Music Sketch

再放送前に、女性の祭典のようだった第61回グラミー賞を振り返って。

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今年のグラミー賞は、アカデミー賞同様に“多様性”を銘打っていたが、その一方で去年の反動もあってか、女性のノミネート数が増え、イベントそのものは女性の祭典のような展開になっていた。

■ミシェル・オバマ元大統領夫人がオープニングに登場。

第90回(2018年)アカデミー賞で主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドが、会場にいる女性の候補者がいかに少ないかをスピーチで熱弁していたけれど、それはグラミー賞も同じ。しかもこの問題に関し、グラミー賞を主催するレコーディング・アカデミーの会長ニール・ポートナウが「女性たちがこの業界で成功を収めたいのなら、もっと努力をした方がいい」と前回の授賞式後に言ったものだから、大反感を食らっていたのだ。

一方ここ数年、主要部門で本命とされていたビヨンセやケンドリック・ラマーが受賞できなかったこともあり、今回は早くからラマーやドレイク、チャイルディッシュ・ガンビーノなど、ブラック系のアーティストたちが不参加表明をしていた。全米チャートを見ればわかるように、特にヒップホップの人気の高さは明らかなのだから、差別と思われても仕方がない。

結局のところ、今年はアリシア・キーズが司会を務め、冒頭からレディー・ガガ、ジェイダ・ピンケット=スミス(ウィル・スミスの妻。「マトリックス」シリーズや海外ドラマ「GOTHAM/ゴッサム」で人気)、ミシェル・オバマ元大統領夫人、ジェニファー・ロペスが登場。ミシェル・オバマがモータウン・ミュージックへの思いを語り始めると、大歓声で発言が中断されるほどだった。

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写真左からアリシア・キーズ、ミシェル・オバマ、ジェニファー・ロペス。

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『ゴールデン・アワー』で年間最優秀アルバムほか、計4部門を受賞したケイシー・マスグレイヴス。

■主要2部門を受賞したチャイルディッシュ・ガンビーノは不参加。

最後に発表された最優秀アルバム賞は、カントリー歌手ケイシー・マスグレイヴスの受賞と、女性の受賞で幕を閉じた。前回でパフォーマンスを披露していたチャイルディッシュ・ガンビーノは、今回「This is America」で最優秀楽曲賞と最優秀レコード賞を受賞。これはうれしく、高く評価したいが、マスグレイヴスでバランスを取ったようにも感じた。もちろん、投票するNARAS(ナショナル・アカデミー・オブ・レコーディング・アーツ・アンド・サイエンス)の会員にマイノリティの人々を中心に約900名加えて、2万5000人にしたことからの変化もあるだろう。

白人主義のアメリカに対するメッセージを凝縮した「This is America」のMVは最優秀ビデオ賞を受賞。監督は日本人映像作家のヒロ・ムライ。ガンビーノはすでに音楽界から引退を表明、ドナルド・グローバー名義の俳優や作家などでの活動に専念するそう。

そもそも、2011年までは最優秀ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス賞をはじめ、カントリーやR&B、ラップなどが男女別の部門に分かれていたのに、統一してしまったため枠が狭まったといえる。今回は主要4部門に限ってノミネート数を5から8に増やしたが、結局受賞するのは1組である。アカデミー賞は各国の受賞のバランスが考えられていたと思うが、正直言って賞はバランスを考えて授与されるものでもないし、特に音楽は基準が難しい。以前も書いたが、しっかりと賞の在り方を考えるべき時が来ているように思えた。

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最優秀ラップ・ソング賞を受賞し、欲しかった賞をやっともらえたと話したドレイク。

それは、当初不参加と噂されていたドレイクが最優秀ラップ・ソング賞を「ゴッズ・プラン」で受賞した時のスピーチにも表れていた。「受賞は予想外」と語り出し「この機会に音楽を志す子どもたちに伝えたい。音楽の世界では世間の評価がすべてを決める。多くの人に理解されない時もあるけど、自分の曲を人が歌い、故郷のヒーローになった時点で、夢が叶ったんだ。多く一般の人々が雨や雪が降るなか、ライブに来てくれるのなら賞をもらわなくても一流だ(大意)」。そこからbut……と言いかけた時に映像が切れてしまった。彼は、最後に何を言いたかったのかとても気になる。

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H.E.R.は「最優秀新人賞」「最優秀アルバム賞」ほか、計5部門にノミネートされていた注目株。

H.E.R.(ハー)は最優秀R&Bアルバム賞でも最優秀R&Bパフォーマンス賞でも、レイラ・ハサウェイ、トニ・ブラクストンらのベテラン勢を抑えて2部門受賞。これもうれしかったが、H.E.R.は心底驚いていて、最優秀R&Bアルバム賞の際には「最初に言いたいのは信じられないっていうこと。アルバムじゃなくてEPだから、ここに立っていていいのか〜(略)」と話していた。ノミネートの時点でこれらの基準も明らかにしておくべきではないかと思う。

■ドリー・パートンやジェニファー・ロペスの熱演が光る。

アレサ・フランクリンの追悼パフォーマンスや、ドリー・パートンのメドレー、ダイアナ・ロスの“ベリー・スペシャル・パフォーマンス”なども今回の目玉。なかでも、(多少手を加えているだろうが)美肌や驚くべきナイスバディはもちろん、まったく衰えを感じさせない素晴らしい歌唱力で魅了した73歳のドリー・パートンには目が釘付けになった。

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73歳とは思えない健在ぶりを発揮した、中央白い衣装のドリー・パートン。

そんななか、いちばんオイシイところを持っていったのは、モータウン60周年のトリビュートを唄い踊りきったジェニファー・ロペスだ。せり上がってきた時は緊張気味だったものの、約6分間10曲ほどのメドレーに乗って、4着の衣装替えに、ピンヒールのニーブーツも途中で履き替える気合いの入れ様。スモーキー・ロビンソンとのデュエットではきつく抱き寄せられて苦笑していたが、後輩アリシアとの絡みはほんの一瞬で済ませ、衣装に風が当たってお尻がチラ見えする瞬間を見事大成功させると、そこからは誰も彼女を止められない。

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49歳とは思えないキレッキレのダンスと歌を披露したジェニファー・ロペス。

恋愛の達人でもある彼女らしく、女性の魅力もたっぷり振りまきながら、最後はニーヨの甘い歌声も搔き消すようなキレッキレな華麗なダンスを披露。何回見ても笑ってしまうほどすごく、すべてがパーフェクトだった。唯一ミスがあるとしたら、両手を握りしめて一心に彼女を見つめていたモータウン創設者のベリー・ゴーディの名前を、肝心のところで言い忘れたことかも。パフォーマンス後の観客の目の輝きがハンパなく、個人的にも何かと元気付けられそうなこの6分間は完全保存版にすることにした。

マイリー・サイラスにも魅了された。ショーン・メンデスのピアノの弾き語りから心を掴まれたが、そこから彼がギター片手にメインステージへ向かう先にマイリーの姿があり、その華やかな立ち振る舞いや、包み込むようなおおらかな歌いっぷりに、天性のスター性があふれていたからだ。アリアナ・グランデのマンチェスターでのチャリティ・コンサートをリアルタイムで観た時も思ったが、パフォーマンスを見るたびに、胸に響くものがある。芸能一家に生まれ、若くして売れたためにさまざまな経験を生き抜いてきたこと、またパンセクシュアル(好きになる対象にセクシュアリティを条件としない)を公言した勇気も、彼女の歌を本物にしているのだろう。

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14歳から国民的アイドルだった時代の寵児マイリー・サイラス(左)は、まだ26歳だ。

ドリー・パートンと「ジョリーン」をハモって歌った時の、相手を立てながら盛り上げていくパフォーマンスも素敵だった。マイリーの父親がカントリー歌手のビリー・レイ・サイラスとあって、パートンはマイリーの名付け親としても知られる。ふたりとも共演が楽しくて仕方がないように思えた。

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レディー・ガガは、ブラッドリー・クーパーと共演した「Shallow」が、「最優秀ポップ・パフォーマンス(デュオ/グループ)賞」を受賞したほか、計3部門受賞。

■新人ながら、会長に向けてチクリとコメントしたデュア・リパ。

実際、パフォーマンスはすべてよかった。去年注目していたクロイ・アンド・ハリーやH.E.R.には音楽同様に強い個性を感じたし、冒頭を飾ったカミラ・カベロらラテン仲間によるカラフルな群像劇風ステージや、勢いに乗るカーディ・B、女優としても大活躍中で、パンセクシュアルというジャネール・モネイのパフォーマンスも練られた内容だった。アコースティックからスタートしたポスト・マローンの歌も聴き入ったし、トラヴィス・スコットの時にジェイムス・ブレイクが登場したのもうれしかった。書き出すとキリがない。

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2台のピアノを使い、“Songs I wish I’d Written”メドレーを演奏したアリシア・キーズ。イントロ当てクイズのようで楽しめた。

アリシアはパフォーマンスでは見せ場はあったものの、存在感はメイクと同じで薄く、引き立て役に徹していたように思えた。ただ、多くのアーティストと壇上で言葉を交わすことができたことに加え、結婚当初は略奪愛と叩かれていたが、夫スウィズ・ビーツとステージに立てて、とてもうれしそうだった。

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15歳でゲイであることをカミングアウトし、LGBTを支援するフェスも開催しているブランディ・カーライル。2児の母だ。

最後に、デュア・リパの発言を。最優秀新人賞を受賞してとても驚いていたものの、「たくさんの素晴らしい女性アーティストと一緒にノミネートされて光栄だわ。今年、私たちは本当に頑張ったと思う」と会長に向けてチクリと言った後、印象的なスピーチを残した。

「これだけは言わせて。人と違うストーリーやバックグラウンドを持っているというのは特別なことなの。“普通”にならずに自分のルーツに誇りを持って。出身地がどこだとか、何を信じているかとか気にしなくていいの。あなたには夢を追いかける権利があるの。夢に向かって努力する人を心から尊敬するわ。私は心から信じる。本当に(私のことを応援してくれて)ありがとう」。こういうメッセージがスッと出てくるところも、彼女が若者からの支持が厚い理由だろう。

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デュア・リパはセイント・ヴィンセントと姉妹の様な雰囲気で共演。初々しかった。

ぜひFIGARO.jp読者は、衣装も含め女子力満載の第61回グラミー賞を要チェックして下さい。

 「第61回グラミー賞授賞式」

3月31日(日)午後3時より、WOWOWライブにて字幕版をリピート放送
www.wowow.co.jp/music/grammy
 

*To Be Continued

伊藤なつみ Natsumi Itoh

音楽ジャーナリスト/編集者

『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュース等も。これまでデヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッド等、国内外のアーティストに多数取材。2018年より日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
Twitter:@natsumiitoh
Spotifyプレイリスト:MUSIC SKETCH

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