Music Sketch

フレディの生き様を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』

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映画『ボヘミアン・ラプソディ』は、クイーンのファンにとってまるで当時の4人が目の前に現れたかのような、たまらなく魅力的な映画になっている。しかも、フロントマンとしてバンドを牽引してきたフレディ・マーキュリー(1946-91年)の生き様は、エナジェティックかつアーティスティックな面を見せるだけでなく、人種問題やLBGTQに厳しい時代を生きてきたこともあって、音楽ファン以外にも訴えかけるものがある。

サウンドにこだわるレコーディング風景も魅力

映画は最初の一音から興奮させる。映画会社のタイトルバックに流れる音楽からしてブライアン・メイのギターサウンドが加わっているからだ。これは、彼とロジャー・テイラーとが音楽総指揮を担当しているゆえの遊び心だろう。

なんと言っても、クイーン結成前の様子から再現されているのがうれしい。大阪阿倍野市に住むいちファンが日本最初のファンクラブを創設した時から子どもながら会員になっていた身としては、アマチュアだった彼らがどんな様子だったのかずっと思い描いていたからだ。そしていま聴き直してもワクワクする「Keep Yourself Alive」(1973年)など初期の曲がスクリーンに流れ出すと、全身を流れる血がすべてリフレッシュしていくような感覚に襲われる。

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ライブ・シーンが多いのもうれしい。

ブライアン・メイが100年以上前の暖炉の木材を使って制作したオリジナルギターのサウンドは、イギリスの硬貨をピック代わりに使うこともあって、一瞬で彼の音だとわかるユニークな音色を生み出した。その衝撃を耳にした時の感覚はいまなお変わらない。その他にも「Seven Seas of Rhye」(1973年)をはじめとして、メンバー全員が初期の段階からサウンドやコーラスなどに徹底的にこだわっていたことがスクリーンからも伝わってくる。

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(左から)ロジャー・テイラー(Dr)役のベン・ハーディ、ブライアン・メイ(Gt)役のグウィリム・リー、ジョン・ディーコン(Ba)役のジョー・マッゼロ、フレディ・マーキュリー(Vo)役のラミ・マレック。

映画は大ヒット曲が生まれる場面を中心に展開する。もちろんカギとなるのは代表曲のひとつ「ボヘミアン・ラプソディ」(1975年)で、どのくらい当時の音楽シーンでチャレンジングな出来事だったか、明確に描かれている。しかし、個人的意見を言えば、クイーンの名盤といえば『QUEEN Ⅱ』(1974年)を忘れるわけにはいかないので、そこにも少しは触れてほしかった。彼らの長い歴史の中で、それほど重要視されていないのだろうか。デビューアルバムにも収録されていた「Seven Seas of Rhye」は紹介されていたが、『QUEEN Ⅱ』といえば圧倒的にブラックサイドだ。

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バラエティに富んだ楽曲は誕生秘話もユニーク。

とはいえ、ヒット曲が生まれるシーンはどれも楽しい。ちなみに「Another one bites the dust (地獄へ道づれ)」(1980年)はマイケル・ジャクソンがメンバーにシングルリリースを勧めた曲だ。

フレディ・マーキュリーの高音域の声は、前歯のせいだった⁉︎

ストーリーは、フレディの家族や恋愛、人間関係を軸に進んでいく。存命しているメンバーが了承しているとあって、この映画で描かれていることは全部事実だろう。魅了的な人間だった彼を多面的にしっかりと捉えている。彼が取り巻きにそそのかされ、多額の契約金に目が眩みながらソロアルバムを制作する中で、「自分の思うように演奏してくる人たちとよりも、意見を交わし、ぶつけ合いながらの方が魅力的な音楽が生まれる」と思い直すシーンは、バンドの在り方そのものを示していた。

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フレディのソウルメイトと言われたメアリー(ルーシー・ボイントン)も登場。

また、温厚なジョン・ディーコン、知性派のブライアン・メイ、根っからのロックンローラーだったロジャー・テイラー、カリスマ性の強いフレディ。その図式は、映画の中で繰り広げられる喧嘩のシーンでも変わらないので、本当にそうだったのだろう。言い合いのシーンは、苦笑してしまうほど、とてもリアルだ。

昨今、本人の登場するドキュメンタリー映画が多い中で、あのキャラクターの濃い4人を俳優が演じることで築き上げられたイメージが壊れないか心配だったが、それは杞憂だった。確かに最初は違和感があるものの、歳を重ねるごとにかなり似てくる。

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当時を彷彿させるロンドンの街並みも魅力的だ。

いちばん似ているのはジョン・ディーコン。ブライアン・メイも終盤になってヘアスタイルが馴染み、グッと近くなる。美青年として一斉を風靡したロジャー・テイラーのルックスに似た俳優を探すのはさすがに難しかったようだが、最も苦労すると思われたフレディ・マーキュリー役の俳優がどんどん本人に似てきたのには胸が熱くなり、後半はフレディの魂を抱くようにして演じていると思えたほど。フレディの上顎の歯は通常より4本多いそうで、そのため口内が広くなり高音域が出やすかったそうだが、その歯の出具合いも似ていた。

クリエイティビィティにあふれながら生き急いでいたフレディの苦悩と才能は、自分があらゆる点で人と違うことを早くから認めていたからこそ、「人と同じことをやっていてはダメだ」というプレッシャーと常に戦っていた。人と同じことをやれば、自身がそこに埋もれ、生きている意味がなくなってしまう。大好きなアートやファッションも音楽に取り込み、多くの人の心を動かすほど存在感の増した彼は、「ライヴ・エイド」の直前に、長年彼の行動を認めなかった父親からようやく抱擁される。このシーンに共感する人は少なくないはずだ。

最後のライヴ・エイドでのパフォーマンス・シーンが圧巻!

それにしてもこの映画の制作にはどのくらいの歳月をかけたのだろう。細部にわたって丁寧に作られているし、ボブ・ゲルドフなど他の登場人物も本人に似た人を集めているし、なにしろハイライトとなるウェンブリー・スタジアムで行われた20世紀最大のチャリティコンサート「ライヴ・エイド」(1985年)の演奏シーンがすごいのだ。CGを駆使し、当時の映像も使用しているとはいえ、圧倒される。そして、一瞬だけ口の動きが音源とずれている部分はあったものの、他はほぼ完璧と言っていいパフォーマンスぶり。このラストを見るだけでもこの映画を観る価値は十二分にある。

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「ライヴ・エイド」のでのラスト21分間は瞬きをするのも惜しいほど。

私の“クイーン愛”の話は、前にNHK-FMに出演した時に熱く語ったので、長くなるので、またそれはなにかの時に。昨今、ミュージシャンのドキュメンタリー映画が増えているが、『ボヘミアン・ラプソディ』はドキュメンタリー映画ではないものの、心温まる真実が数多く含まれている名作だと絶賛したい。

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アナログ盤はもちろんのこと、当時の音楽誌も大切に保管しています。

映画『ボヘミアン・ラプソディ』のHPはコチラ

ボヘミアン・ラプソディ』 

●11月9日(金) 全国ロードショー
●配給/20世紀フォックス映画
© 2018 Twentieth Century Fox

*To Be Continued

© 2018 Twentieth Century Fox

伊藤なつみ Natsumi Itoh

音楽ジャーナリスト/編集者

『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュース等も。これまでデヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッド等、国内外のアーティストに多数取材。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
Twitter:@natsumiitoh
Spotifyプレイリスト:MUSIC SKETCH

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