Music Sketch

京都の寺で着想を得た、デヴェンドラ・バンハートの最新作。

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デヴェンドラ・バンハートの最新アルバム『MA』は、京都滞在中に着想を得たことから制作に取り掛かったという。これまでフリーフォークやサイケデリックロックなどで描きたい世界観を自在に音楽に表現してきた彼は、現在はペインティングでも才能を発揮。その佇まいから、日本でも“デヴェ様”と呼ばれるほどの人気ぶりで、最近はファッション界でもコラボレーションするなど、常にチャレンジしている。そして今回のアルバム『MA』は、彼にとって新たな扉を開けた記念すべき一枚になったという。早速、インタビューしてきた。

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親日家としても知られるデヴェンドラ・バンハート。初の詩集『Weeping Gang Bliss Void Yab-Yum』と、東日本大震災後に来日した際の体験からインスパイアされた作品を集めたインク画集『Vanishing Wave』なども発表している。

■“母性”と日本語の“間”を意識した、新展開のアルバム。

――どういう時間がいちばん落ち着きますか?

デヴェンドラ・バンハート(以下:B):瞑想している時だね。

――このアルバムの制作が京都からスタートしたのも、そこに関係しているのでしょうか?

B:京都のお寺で1時間だけ使わせてもらって、レコーディングしたんだ。とても自然に囲まれた環境で、壁がないからすべてがこれまでの録音作業と違って、外側と内側からのハーモニーを構築できた。僕らはそこでレコーディングを全部終わらせたいくらいだったよ。そこでこのアルバムの方向性が決まったから、カリフォルニアの自然の中でオーガニックの楽器を使って完成させた。前のアルバムはシンセサイザーを使ったけど、今回は本物のチェロやバイオリン、ピアノを使ったからとてもオーガニックなんだよね。

――曲の内容も変わったように感じます。

B:そうだね。これまではいつも架空の人物になりきって曲を書いていたけれど、今回は僕自身のいろいろな気持ちを歌った曲ばかりだ。とにかく、シンセサイザーを使っていないのは大きいね。

――アルバムタイトルもその辺りの意味を含んでいますか?

B:そうだよ。『MA』は、世界の言語の中で最も母親を意味する言葉として使われている。加えて、哲学的に日本語の「間」には、音楽でいうところの「間」を大事にすることが当てはまる。自分がすごく追求したいと思っていることだから、この言葉を使いたかった。

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バンハートと、作品を飾った自宅のアトリエの様子。

――このアルバムを作ることによって、自分の中のものを吐き出して、生きやすくなったということはありますか? 私は「Ami」から「Memorial」の流れの中で、失くした人のことを考えてしまいました。

B:わかるよ。「Memorial」は喪失であり、mourning(哀悼)だから。僕がこのアルバムに込めた感情のひとつが喪失だった。前のアルバムを作った後に自分の親しい友達ふたりと、僕の実父が亡くなったので、このアルバムには“喪失から立ち直る、受け入れる”、といったプロセスが反映されていると思う。

――そのほかには?

B:恐怖と希望だね。

――というのは?

B:(僕の母国である)ベネズエラはいま、毎日、2000もの人が国を出ようとしていて、すでに400万人ほどが出て行った。皆は「いい加減そろそろ変わるだろう」という希望を持っているものの、なかなか変わらないことに対する不安がある。その状況に、1950年代のチベットと重なるものがある。しかも中国にしてもベネズエラにしても、政府の人たちは何事も起きてないかのように、「これは人民の解放だ」と言ったり、ベネズエラの政府も「大丈夫だ」と言ったりしている。状況は人々にとって何も改善されていない。

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■大きな意味で、母性というものがアルバムのメインのテーマ。

――それは、今回のアルバムのテーマになっている母性にどのように関係しているのでしょうか?

B:どの曲も母性にたとえあれるテーマがあるし、それこそ自分の中に母性というものがあるよね。自分は子どもがいるわけではないけれど、自分が想像する自分の子に対する母性を表現しているもの、子どもにこういうふうに育ってほしいという思いを歌ったものがあるし、ベネズエラは自分にとって母親のような存在だから、母国への思いもそう。あと「Calolina」という歌は、音楽は自分によって母親のような存在なので、自分をいろんな場面で救ってくれたことに対する感謝の気持ちとして歌っている。そういう大きな意味で母性というものがアルバムのメインのテーマになっているんだ。

――ブラジルのミュージシャン、シコ・ブアルキの「カロリーナ」?

B:そうだよ。素晴らしい曲で、有名なブラジルの曲として、カエターノ・ヴェローゾをはじめ、多くの人がカバーしているよね。

――では、あなたの理想の母親像とは?

B:おそらく理想より究極、突き詰めれば、母性、母親というものは無償の愛に行き着くのではないかな。だから、その無償の愛というものが自分の中、あるいはほかの人の中、あるいは自然の中にも見いだすことができたら、ある人にだけ自分の母親というものを求めずに、自分の周りにはたくさんこんなに母性があふれているんだということに気付くんじゃないかと思う。

――ところで、細野晴臣さんへ捧げた曲「Kantori Ongaku」ですが、このミュージックビデオのアイデアはどこから?

B:LAにいるとても才能豊かなジラフシスターズとのコラボレーションなんだ。話し合いながら、誰かが「馬が欲しいよね」って言って、「せっかくだったら小さい馬」、「だったら仔馬でいいんじゃないの?」とアイデアを出し合って、髪の毛を辿っていくというアイデアになって、楽しくやっていったよ。

1分30秒あたりに、チャリティーの情報が流れる。

――音楽で表現したかったことと映像で表現したかったことは近いのですか?

B:大好きな細野さんへのオマージュでありつつ、アルバム全体でベネズエラへの自分の愛などを訴えているから、この映像の一瞬のブレイクのところで、ベネズエラのチャリティーの情報を流していることが自分にとって重要な部分なんだ。人間は都合よくいろいろなものを忘れて、見出しにあると「ベネズエラは大変だね」、「チベット大変だね」ってなるけど、見出しから消えると皆忘れてしまう。そういうことを皆に忘れさせないためにこのようにしたわけだけど、とてもよかったと思う。

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■音楽活動と絵を描く作業は二毛作のようなバランス。

――今回もアルバムのアートワークを手がけていますが、アートにはどういった面の自分が出やすいですか?

B:絵のほうが音楽よりも、自分の捉えたいと思っているものを捉えていると思う。このペインティングは(アートワークを指しながら)、アルバムで表現したかった「母性」であるとか「空間という間」であるとか、こういう暗い無のところから希望とも受け取れる花が出てきた。歌いたかったことの発想をこの絵は捉えているけれど、音楽ではまだ表現しきれていないように感じる。だからってやめるわけにはいかないし、継続して作り続ける、弾き続けるしかないんだよね。音楽って自分にとっていちばん楽しくないゲームであり、いちばん楽しい拷問みたいなものだ。

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中のアートワークには、チベット仏教で重要な六字真言のマントラと、自身に火をつけて抗議の意を示したチベットの僧侶の名が記されている。

――では、絵は楽しいですか?

B:二毛作みたいなもので、音楽をずっとやっているともう見たくないような気持ちになるから、その代わり半年間違うこだわりを持って絵と向き合っていると、充電されて音楽と向き合えるようになるんだ(笑)。

――今回はどのような作業で進めたのでしょうか?

B:最初に自分の環境の中からインスピレーションが来る。そこからひたすら言葉を書き、そこから言葉にぴったりの音楽を作っていく。アートワークは最後だね。

――最近は洋服の共同プロデュースも手がけているそうですね。

B:洋服というのは建築に近い。空間がその人の考え方やその人の創造性に影響を与えることが結構あると思う。ある意味、母性を感じる服もあると思う。着心地がすごくよくて、温かみを感じる服や、なんとなく懐かしい感じを醸し出す服もある。あとは服によってはフィットの仕方や、見た目でその人の考え方や創造性にものすごく影響を与えるものもある。そういう意味ですごくおもしろいと思う。だからこのコラボレーションに関してはコンセプトとして、「仕事にもお寺にも着ていける服」というのがあるんだ。

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NYのブルックリンの服飾デザイナー、アレックス・クレーンとコラボレーションして製作した服。

――お寺はあなたにとってスペシャルなもの?

B:そうだよ。救済場所であり、すごく自分たちが落ち着ける場所であったりするからね。聖なる場所で、その国々によって宗教は違えど、イスラム教ではモスクがあり、キリスト教だと教会があり、そこへ行くといちばん心が安らいで落ち着いて瞑想できるという。アメリカには仏教のお寺は少ないけどね。

――いつ仏教徒になったのですか?

B:数年前。ネパールでチベット系の坊さんに連れられて仏教徒になったんだ。

――それなら京都のお寺でのレコーディングが至福の時だったという話にも納得できます。

B:ありがとう。またできることなら、あの場でレコーディングしたいね。

*To Be Continued.

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