Music Sketch

キャンディス・スプリングスの来日公演が間近。

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キャンディス・スプリングスのことを紹介するにあたって、ノラ・ジョーンズの歌声に触発されてシンガーを本格的に目指し、彼女と同じブルーノートと契約したこと、また、あのプリンスが「雪を溶かすほどの温かな歌声」と絶賛していたと記せば、それだけでも興味を持つ音楽ファンは多いはず。

加えて、デビュー・アルバム『Soul Eyes』はジョニ・ミッチェルの公私にわたるパートナーだったラリー・クラインがプロデュース、またスプリングス自身はプリンスはもちろん、ニーナ・シモンやシャーデーの大ファンという。さらに取材してみると、彼女はとても魅力あふれる人だった。11月に来日公演を行う彼女に、2ndアルバム『Indigo』について話を聞いた。

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サッカーやバスケットボールが好きと話す、ナッシュビル出身の29歳。

ニーナ・シモンが21世紀に生きていたら、と、想いを馳せながら制作。

前作に比べて、軽やかになった印象です。
キャンディス・スプリングス(以下S): その通りよ。今回の作品は私の違った側面を紹介していったもので、他のジャンルも網羅していて、いろんなところに連れていっているアルバムだと思うの。私自身がどういう人間なのかということを非常によく表していると思うし、“ニーナ・シモンが現代を生きていていまのテクノロジーを使ったら、どういうことをやっていたのか”、そんなことを示唆するようなアルバムだと思ってる。

「Breakdown」の歌詞で、“Don’t break down on me”と繰り返すフレーズが印象的でした。
S:ありがとう。恋愛の歌なんだけど、そこは相手がその関係性にちょっと終止符を打ちたがっているようなところを“諦めないで、続けましょう”と歌っていて、でも“I will need you now”、“You’re my saving grace”って、自分が謙虚になって、“あなたのことが本当に必要なの”って素直な気持ちで歌っている。曲調は緩やかだけど、非常にエモーショナルな歌詞で、私がいままで使っていないようなパワフルな声域を使っているの。

「Breakdown」

「Peace of Me」の歌詞も好きです。これも共作?
S:そうね。これは盟友といってもいいエヴァン・ロジャーズとカール・スターケンと6年前に書いた。シャーデーがチャネリングしたような曲よね(笑)。しばらく棚に上げて忘れていた曲を練り直してみようとなって、カリーム・リギンス(ドラマー兼プロデューサーで、ポール・マッカートニーやエリカ・バドゥ、カニエ・ウェストなどと仕事)にビートを付けてもらったの。また別のレベルに持っていってくれたナンバーよね。

ドラムのスネアの音がものすごくいいし、ギターの音もちょっとシュギー・オーティスぽい残響音があり、音の処理もややデジタライズされていて、21世紀のシャーデーというか、最新型の素敵な音楽だと思いました。
S:ありがとう。その話をみんなに聞かせると喜ぶわ。ミックスもいい感じになっていると思うし。

前はもっとアコースティックでオーガニックを意識していましたよね。今回のエレクトロニクス感がすごくクールで私の好みだったんですけど、そのアイディアはどこから来たんですか?
S:基本オーガニックというか、アコースティックという部分はプリンスがよく強調していた部分で、私もそうあるべきだと思ったので、前作では意識したわ。でも、今回は違う方向性で持っていってみようかなと思ったのよ。

ショパンを下敷きに、ビートを加えて「Fix Me」を完成。

「Fix Me」は一度聴いただけで耳に残るメロディですね。
S:ありがとう。私はクラシックピアノも好きで、特にショパンがいちばん好き。なかでも『24のプレリュード 第4番ホ短調』がすごく好きで、スタジオで弾いていたら、エヴァンとカールに「これを元に何かやってみたら」と言われて。ニーナ・シモンもクラシック曲を下敷きにしてジャズ・スタンダードナンバーなどやっていたので、私もこの曲を下敷きにしてこの曲を完成させてみたの。

音数は少ないものの、ショパンのせいか、構成が複雑なのも興味深いです。なのに、しっかり世界観が出来上がっているのすごいですね。
S:歌のヴァースは私がわりとアイデアを出していったけど、歌詞や曲に関しては3人でアイデアを出し合っていったから、ヒップホップとジャズとクラシックといったいろいろなものが組み合わさった曲になっている。演奏するのも楽しいけど、結構難しい曲。本当にショパンの曲は複雑なものが多くて、コード進行もそうで、だからハーモニーをつけるのが大変で、その上で歌うのも大変だったわ。少ない音数で構成する大切さはプリンスにも言われていて、自分の中で心掛けていることではあるので、ありがとう、うれしいわ。

前作の『Soul Eyes』を発表したことが自信になって、より自分のオリジナル曲を出していこうと思ったのですか? それとも反省があって、方向が変わっていったの?
S:両作品とも自分の音楽ではあるのよね。前作はラリー・クラインが作っていて、非常に複雑な要素が絡んでいて、いろんな人たちのいろんな意見があって、「この曲を入れたい」「あの曲を入れたい」というのがあった。そこに収録できなかったものがこのアルバムに入っていたりして。今回はより自分が作曲した曲が入って、さらに自分を表現できたアルバムになっているのが大きい。いろんな人たちに語りかけるアルバムになっているので、非常に満足しているしね。もちろん両方とも気に入っているわ。

心身共に、強い女性、自立した人間であることを心掛けて生きている。

いま29歳だそうですが、自分が成長したと感じた曲はありますか?
S:「Breakdown」かな。私は10代の頃からジャズを聴いていて、他のサウンドにチャレンジしたことがなかったけど、この曲はポップ領域に挑戦したし、ジェイミーにプッシュされて私の声域でふだん使わないところを使ってみたから。歌詞もとても意味合いのある内容だしね。

この歌詞を書いたことで恋愛に対して忍耐強くなったとか?
S:私自身はとても強い女性、つまり自立していて、自分の思っていることをちゃんと言えて、自分が感じていることをちゃんと表現できる人が好きなの。この曲はそういった側面を非常に出していったから、他の人たちも共感できるんじゃないかな。“強くあるべきよね”、みたいな。男だから女だからというのは関係なく、「女だからできない」とかいうのは好きじゃないの。だからいろんな人たちへのメッセージになっていると思うわ。

すぐに自分のことを「とても強い女性」って言えるのはカッコイイですね。
S:母も父もわりと独立心旺盛だったから、私も「強く自分自身を持っていなさい」と言われたわ。プリンスにもね。だから、人に何と言われようとあまり自分は気に留めなかったし、自分が信じたことを進めてやってきた。お金を貯めて最初に自分で車を買ったし、自分の仕事も得たし、一生懸命目標に向かって努力するタイプだった。ピアノも教わったり、父からボイスレッスンを受けたりしたけど、独学で曲作りやいろんな音作りをやった。あと、常に強くありたいと思ったのでスポーツもやっていたし、肉体的にも精神的にも強い自分でいるかな、とは思っているわ。

愛車を運転している「Don’t Need The Real Thing」のMV。

スポーツは何が得意なの?
S:サッカーよ。ポジションはフォワード。ストライカーなの(笑)。あとバスケットボールも好き。プレイは荒いかも(笑)。とにかく自分で何でもやるのが好きで、車の改造も自分でやるの。以前は8台持っていたけど、いまは5台。1929年の車もあるわ。(しばし熱い車談義)。

話を音楽に戻すと、インタルードの「Indigo (Pt.1)」がすごく好きです。
S:うれしい! グランドピアノのある部屋で(セルゲイ・)ラフマニノフの曲を弾いていたら、マーク・バトソンが「それにビートをつけたら面白いんじゃない?」って言ってきて、曲の雰囲気が変わったうえに“シャーデーが歌をつけるとしたらどうなるだろう”って考えて歌ってみたり、シンプルにただ単音だけで伸ばしているようなサウンドにしようとしたのよね。とても雰囲気のある部屋で、照明がインディゴカラーだったので、インディゴの空間で自分がどこにいるのかわからないような状況になった。そこからカリームがまた違うレベルの音楽にしてくれて完成し、結果的に2ndアルバムのタイトルになったのよ。

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2枚目のアルバム『Indigo』。

今後の公演日程

【東京公演】
日時:2018年11月27日(火)18:30 open/19:00 start
場所:東京国際フォーラム ホール C
料金:¥8,500(全席指定)
お問い合わせ先:ウド―音楽事務所 tel:03-3402-5999

【大阪公演】
日時:2018年11月28日(水)18:30 open/19:00 start
場所:サンケイホールブリーゼ
料金:¥8,500(全席指定)※入場時にドリンク代別途必要
お問い合わせ先:大阪ウド―音楽事務所 tel:06-6341-4506

公演詳細はこちら

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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