
音楽が喪失感を優しく包み込む、『サマーフィーリング 』
Music Sketch
最近、試写で観ていた作品がどれも濃厚なインパンクを放っていたせいか、逆にこの『サマーフィーリング(原題:Ce sentiment de l'été)』が印象に残った。爽やかな映画とは言い難い。なぜなら、主人公ロレンスの最愛の恋人サシャが急死ししたところからストーリが始まるからだ。でも観終わった後には、不思議と清々しい余韻が残る。
ロレンス役のアンデルシュ・ダニエルセン・リーは『パーソナル・ショッパー』(2016年)、ゾエ役のジュディット・シュムラは『女の一生』(2016年)などに出演。
■時間の流れを追いながら、人生の光や再生を描いていく。
ついさっきまでともにベッドを温めていた仲なのに、突然いなくなるという空虚感に襲われる。時間が経つにつれ、次々と登場する人物と主人公との関係性が紐解かれていき、同様に空虚感を抱えたサシャの妹ゾエと時間を共有しながら、少しずつ人生の光を取り戻し、再生させていく。でも、決してお涙頂戴的な内容でないのがいい。
3年間という期間を描いたことについて、ミカエル・アース監督は説明する。「喪に伏すというのは短期間のことではないと思うからです。時間の流れ、物事が進行していく様、それらが登場人物たちにどのように作用するか、ときになかなか気づかないけれど、連続して起こっていること、何かにひるんだり、躊躇したりする時間……そしてときには、突発的な行動をしたり、心が揺れたりする瞬間を撮りたいと思うんです」
ロレンスはサシャとの記憶を辿るように、ベルリン、パリ、ニューヨークと移動する。
この映画に惹かれたのは、舞台がベルリン、パリ、ニューヨーク……と、自分の好きな街をまるでロレンスと一緒に訪れているかのような気分に浸れることから。そして音楽だ。このサウンドトラックを聴けば、寂しさや儚さ、束の間の喜びといった、ふとした心情に揺れ動くロレンスの気持ちを共有できるだけでなく、なんともいえない浮遊感を味わえる。映像の雰囲気も好きだが、スクリーンに重い空気が漂わないのは音楽による点が大きいと思う。
■アコースティック系ほか、心に沁みるサウンドプロダクション。
音楽を担当するのはマルチ・ミュージシャンのDavid Sztankeによるタヒチ・ボーイ(結成時はタヒチ・ボーイ&ザ・パームトゥリー・ファミリー)。David自身はフランスで音楽を学んだ後、ニューヨークのジュリアード音楽院でジャズを勉強し、パリへ帰国。現在はバンドにプロデュース、映画音楽など活動は多岐にわたり、私がその名前を知ったのはエミリー・シモンやミッキー・グリーンとの仕事や、ジョン・カサブランカス(エリート・モデル・マネジメントの創始者のひとりで、ストロークスのジュリアン・カサブランカスの父親)のドキュメンタリー映画の音楽を担当していたことからだ。
ピクシーズやラーズ、アンダートーンズ、ベン・ワットなどの楽曲の使い方のセンスはさることながら、気づくとチェロの重厚な響きがオルゴールの音色に変わっていったり、深夜のパーティの喧騒から夜明けのカモメの鳴き声へとごく自然に変わっていたり、心情や情景が目に浮かぶようなサウンドプロダクションも秀逸だ。小ネタで言えば、日本でも人気のあるマック・デマルコが本人役で出演し、ライブシーンも披露している。
友人のバースデー・パーティあたりからロレンスに笑顔が戻ってくる。
ミカエル・アース監督は最新作『アマンダと僕』(6月22日より公開)が、昨年の第31回東京国際映画祭で東京グランプリと最優秀脚本賞を受賞。『サマーフィーリング 』はその前作となる。脚本はアース監督と、マリエット・デセール(『聖少女アンナ』)が担当。ふらっと観に行くのにオススメの映画だし、サントラはくつろぎたい時にぜひ。
●監督/ミカエル・アース
●脚本/ミカエル・アース、マリエット・デゼール
●出演/アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ジュディット・シュムラ、マリー・リヴィエール
●2015年、フランス・ドイツ
●本編106分
●7月6日(土)よりシアターイメージフォーラムほかにて公開
https://summerfeeling.net-broadway.com/
©Nord-Ouest Films - Arte France Cinéma - Katuh Studio - Rhône-Alpes Cinéma
*To Be Continued