招かれ、大きな身体を小さくしながら共演したこと。最初は遠慮がちなグラスパーだったものの、ハンコックが楽器をキーター(肩から掛けるキーボード)に持ち替えて歩み寄り、彼と息を合わせるように演奏していたのが印象的だった。
キーターを弾くハンコックと鍵盤の前に座ったグラスパーの共演に会場は沸きに沸いた。Photo:Rieko Oka ©17th TOKYO JAZZ FESTIVAL
ハンコックは終始サービス精神旺盛で、本人も心から楽しかったのか、当初の終演予定時間を大幅に超える状況となり、アンコール中のやりとりでは、ハンコックが他のミュージシャンに「ソロはなし」と伝えているような仕草も見えて、つい笑ってしまった。
全員Yohji Yamamotoの衣装で登場したハービー・ハンコック(一番左の白い服)と仲間たち。Photo:Rieko Oka ©17th TOKYO JAZZ FESTIVAL
楽器で会話が楽しめるジャズ。音楽の楽しさを体感できるから、難しいことは考えず、またジャズを聴きに行こうと思う。
*To Be Continued
©17th TOKYO JAZZ FESTIVAL