Music Sketch

昨年のケシャのパフォーマンスを経た、今年のグラミー賞はいかに。

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2月10日(日)のグラミー賞の発表が近づいた(日本時間の2月11日10時スタート)。61回目を迎え、まず注目されるのは主要4部門のノミネート数が5作品(5組)から8作品(8組)に増えたこと。ジャンルが多様化したことに要因があるという。次に楽しみなのは、司会者にアリシア・キーズが選ばれたことだ。

■アリシア・キーズが司会者に大抜擢!

これまでの女性司会者といえば、ウーピー・ゴールドバーグ(女優)、エレン・デジェネレス(コメディアン/女優/司会者)、ロージー・オドネル(コメディアン/女優/司会者)、クイーン・ラティファ(ラッパー/シンガー/女優)の4名。前者3名はプロ中のプロと呼べる人気司会者であり、クイーン・ラティファも司会の経験豊富だが、カリフォルニア州の結婚立会人資格を持つことから、2014年の第56回グラミー賞で同性婚を含む集団結婚式の立会人になった記憶が新しい。

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第61回グラミー賞のホストを務めるアリシア・キーズ。photo:Getty Images

アリシア・キーズはグラミー受賞歴が15回もあり、女優経験はあるとはいえ、エンタメ気質よりアーティスト気質が高そうに見えたので、司会を担当するとは意外だった。しかし、2016年に「もうメイクの有無にはこだわらない」と公言し、素顔で登場する機会が増え、また2017年1月22日のトランプ政権が誕生した翌日には、ワシントンDCで行われた女性による自由と平等と人権を守るためのデモ「ウィメンズ・マーチ」の際に、マヤ・アンジェロウの著名な詩「それでもわたしは立ち上がる」を読み上げてスピーチするなど、意志を示してきた。そういった一面も考慮されたのだろう。

彼女の父親はアフリカン・アメリカンとジャマイカンの家系、母親はイタリア系スコティッシュ&アイリッシュという。楽曲でもメッセージ性の強いキーズが、MCでどうグラミー賞の場をコントロールしていくか楽しみだ。すでに「私はこれまでアーティストとしてステージに立ってきたので、同じような雰囲気とエネルギーをもたらしたいと思います。世界最高峰の音楽の祭典の司会に選ばれてとても興奮しています。特に、今年ノミネートされているすべての女性たちにも期待しています」と、公式コメントを発表している。

■昨年のグラミーの#MeTooで注目された、ケシャの来日公演は大盛況。

女性たちといえば、昨年のグラミーでのケシャと彼女を支持する女性アーティストたちのパフォーマンスに強く感銘を受けたので、その後のケシャの来日公演を10月に観た。グラミーではプレゼンターのジャネール・モネイが#Time’s Upについて語り、ケシャたちは#MeToo運動を押し出す形になったが、ライブでは多くは語らず、以前と同様に「We R Who We R」にメッセージを込めていた。

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2018年10月1日@Zepp Tokyo。多くのファンたちを鼓舞していたケシャ。photo : Masanori Doi

4曲目という序盤ながら、「この曲は、私のLGBTQアニマルズのための歌なの」と告げ、怒りにあふれたような強い声で歌い、間奏でも「自分らしくいるための、みんなについての歌。そして基本的人権について歌っているの。すべての人はみな、基本的に平等の権利があるのよ!」と観客に呼びかけたケシャ。この曲は、2010年9月にニュージャージー州の大学生が同性愛者であることをインターネット上で暴露されたことを機に自殺したこと、さらに同月に10代のゲイの少年少女4名も立て続けに自殺したことをきっかけに書いた曲だ。

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(同上)ケシャは「自分らしくいるべきよ」と熱唱。Photo : Masanori Doi

ステージでは観客を巻き込んで一緒にパーティを楽しもうと、ワイルドで破天荒な面を見せる、そのスタイルはデビュー時から一貫しているし、取材していてもユーモア満点でとても楽しい人柄だが、質問によっては驚くほど繊細な表情を見せることのあったケシャ。すべてを明らかにしたいま、ステージ上の彼女はあらゆる鎖から放たれたように伸び伸びとし、アンコールで熱唱した裁判後の心境を歌った「Praying」は、ファンにとっていちばんのアンセムになっていた。

当時、気鋭の若手プロデューサーだったドクター・ルークから「デビューさせてあげるから高校を中退してロサンゼルスにおいでよ」と誘われ、2005年、18歳で彼のケモサベ・レコーズと契約したケシャ。その時に6枚分のアルバム契約をしたために、仕事も彼からのDVやセクハラにも拘束され続けた。2014年10月にケシャが訴訟、その後、ケモサベ・レコーズの親会社であるソニーから、彼以外のプロデューサーと仕事をしていいという許可が下りるが、裁判では敗訴した。2016年当時、スポーツキャスターのエリン・アンドリュースの盗撮事件、テイラー・スウィフトがラジオDJにセクハラされた事件と合わせて、エンタメ業界の#MeTooとして報じられた。

■エマ・ワトソンやビヨンセらによって、フェミニズムは変容する!?

#MeToo運動のきっかけとなった本と言われているレベッカ・ソルニット著『説教したがる男たち(原題:Men Explain Things to Me)』によると、2010年にカリフォルニア州アイラ・ビスタの学生による大量虐殺事件の起因が女性憎悪にあったとして、そこから女性たちが男性からの恐怖や抑圧に対する思いを#YESALLWOMANというハッシュタグでSNS上に載せたことが、#MeToo運動への伏線になったという。

ただ、子育てしている母親たちと話していると、被害を告発する#MeTooとは別に、早くからジェンダー・イクオリティ(ジェンダー平等)という考え方を浸透させていく必要性を感じてしまう。エマ・ワトソンが、UN Women親善大使として2014年9月に国連本部で開催された「He For She」キャンペーン発表会でスピーチし、翌年1月にも新しいキャンペーンでスピーチしたが、彼女も「gender equality」と発していたように、#HeForSheより#GenderEqualityのほうがわかりやすい気がする。

そして、時代を経て受け継がれているフェミニズムという思想の定義は簡単には語れないものの、女性拡張論だけではなく、男女同権論もそこには含まれているので、いまはフェミニズム自体も変容していく時期なのかもしれない。アリス・ウォーカーのように白人女性のフェミニズムに対し、「ウーマニズム」と定義した黒人女性作家もいるが、昨今ではビヨンセが2013年発表のアルバム『BEYONCÉ』に収録した「FLAWLESS」で、ナイジェリアの作家チママンダ・ンゴズィ・アディーチェのTEDx「私たちはみなフェミニストになるべき」での発言をフィーチャリングし、また、2014年8月のMTVビデオミュージックアワードでは、3メートルもあるFEMINISTという文字の前でパフォーマンスするなど、フェミニストを公言している(ビヨンセの父親はアフリカン・アメリカン、母親の祖先はネイティブ・アメリカンとフランス人だ)。

私は子どもの頃、ニュース番組などで目にしたウーマンリブ運動のインパクトが強かったため、フェミニズムという言葉にあまりいい印象がなかったが、世代の違うエマ・ワトソンもネガティブに捉えられがちなこの言葉について言及していたので、同じような思いの女性は少なくないと思う。しかし、いまは声を上げる女性がさらに増えたことで、新たな時期を迎えているように思える。これからグラミー賞、アカデミー賞と、セレブリティたちが公に意見を発する場が続く(アカデミー賞は司会者不在が決定)。社会の行く先を、彼女や彼らはどう語るのだろうか。そういった面からも、アリシア・キーズの司会やショーそのものをじっくり楽しみたいと思う。

「生中継! 第61回グラミー賞授賞式」

2月11日(月・祝)9:00より、WOWOWプライムにて独占生中継(同時通訳)
2月11日(月・祝)22:00より、WOWOWライブにて独占放送(字幕版)
www.wowow.co.jp/music/grammy

*To Be Continued

伊藤なつみ Natsumi Itoh

音楽ジャーナリスト/編集者

『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュース等も。これまでデヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッド等、国内外のアーティストに多数取材。2018年より日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
Twitter:@natsumiitoh
Spotifyプレイリスト:MUSIC SKETCH

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