Music Sketch

オダギリジョーとT・ハマシアンが語る、『ある船頭の話』の音楽。

Music Sketch

前回の監督としてのオダギリジョーへのインタビューに続き、新作『ある船頭の話』に音楽面でもこだわりを発揮したオダギリと、彼たっての希望で音楽を担当した、アルメニア出身のティグラン・ハマシアンに映画の音楽について話を聞いた。

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脚本・監督に加え、音楽制作にも加わったオダギリジョー。写真:根本絵梨子

■「自分が描いている映像に、彼の音楽がどんどんハマってきた」(オダギリ)

――ティグランさんに音楽を頼もうと思ったきっかけを教えてください。

オダギリジョー(以下O):知り合いからいいPVあるよって、ティグランの「マルコス&マルコス」を教えてもらったんです。アニメーションで作られた暗い世界観だったんですけど、この脚本の世界観と似てると思って。だから、「この人だったらこの映画を理解してくれるんじゃないかな」という直感があったのと、台本を直している作業中もティグランの曲をかけていたら、自分が描いている映像に、彼の音楽がどんどんハマってきて。それで「これはあるかもな」と思って、メールや台本を送って、とても興味を持っていただいたので、やりましょうということになりました。

ティグラン・ハマシアン「Markos & Markos」

――音楽を入れてほしい場面は、全部オダギリさんの方で決めて?

O:そうですね。ただ、「このシーンにはいらないんじゃない?」って彼が提案してくれたこともありました。だから、100%僕が決めたということではなく、彼のアイデアも大事にしましたね。あと、彼は日本映画も結構好きで、僕が初めて彼のアルメニアの家に行った時も、『山椒大夫』っていうDVDが置いてあって。

――ティグランは溝口健二監督の映画、好きですよね。以前インタビューした時に話していました。

O:そうそう。映画に対しても、ティグランは自分の好みがはっきりしているだろうし、基本、映画に音楽をつけることに関しても、たぶん僕と似たような感覚を持っている人だと思ったので、すごくやりやすかったですね。音楽は最小限の方がいいっていう意識でふたりは共通していたので。

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■「エレクトリックな部分はふたりで楽しみながら作りましたね」(オダギリ)

――一緒に曲作りをしたのですか?

O:(一緒に決めたのは主に)方向性ですね。最初にティグランが簡易的に繋いだ映像を観て、なんとなく思い浮かんだ3パターンの曲のようなものをデモで送ってもらって。それを僕がぶつ切りにして、「ここのフレーズは映画のここに使える」「これはここに使えるかもしれない」って映像に切り貼りしたものを何パターンか作ったんですよ。それを彼に渡して、結果的にふたりで削ぎ落としたり深めたりしていって。

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細かく話し合いながら作業を進めるオダギリとハマシアン。

――オダギリさんのEP『BLACK』(2006年)に収録されていた「GR. FOR THE FILM」がちょっと頭を掠めました。

O:あの曲も確か、園子温監督の映画に提供した曲で、映画のために作ったんです。僕の中の映画音楽というのはああいう方向なんでしょうね。だから一応(ティグランに会う時に)アルメニアにも持っていきました。自分の作った作品だから、もしよかったら聴いてくださいって言って(苦笑)。

――クレジットを見ていたら、ベースの松永誠剛さんと、オダギリさんもギターを弾いていらして。それはトイチが見る夢のシーンのあたりですか?

O:あの辺のノイズとか、亡霊にかかっているノイズとか、だからギターを弾くというよりはノイズですね。ギターで作ったノイズをちょっとパソコン上で加工したりして、ギターに聞こえないぐらいのレベルにしてSEとして使ったりもしています。

――楽しんで作業されたのでは?

O:はい、そういうのはもともと好きなので。ティグランにもエレクトリックなものが好きな一面があるから、ふたりで楽しみながら作りましたね。今回、エレクトリックサウンドはそんなに使わないことにしたんですが、レコーディングの現場にティグランがエフェクターを持ってきていたから、ちょっと空気を変えるために入れたりして、本当に刺激的で楽しい作業でした。

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■「ティグランは原始的な、人間の根源にあるものを目指していた」(オダギリ)

――亡骸を森に戻すシーンの映像は圧倒的で、音楽も山中に入るにつれてグッと胸に迫るので、心に残るシーンのひとつになりました。

O:あの場面の音楽はティグランが「これにしたい」と決めた曲でした。唯一と言っていいと思います。実は違う曲を僕はセレクトしていたんです。

――2曲の違いは何だったんですか?

O:彼は原始的な、人間の根源にある音に興味があると思うんです。

――そうですね、この間のアルバムもそうでしたし。

O:そういう意味でも、あのメロディはとても普遍的で、このシーンに絶対ぴったりだからっていうことで、「じゃ、そっちにしましょうか」って、決定しましたね。ただ、あのシーンこそ僕がすごく細かく指示を出して、「何秒何コンマからピアノを出してほしい」とか、「ここのタイミングで曲のピークを作ってほしい」とか、曲の構成から彼の口笛が出るタイミングまで決め事を作って、同時にすごく細かく指示した曲でもありました。

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手前から、山中のシーンで打ち合わせるトイチ(柄本明)、オダギリ監督、仁平(永瀬正敏)。

――ほかにも好きな曲はありますが、特に2回目に観た時はエンドロール前の音楽がとても響いて、温かい気持ちになりました。

O:ありがとうございます。ティグランとは、ヴェネツィア(国際映画祭)で会おうね、ちょっと乾杯しようって話していて、一緒に大きなスクリーンで観たいなと思っているんです。

――実はロサンゼルスでのレコーディングに立ち会ったのが昔からの友人なんです。彼女にも宣伝しておきますね。ありがとうございます。

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幻想的なシーンにティグラン・ハマシアンの音楽が合う。

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■「手紙と台本を読んでこの映画の音楽を作りたいと思った」(ハマシアン)

ティグラン・ハマシアンにはメールインタビューを行った。

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現代ジャズシーンの最先端を行く、アルメニア出身のピアニスト、ティグラン・ハマシアンが初めて映画音楽に挑戦した

――最初、この映画にどういう印象を持ちましたか?

ティグラン・ハマシアン(以下H):最初の印象は、この映画は僕が共感できるものになるだろうということ。いわゆる「ハリウッド」的な映画音楽を作ることに興味はないし、オダギリジョーが最初の提案のときに書いた手紙に強く心を動かされたんだ。基本的にこの手紙と台本を読んでこの映画の音楽を作りたいと思ったんだけど、本当に美しい映画ができたから、僕の直感は間違ってなかったね。

――日本の映画の音楽を作曲するにあたって、何か日本の音楽を参考にしましたか?

H:日本の音楽風なのは「The Boatman」のメロディーのコーラスでなんとなく「平調子」をベースにしたくらい。 ジョーが本当に日本の伝統音楽らしいサウンドトラックにしたいと思っていたら、ほかの人に依頼したと思うんだ。日本の能管という横笛と琴を使うことも考えたけど、音楽のスタイルが違う方向性なのに、変に無理やり入れたくなかった。 ある意味、音楽を「日本的」ではなく「異世界的」にしたかったんだよ。実は全体を通してアルメニアらしさをまったく反映させなかった最初の作品なんだ。 自分自身と自分の癖からも離れた曲を試みた。これは『ある船頭の話』の映画の世界から来る音楽なんだ。

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■「ロマンティックな側面もあって、希望的なところのある音楽を」(ハマシアン)

――チェロのような弦の音使いが印象的でした。不穏な気配も温かみのある音を生み出すのにも使われていますが、なぜチェロにしたのですか? すべて自分で演奏したのですか?

H:僕以外に録音に参加したミュージシャンはふたりだけ。「Processional」と「Changing time 3」でコントラバスを演奏したのは松永誠剛。 もうひとりのミュージシャンは、「The Ghost」で不気味なサウンドを作成したオダギリジョー。僕は弦オーケストラが好きなんだ。どんな場面にでも合うわけじゃないけど、シーンの繋ぎとして非常にうまくはまったから使った。このサウンドトラックで大規模な合奏の音が必要な時に使ったのは、自分の声を重ね録りして作った合唱か弦オーケストラ(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの編成)だね。

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自然や時の流れと対峙する、トイチ(柄本明)の生き様も見ごたえがある。

――今回、口笛を使うことが多かった気がしました。

H:口笛は非常にプライベートな音で、このプライベートな感情を音楽で見つけたいと思った。口笛をピアノソロと一緒に使ってトイチの孤独を強調するような感じにしたんだ。それにはロマンチックな側面もあって、夢を見ているような、希望的なところがあるよね。

 

■「プレッシャーのあまりに、千パターンも試して選んだ曲」(ハマシアン)

――イメージを具現化するのが難しかったのはどの曲ですか?

H:実は、最も難しかったのは、亡骸を森に運ぶシーン。印象の強いものを作るのは僕には非常にプレッシャーで、プレッシャーのあまりに千パターンも試して、やっとのことで選んだのが映画で流れたバージョンなんだけど、決めてから実際に音にするまでまた何日もかかったんだ!

――まさに、そのシーンの音楽が素晴らしくて、ストーリーや映像をより引き立てていたと感じました。オダギリさんから、この時の音楽にティグランさんがとてもこだわっていたと聞きました。どういう思いがあったのでしょう?

H:非常に強烈なシーンだったから、場面に沿うように、大げさにドカーンと盛り上げすぎて台無しな音楽にならないように苦労したよ。

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レコーディングはロサンゼルスにあるエンジニアのスタジオで。ハマシアンの両親もLAに住んでいるそうだ。

――アルバムに収録された「Deconstructed Image 1」はどのように作ったのですか?

H:この曲はスタジオでそれぞれのシーンのために作ったけど、結局使わなかったループ素材をすべて組み合わせてみたら形になったんだ。すべての音をくっつけてから即興のピアノ演奏を重ねたよ。

――オダギリジョーさんとコラボレーションした印象を教えてください。

H:ジョーと仕事ができて本当によかった。彼の映画から実際に観てとることができるけど、彼は美しい人間だね。彼は僕にたくさんの自由をくれて、僕が下した選択もとても信頼してくれて、 そのことは本当に感謝しているんだ。この映画と向き合うのは僕にとってものすごくクリエイティブな時間だったよ。

――どのシーンがいちばん好きでしたか?

H:ジョーは僕のいちばん好きなシーンをカットしちゃったんだ、なんてね、冗談さ! うーん、難しいな。 森のシーンはすごくいい、胸にジーンとくる。 最後のシーンで、トイチが物質的に全財産を犠牲にすると同時に、とても思い入れのある家を犠牲にしているところもとても好きだな。

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『ある船頭の話のオリジナルサウンドトラック『They Say Nothing Stays the Same』(9月13日発売)

●衣装(オダギリジョーさん):
ジャケット¥140,400、シャツ¥59,400、パンツ¥86,400/以上すべてイッセイ ミヤケ シューズ/スタイリスト私物

●問い合わせ先:
イッセイ ミヤケ tel:03-5454-1705

『ある船頭の話』

●監督・脚本/オダギリ ジョー
●出演/柄本明、川島鈴遥、村上虹郎、伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優、笹野高史、草笛光子、細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功
●撮影監督/クリストファー・ドイル
●衣装デザイン/ワダエミ
●音楽/ティグラン・ハマシアン
●配給/キノフィルムズ
●9月13日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
http://aru-sendou.jp

©2019「ある船頭の話」製作委員会

※この記事に掲載している商品・サービスの価格は、2019年9月時点の8%の消費税を含んだ価格です。

*To Be Continued

stylisme:TETSUYA NISHIMURA, coiffure et maquillage:YUKI SHIRATORI (UMiTOS)

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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