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レディー・ガガ入魂の映画『アリー/スター誕生』

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“スター誕生”というと、バーブラ・ストライサンドを思い出す人もいれば、萩本欽一さんを思い出す人もいるでしょうが、今後はレディー・ガガを想起する人が格段に増えるはずだ。この映画の原題は『A Star is Born』。1937年の同名の映画からの4度目のリメイク作品となり、邦題は『アリー/スター誕生』である。

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アリー(レディー・ガガ)と、彼女の才能を発掘したジャック(ブラドリー・クーパー)。© 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

これはまさしくレディー・ガガのための映画だ。彼女の魅力が余すところなく引き出されている。監督・主演ブラッドリー・クーパー×主演レディー・ガガという組み合わせで、当然ながらブラッドリー・クーパーの演技力、そして歌のうまさにも魅了されるけれど、私はこの映画を観ている間、というか、ガガの情感こもった歌声を聴くたびに「早く彼女のコンサートに行きたい」という思いが募るばかりだった。そして以前取材した時に、映画がとても好きだと話していたことも思い出した。

素の姿を感じさせるほど、主人公アリーに自分を重ねたガガ。

ストーリーは、ある部分までは“エンタメ業界あるある話”。おおよその人には予想のつく展開だろう。けれど、その予想を遥かに上回る熱演が感動を呼び起こし、さらにガガがこの作品のために書き下ろした「Shallow」をはじめとする音楽が放つ熱情、自身の人生を投影させるかのような彼女の入魂の演技が時間の経つのを忘れさせる。そのためブラッドリー・クーパーには、監督としての才能も強く感じてしまった。そもそもこの映画はクリント・イーストウッドが監督をする話があり、その意思をイーストウッドの元で『アメリカン・スナイパー』の製作・主演を務めた彼が受け継いだそうだ。

主人公のアリーには、ガガの人生と被る点が多い。ガガは早くから音楽的才能を発揮しながらも、容姿にコンプレックスがあり、自身で活動するより楽曲を提供するソングライターとして音楽業界で活躍することが求められてきた。また、ダミアン・ハーストといった現代美術家に興味を示す一方で、生計を立てるために自身もクラブのダンサーやパフォーマーとして活動してきた。

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親友のラモン(アンソニー・ラモス)に背中を押され、ステップアップしていくアリー。© 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 

アリーがソロデビューするにあたって契約を交わしたのがガガと同じインタースコープ・レコーズというのがリアルだし、ダンサーを従えてデビューを飾るシーンがあるが、ガガは当初ダンスが苦手だったのは有名な話だ(なので猛特訓した)。また、歌唱力も磨き、トニー・ベネットに大絶賛されるほどのジャズを歌い、実力派シンガーとしての立ち位置を確立したのも記憶に新しい。さらにアリーを観ていて、誠実にひとりの男性を愛し抜くところもガガそのものを想起させた。

以前の取材時にはソフィア・ローレンの映画について熱弁。

私がガガに対面取材したのは、「Poker Face」「Paparazzi」といった大ヒット曲を飛ぶ鳥を落とす勢いで発表していた頃の2009年。メディアを煽動していた渦中でも浮かれた様子はまったくなく、自己プロデュースに長けている人だと感じたし、熱心な返答ぶりには何より真面目な印象を受けた。撮影時にも自分が持ってきたアクセサリーを、スーツケースをひっくり返すようにしてまで見せてくれて、何事にも全力投球の人に思えた。

そして好きな女優について、「女優はほとんど誰でも好きだけど、ソフィア・ローレンが出演している映画はすべて好きよ」と答えていて、映画についてのトークも止まらず、当時からいつかは女優になることを望んでいた印象を受けた。余談ながら好きな男優として挙げていたのはダスティン・ホフマンで、「彼の作品には必ず何か感じさせてくれるものがあるの。特に『レインマン』がお気に入りよ」と、当時答えていた。

デイブ・シャペル他、周囲の人々の存在や演技も魅力。

冒頭に、ストーリーはある部分までは“エンタメ業界あるある話”と書いたけれど、この映画はいろいろな見方ができ、それぞれの心情に共感できるという楽しみ方もある。ガガのファンや音楽ファンは存分に彼女に引き込まれると思うし、成功物語として見ることもできるが、その一方で、主人公ふたりよる“真の愛の姿とは何か”を問う映画として堪能することもできる。私は後者の印象の方が強く残った。

しかも、アリーを見守る父ロレンツォ(アンドリュー・ダイス・クレイ)やアリーの親友といっていいラモン(アンソニー・ラモス)、ジャックの兄ボビー(サム・エリオット)、アリーのマネージャーであるレズ・ガヴロン(ラフィ・ガヴロン)の存在も素晴らしく、周囲の人たちがいていまの自分があることを痛感させるほど、描き方も演技も充実している。彼らの個々の存在感も凄い。

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ジャックと兄ボビー(サム・エリオット)との軋轢に共感する男性も多いのでは。© 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

そして、ジャックの旧友ジョージ・“ヌードルス”・ストーンとして、デイブ・シャペルが登場したのには映画を忘れてビックリした。ごく簡単に説明するならば、多岐にわたる社会的なメッセージ性を含んだ、世界的に有名なスタンダップ・コメディアンであり俳優で、身近なところではNetflixでも彼の番組を見ることができる。映画などでも彼が登場するだけで、作品に新たな意味が加わると感じるほど存在感の強い人物だ。

“名声”と“孤独”というリズムを映画に込めたクーパー。

さて、ヴェネツィア国際映画祭での記者会見でガガとクーパーは次のように話していた。ガガはアリーとの共通項について、「私はあまり容姿に恵まれていなかったから、レコード会社の上層部は私の歌を他の歌手に歌わせたがったけれど、私は戦ったの。私は自分のやり方でやりたかった。常に自分の歩む道は自分で決めたかったのよ。そこがアリーと同じところね」と話し、どんな逆境に置かれても“ありのままの自分”を信じて貫く姿を重ねていた。

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シンガー・ソングライター役同士としてのふたりの熱唱も見どころ。© 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

また役作りについても「映画のスクリーンテストのとき、ブラッドリーはメイク落としを私の顔に置いて、メイクはいらないと言ったの」と明かし、「不安定な状態になるけれど、でもそうすることでブラッドリーは私の中からそういう“脆さ”を引き出してくれた。アリーを演じるにあたって、彼はより私を自由にしてくれたの。ここに100人の人がいて、たとえ99人が(自分を)信じてくれなくても、ただひとりの人が信じてくれればいい。それがブラッドリーだったの」と話していて、いかに絶大な信頼を寄せてこの撮影に向かったかが伝わってきた。

もちろん演者として、クーパーも多忙な時間を縫って、歌やギター、ピアノの練習をものすごく積んだのだろう。ふたりのステージ上での共演は、同じミュージシャンとしての信頼関係からも成り立っていることを想像できる共演になっている。

クーパーはこの映画『アリー/スター誕生』の導きたかった作品の方向性について「僕にとっての名声は“一瞬にして訪れて去ってゆくノイズ”のようなもの。後に残るのは孤独。そんなリズムをこの映画にも持たせたかった」と監督としての視点から話しているが、その余韻も十分に伝わってくる。

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本気のライブシーンも見応え十分。© 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

先日発表されたゴールデン・グローブ賞2019のノミネートで、この映画はドラマ部門で作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、主題歌賞の5部門にノミネートされ、グラミー賞でも主題歌「Shallow」は4部門にノミネートされた。繊維筋痛病という難病と闘ってきたレディー・ガガが、新たにどのような栄光を新たに手にするか、そこにも興味は尽きない。

アリー/スター誕生
●監督・脚本・製作/ブラッドリー・クーパー
●出演/レディー・ガガ、ブラッドリー・クーパー、アンドリュー・ダイス・クレイ、デイブ・シャペル、サム・エリオット
●2018年、アメリカ映画
●136分
●配給/ワーナー・ブラザース映画
12月21日公開
©2018 Warner Bros. All Rights Reserved.
wwws.warnerbros.co.jp/starisborn

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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